上 下
22 / 45
壊れた祝福者

逆転

しおりを挟む


 何日経過したかさっぱり分からないが、なんだろう、完璧にぶっ壊れるような状態なのに俺は壊れないままでいる。
 あの夢は毎回見て、死にたくなる。
 なのに子どもの俺の声が「嫌だ」と泣き喚くのが聞こえる。

 ぶっ壊れてるし、おかしくなってるのに、なんでこういうところだけアレなんだよマジで!!

 正常なのか、異常なのか、よく分からない。
 死にたいって俺の願望とそれを「嫌だ」と駄々こねる子どもの俺。
 最初は何とかうるせぇ黙れとか思うことで抑えつけれた「子ども頃の俺」は、今じゃあ手が付けられなくなった。

『リアンに連れて行ってほしかった』
『愛してほしかった』
『リアンの傍にいたい』
『リアン何処』

 泣き喚く泣き喚く。
 五月蠅いし、黙らないし、黙れとか思うと余計喚きだす。
 ただ、誰かが触れてると喚き声はすとんと消える。
 まぁ、つまりだ――俺が何か液体注入されているらしい時間、すっげぇ五月蠅い。

 それが一日に三回もだ。

 この声聞きたくないから本当、死ぬかどうにかしたい、マジで。
 ああ、また五月蠅くなった。
 死にたいと思うと更に喚き声が酷くなるんだよ……!
 暗闇で触られてる感触とかそれくらいしか分からないだけの方がマシだ!!
 この声が五月蠅くて俺はもう嫌だ!!

『うそつき!!』

 ああ、もう、うるせぇ!!

『本当は死にたくなんかないくせに!!』

 本当に黙れ!!


 ああ……本当に、キツイ……
 何で「子ども頃の俺」に色々言われなきゃならないんだ……
 今までとは違う意味できつすぎるぞこれは……
 この状態、どうにかして欲しい……

 うん……俺の方から何とかしようとしたけど、声は出ない、だから思ってるだけ。
 体が動かない、指一本動かせない。

 ああ、クソ、少しでもいい、誰でもいいから俺のこの状態を終わらせてくれ!!


 だ れ か


 口が動いたような気がした。
 すると、口を触っていた手が、するりと口から離れた。


「――ニュクス、起きて」


 声が聞こえたと同時に、唇に、何か指とは違う感触を感じた。

 ドクン、と音が鳴った。

『好きなひとにくちづけされたら、ねむってるやつはおきなきゃいけないんだぞ』

 うるせぇよ。




 光りが眩しくて、「痛い」と感じた。


 久しぶりに見た、リアンの部屋の天井。
 あと、リアンの顔。
 不安げな表情をしているが、最初あった頃とか、俺がかなりぶっ壊れて酷いことしてた頃とかと比べると、明らかに良くなっているのが何となくだけど分かった。

「――」

 あ、駄目だ、声でねぇ、またか畜生。

 体を動かそうとするが――ほんの少し体を起こせたがすぐさまぼすんとベッドに倒れこんだ。
 ずっと体を動かさないと動かせなくなるというのを思い出した、前もあったがコレ前以上に酷いわ本当。
 そういや、半年眠ってる……というかアイツと会話してて、目を覚まして、またすぐ意識失って、それから……どれくらいたったんだこれ?
「ニュクス、無理を、しないで、いい」
 少しばかり、昔のリアンに、ほんの少しだけ戻ったような気がした。
 だからと言って甘えられねぇけどな。
 そんな資格ねぇし。

『まだそんなこと言ってる』

 うるせぇよ、本当。
 起きても五月蠅いとか本当勘弁してくれよ。
 あーそれにしても俺どれだけ動けないつーかアレな状態だったんだ?
 あ、扉の開く音がした。
「リアン様、お食事を――」
「……邪魔を、しない、で、くれ。ニュクス、がようやく、起きて、くれた、のだ」
 あ、この声マイラか。
 うーん、そういう風に冷たく言わなくてもいいんじゃないか?
「申し訳ございませんリアン様」
「――」
 ああ、やっぱ声でねぇや。
「……ああ、すまな、い。そう、だな、そういう、ふう、に言わなくても、良かったな」
 あれ、もしかして聞こえてる……わけないか、ただの気のせいだよな。

