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あの時の約束

世話役再開、昔の夢

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 色々あって、俺は王子様の御世話係に戻ることになった。
 その間色々検査された、検査だけでも異常は分からない。
 精神的な所は相変わらずみたいだし。

 俺は、俺の事が分からないまま、ぶっ壊れてるのは分かるんだけどな。

 王子様の部屋に行くと、王子様はベッドの上で丸くなっていた。
 起きないだろうと思いながら、付き添いで来たマイラが扉を閉めて出て行った。
 扉の音に、王子様は体を起こした。
 白に近い金色の髪の隙間から、金色のうつろな目が、一瞬で見開かれた。
 ぼんやりとした表情が一瞬で変わる、必死な顔になって俺に近づいてきた。
 その様子が見苦しいし、鬱陶しくて――あとよく分からない何かがぐるぐるしてて気持ちがあんまり良くはない。

「にゅ、く、す」

 俺の名前を呼ぶ。
 やっぱりいい気分はしない。
 縋り付くみたいに、俺のズボンを掴むのも止めて欲しい、できれば。

「……止めろ、俺のズボンを掴むな、離せ」

 自分の言葉なのに、他人が言っているように聞こえる。
 王子様は俺の言葉に従って、手を離したが、懇願するような顔で俺を見上げている。

 その態度に、俺の心の中がぐちゃぐちゃになる。

 俺は王子様を無視するように、椅子と机のある場所へ行き、椅子に腰をかける。
 気分が悪くて仕方なかった、無理だったのかと思いながらも、俺の心の中に「約束を破るな」という事だけは残ってるのが原因か「世話をしなければ」という考えは消えない。
 かなり壊れておかしくなってても其処だけは変に「残ってて」やらなければならないという思いになる。
 と言われてても、今の俺ができるのは可能なだけの世話だけだ、他の世話をしろと言われてもできないだろう。

 とりあえず、食事の介助はできた、薬を飲ませるのもできた、風呂に入らせて体を洗うのもできた、着替えさせるのも何とかできた。

 できただけで、体力というか精神的な疲労感が酷かった。
 あまり横になりたくないベッドに倒れ込む。
 寝心地のいいベッドなのに、上質な肌触りのいいはずのシーツなのに、俺には生臭い匂いのするべとついた不快なベッドに感じた。
 だが、他の場所で寝ると、王子様がベッドで寝ようとしないので仕方ない。

「……にゅくす」
「……うるせぇ」

 本当、他人の言ってる言葉のように聞こえる、自分の言葉なのにな。
 正直俺は休みたかったが、不快感が酷い上、薬がまだ効いてくれないので寝れない。
 頭が酷く疲れてるってのに全然眠気が来ない、薬を変えてもらうべきかと考えていると、不快な手の感触に俺は閉じてた目を開ける。

「……」

 綺麗な手のはずなのに、俺には薄汚い欲塗れの手に見えて仕方なかった。

「……何だ、俺は寝たいんだ。邪魔するな」
「おね、がい、だか、ら……だき、しめ、て……」
「……」

 不安げな表情、俺からすると酷く忌々しい表情。

 そうだよな、王子様。
 アンタは此処ならなんでも許されてる、何でもしてもらえる。
 皆壊れたアンタには優しい。
 でも――

 俺の「壊れた心」を、隠していた蓋をこじ開けたアンタに、俺が優しくすると思うか?
 だったら、頭が花畑にもほどがあるよなぁおい!!

 ああ、抱きしめてやるよ。
 踏みにじってから。


「い゛あ゛あ゛ぁ゛!!」
 慣らしてない、リアンの尻の穴に突っ込めば、リアンは苦鳴を上げてシーツを掴んだ。
「痛いのが嫌だってなら止めるぜ、そんかわり一人で寝ろ」
「や゛だ……や゛め゛な゛ぃ゛で……」
「じゃあ、俺の事満足させろよ、一人だけよがって気持ちよくなるなよ」
 背中を爪でひっかきながら言うと、リアンはわずかに頷いた。
 腸壁が蠢く感触がする、でも、気持ち良いとは相変わらず思えない。
 何か出っ張ってる箇所を押しつぶすように、腰を動かしてやればリアンは口を必死に閉ざして、体を震えさせる。

 そんなんでバレてないとか、馬鹿か?

