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壊れた祝福者

まるで人形のように

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 どれだけ時間経ったんだろうな。
 わりと経った気がするけど、俺の死にかけてる体の方の時間がどれだけたったかはさっぱり分からない。

 問いかけへの答えを出さないままぼんやりとしている。

 偶に「体」を見るとヒビが入ったり、消えたり、傷口ができて「血」が大量に流れたり、まぁ「体」への変化はそこそこあった。
 まぁ、そんだけ、俺は特に何も思わない、だって痛くもなんともねぇし。

 偶にアイツも居なくなる。
 居ても居なくても別に其処迄気にしないからどうでもいいんだけどさ。

 それにしても時間の流れというかよく分からない。
 酷く遅く感じる。
 ロクに動いてないからそれもそうかと、納得させる。
 ただ、此処に居る間たまに「意識」が途切れる。
 うん「眠る」じゃないくて、途切れる。
 その間隔が短くなってる気がする。

 後、何かアイツの明らかに焦ってる、何を焦ってるンダ?


『――気が進まない、だがどうしようもない。私の手でもどうしようもないのだ』
 ナニ言ってルンダ。
『このまま此処にいるだけではお前の魂が壊れる、肉体に戻せば免れるが、心が壊れる可能性が高い。どちらか二択』
 死ヌッテ選択しハ?
『そんな状態で死んでみろ、魂が一瞬で消えてなくなる。ああ、この愚かな私を憎め、ニュクス、お前を救うことなど出来ぬ無能な神を――』

 文句ヲ言いたカッタケド、無理みたいダ。


「……」
 目を覚ますと、俺の視界にはもう見慣れた治療室の天井が入って来た。

「陛下、お目覚めになられました!!」

 何か声がするけど、何も感じない。
 体を動かそうと思ったけど動かない。
 まぁ、いいか。

 王様が俺の顔を覗き込んだ。
「――其方が持っていたのかあの石を」
「……昔貰っタんダヨ」
 何かうまく喋れねぇな、まぁいいか。
「……そうか、そうだったのか。あの石、どのような意味を持つか、リアンは言ったのか?」
「婚約者二渡スもの、ラシイな、確カ」
「その通りだ」
「アノ石、どうシタ?」
「……リアンが手放そうとせぬ、誰が言おうと、其方にもう一度渡すのだと、聞かぬ」
「……ソンナ資格、俺にハ無いヨ。トコロで、俺、ドレ位目覚め無かっタ?」
「――半年」
「……微妙ダナ」
 長いと言えば長いが、あっという間に過ぎると言えば短くもなる位の時間。
「……非常に永く感じたぞ、一日中目が離せぬ、突如前触れもなく呼吸が止まる、心臓が止まるなど頻繁に起きた」

 あ、本当死にかけてたのか、こっちでも。

「……リアンはどうしてル?」
「……最初はまだ会話が成立していた、だが今は石を肌身離さず持ち、其方の名前をずっと呼び続けている。其方の名前を出してなんとか食事などはさせているが……」
 先ほどまで、何も思わなかったのに、なぜか少し悲しくなった。

 俺の事なんか、もう忘れてしまえよ。
 アンタにはもっとふさわしい奴がいるはずだ、俺は穢れて醜い。
 そして、ぐちゃぐちゃに壊れている。

「――目覚めて、動くこともままならぬ其方に頼むのは心苦しいが――世話はできなくとも良い、リアンの傍にいてくれぬか?」

 駄目だ。
 俺は、傍にいたらいけない。

 そう思うのに、壊れた頭の中で子どもの声がする。
 離れたくないと泣き喚く声。

 ああ、五月蠅い。
 俺の気持ちも知らないで。


 傷つけて、傷つけて、苦しめて、苦しめて、挙句忘れてたんだぞ?
 今更どの面下げて会えと?