 まぁ、いいか。

 なぁ、動けるようになったら、俺ここから追い出してくれないか?
 散々傷つけてきたような俺に、アンタの傍にいる資格なんてないだろ?
「――」
 口は動くけど声はでない。
 けれども、リアンは前みたいな、非常に不安定な状態になった。
「嫌だ、嫌だ、嫌、だ!! お願い、だ、ニュクス、私、から、離れ、ないで、くれ。傍、にいて、くれ、嫌、だ。君が、いない、のは、嫌、だ!!」
 縋り付いてくる。
 嫌だ嫌だと、俺の「言葉」を拒否する。


 まぁ、此処に来て最初にやらかしたのはリアンの方だけど、まぁそれ以上に酷いことしたの俺だしな。
 まぁ、やらかしたのが原因で俺の隠してたのが出てきて、んで色々あって俺は最後の誰にも知られないように厳重に「鍵」をかけていた「昔」を思い出して、この様だしな。

 そりゃそうだ、今まで受けてめてくれる奴と会えなくなるんだ。
 そのことを「忘れる」か「封印」しないと、吐き出せない苦しみに耐えられなくなる。
 だから、子どもの俺は「鍵」をかけた。
 家族に、知られないように。
 家族に、負担をかけないように。
 自分が傷つかないよう「鍵」をかけた。
 そしてもらった物――あの宝石の事、宝箱に入れたが、今まで開けたりした宝箱を、俺はその宝石を入れてから一度もあけていない。
 思い出さないように、宝箱もあけない様に無意識にそうしてたんだろう。
 ああ、そうだな、誰かがあの箱に触ったら、俺は普段俺を殺そうとしてきた連中以外には見せない位、感情的になって箱に触るなと怒鳴ってた。

 それくらい、大事で、同時に思い出さないように、無意識にそうしてた。

 壊れたリアンを支える事は今の俺にはできないし、壊れているのが表に完全に出てる俺を、俺自身がどうにかすることはできない。
 壊れてるのが心だけならいいんだけど、体の方も現在ボロボロだからなぁ、声はでねぇし、ロクに動けねぇし。
 本当、どうしようもない。


 とりあえず、俺が目を覚ましたので、少しずつ体を慣れさせようと、スープ見たいな液体のがだされた。
 何も食べてないのが長期間続いたから、普通の食事だと胃袋が無理、という事でこういうのになった、まぁ栄養面はちゃんと補ってるらしいが。
 それをマイラが俺に食べさせようとしたら、リアンが酷く彼女を威嚇した。

 予想としては、どうやら他の者が俺に触るが酷く「嫌」なのだろうと思った。
 自分に他の者が触るのはどうやら、前と違って我慢できるのか、慣れたのか分からないが、今度は俺に誰かが触るのが非常に「嫌」なのだろう。
 まぁ、まだ相変わらず調理された食事は食えないらしいが。


 食事を終えたらしいリアンが口を布で拭ってから、俺を抱き起す。
「すま、ない、また、せた、ね。ほら、お願い、だか、ら、口を、あけ、て」
 薄い琥珀色の液体をすくったスプーンを俺の口に近づける。
 何とか口を開けると、口の中に薄い味の液体が入ってくる。
 非常に薄いので何と言えばいいのか分からない、美味いとは言えない。
 が、普通の食事はまだできないのだ、仕方ない。
 俺は液体を飲み込んだ。

 あ、無理。

 気持ちが悪くなった、吐き気が少しばかりある。
「――」
 ああ、もう、本当声がでないのって不便だな、できた事ができなくなるって言うのは本当やってられない。
「マイラ、ニュクス、は無理、らしい。……嫌、だが、点滴、の、用意、を」
「畏まりました」
 マイラが出ていくと、リアンはスプーンを置いて、俺を大事そうに抱きしめる。
「……あの、時、連れて、いけば、よかった、傍に、おけ、ばよか、った」
 あの時、ああ俺が子どもの時か。
「君、の、家族、も、なん、とか、せっと、く、して、つれて、くれ、ば、君、は、こんな、ふう、になら、なか、った、のに」
 無理だろ、流石にリアンの国を頼るというのも、母さん達は考えない。

 変えられない過去、治っていっているように見え、だけど何処か歪んでいく。
 変えられない事実、壊れてるのが表面化して、最後の大事なものも触れなくなって、死にたくても死なせてもらえなくて。

 他の連中の言う「普通」や「正常」から大きくずれた、俺達。

 ああ、何でこんなに「悲しい」んだ――





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

何故あなたを好きなのかわからない

福猫
BL
猫専門の画家、千絵とホストクラブ癒やしのオーナーでホスト、亮の恋物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...