「だから、一人だけ気持ちよくなるんじゃねぇって言っただろう」
 形の良い尻を強く叩くと、締め付けが増す。
「ご、め゛な゛さ、い゛……あ゛、ぁ゛あ゛!!」
 びくびくと痙攣している腸壁をえぐるように突いてやると、またイった。

 一人だけ気持ち良くなってイってるのが分かると俺は容赦なく体を引っかくなり、尻を叩くなりした。
 顔をみると殴りたくなると思ったから、うつ伏せ状態のまま。
 叩くなりして、リアンの言葉を聞くと俺のソレは反応するのか、しばらくして漸く精液をリアンの腹の中に吐き出した。
 ずるりと引き抜く。
 奥で吐き出したのか、精液は垂れてくる気配はない。

 手近にあった布で尻を軽く拭いてやる。

 王子様はぐずぐずと泣いたまま、嫌だって言うなりすりゃいいのに、なんで俺な訳?
 わっけわかんねぇ。
 ああ、でも約束は、守らないと。

「……さっさと来い」
「……ぅ……」
「抱きしめて欲しいって言ったのはアンタだろ、いらねぇなら俺は寝るぞ」
 そう言えば王子様はよろよろと動いて俺に近づいて、俺の腕の中におさまる。
 気持ち悪いが「約束」したなら、守らないと。
 王子様が俺の腰に手を回す感触、気色悪いけど、我慢はする。
 少しして、漸く薬の効果が出てきたのか眠気がやってきた、俺はその眠気に任せて目を閉じた。




 気が付いたら森の中にいた。
 何だ、これ、夢か?
『おい、いたぞ!! 殺せ!!』
 あー……この森覚えがある、母さん達とはぐれて、俺を殺そうとする連中に見つかって逃げてた時の奴だ。
 何歳ぐらいだっけ?
 まぁ、とりあえず逃げるわ、夢で殺されるのに現実で生きてるとか嫌だからな。
 どうせなら現実でも死んでくれよ、俺。

 逃げて逃げて、あ、そうだそうだ、行き止まり。
 周囲囲まれて子どもの俺は絶体絶命……あれ、じゃあ何で生きてるんだ今?
『コイツを殺して、後は魔女と反逆者も殺せば終わりだ。聖王レオンから恩赦がもらえるし身分も保証される』
『――子ども一人に複数の暗殺者を差し向けて殺そうとするとは、相変わらず「聖王」と言う呼び方と合わぬ行動をする国王だな』
 白いローブ、フードで顔を隠した……男?
 声的に若い青年っぽい感じだった、な。
 ああ、そうだ、この男が――
 殺し屋達を……何かした、今思えば殺したんだと思う。
 うん、俺はその光景は見ていない、その人が包囲網飛び越えて子どもの俺を抱きかかえると俺に目を閉じて耳を塞ぐよう言ったから。

 その場所から離れて下ろされる。
『先ほどの連中はもう追ってこない……おや、君は――』
 その人は何かに気づいたようだった。
 何に気づいたか俺には全く分からない。
『……本当悪習が続く国だ。へスペリアの「御子」を殺す、という行為を続けているとは……』
 その人は呆れたようにそう言ったな。

 ん……へスペリアの「御子」……?
 ……待て、あの人は、俺が「魔の子」……今俺がいるこの国では「祝福の子」……
 つまり、この、魔王の国の人、だったのか??

『良ければ名前を教えてくれないか?』
 俺はうん、少し悩んで答えた「ニュクス」と。
『ニュクスか、良い名前だ。私は……ああ、すまない言えないんだ。父と付き人達に内緒でここにきているから……』
 その人はそう言った、今の状況的にこの人この国のそこそこ偉いというか身分ある人じゃないかと思う。
『――ニュクス、もし君が嫌じゃなければ、君が大人になったら、私と結婚してくれないかな? 君の家族を勿論守るよ、約束する』
 俺はそれに――




 目が覚める、夢が途切れたのが分かる。
 時間は早朝、酷く眠い。
「……」
 俺は、息を吐いた。

 過去の夢、何と答えたのか思い出せない、また自分の恩人の事を思い出した。
 あの人は今どうしてるのだろうと、ふと思うがもう忘れてるだろうし、子どもの頃から俺も成長してるし分かりっこないだろう、と俺は自己完結する事にした。

 起き上がり、隣で眠っている王子様を見る。
 穏やかに眠っているのが、忌々しいし、憎たらしいし、それで――ああ、わかんねぇや。
 俺はため息をついて、風呂場に向かった。
 体中が汚れた感じがして、洗い流したかった。

 お湯に浸かり、息を吐く。
「……」
 あの時俺を助けてくれたあの人が、今の俺を見たらどう思うだろうと、少しだけ思った。
 幻滅するだろうか、それとも俺の手を引いて逃げ出そうとしてくれるだろうか。

 なんで今頃そんな昔の夢を見たのかとか思いながら、俺は息を吐き出した。
 お湯のおかげで体は綺麗で温かくなるのに、思考する程心は軋んで歪んで、冷たくなるのを感じた。





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