 散々歪んでたのを受け止めてもらってたのに、それが再発したら暴力振るって傷つけて、苦しめて、拒絶して、犯して、どうしろって言うんだよ。


 視界がぼやける、声が遠くなる。
 声もうまく出なくなってくる。
 俺の意識はそのままぶつんと途切れた。




 リアンに会いたい。
 リアンに会えない、会っちゃいけない。

 ああ、本当、最悪だ。
 あんなに酷く扱って、疎んで、憎んでいたのに。
 思い出さないよう鍵をかけていたその中身が、今も好きだったとか恋してたとか。
 最悪だ。




 誰か触っている、今まで何も感じなかったのに、触られているのが分かる。
 今、俺、何処にいるんだ。
 抱き着かれてる?
 誰だ、俺に抱き着いてるの?
 ああ、くそ、何も見えない。
 何も聞こえない、触られてるのだけは分かる。

 本当、いい加減にして欲しい。
 終わりにするなら終わらせてくれ、頼むから。


 かなりの日数が経過して、漸く触っている奴の触り方で俺は日中か、夜か位の区別がつくようになった。
 ただ、どこに俺がいるのかは相変わらずさっぱり分からない。
 ベッドの上なのか、それとも床の上なのか、全く分からないが。
 寝かせられているのは分かる。

 触ってる奴に関しては、何だろう、触られてると落ち着く。
 触られてると落ち着く、あとたまにひんやりとした物を唇につけたり、手に握らせようとしているのも分かるようになった。

 朝、首筋に多分唇か、それを押し当てられる。
 それから抱き着いたまま、体の色んな箇所に触ってくる。
 頭、頬、瞼、手、胸元。
 触ってる奴が俺を触ってない時がある、多分それが食事する時間。
 最初は何も感じなかったけど、何か液体を俺は体に注入されてるらしい。
 注入が終わると同時に、また触られる。

 あと、これも最初は何も感じなかったけれど、多分夕方あたりかな?
 その時間帯になると、俺は体を拭かれる、あと髪の毛も何か洗われてる、頭洗うのは毎日ではないけど。

 そして夜になると、朝の時のように首筋に、多分唇を押し当てられてから抱きしめられて、そのまま触っている奴は動かなくなる。
 それに合わせる様に俺の意識はお眠り状態に入る。


 後アイツが全く俺に話しかけなくなったと思ったら、同じ夢を頻繁に見る様になった。
 子供の俺が、リアン――昔のリアンにだけ感情をぶつける夢。
 昔のリアンとのやり取りが何度も夢になって出てくる。

 マジでキツイ。

 懐かしいとかじゃなくてさ、あの時点でぶっ壊れて歪んでおかしくなってたのを昔のリアンにだけぶつけてたんだよ。
 リアンは全部受け止めてくれた、再開の約束をした。
 あの時立場的に来れなくなったんだろう、王子だし。
 ああ、リアンは全部覚えてて、それで――
 なのに俺は――
 ああ、嫌な夢だ、俺が実父と同じく醜い存在だって再認識させられる。
 下手すりゃそれ以上だ。

 苦しくて、たまらない。




 目を覚まさぬ祝福の子に我が子は幾度も首筋への口づけを繰り返し、体に触れ、声をかけ続ける。
 だが、自発的な行動ができるようになったのを喜ぶなどできるはずもない。
 
 我が子は目覚めぬ「妻」に、縋り続けている。

 大昔、どこかの国の姫君が眠りの魔法をかけられ、愛する王子の口づけによって目覚めたというが、これはそんな綺麗な話ではない。

 彼の御方の話では「自壊とそれを妨害する拮抗状態が続いている為起きれなくなっている」との事らしい。
 薬も、術も、何も効かぬ我が子の「妻」に、私は何もすることはできぬ。
 ただ、二人が衰弱せぬよう世話役をつける位しかできない。


 ああ、神よ、我が子と貴方様の「御子」が何をしたというのです。
 何故、このような状態になるのですか――




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