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祝福者の傷
崩れる
しおりを挟む行為が終わって少し時間が経ったら、頭が少しだけ、マシな思考になり、こんな状態マイラに見られたくないと思った。
「――おい、風呂行くぞ」
俺が腕を掴んでそう言うと、王子様は顔を液体でべとべとにしたまま頷いて大人しく従った。
なんか行為自体が酷く薄汚い行為に思えて、全身洗った、髪用の液体石鹸で王子様の髪と自分の髪を洗うし、体用の石鹸で、体と顔もついでに洗った。
王子様の体は王子様に任せた、体とか触るとまた一気に感情が噴き出して何をしでかすか分からないから。
お湯で石鹸とか泡と全部流してから、浴槽のお湯に浸かる。
お湯の感触は心地いいし、何故かいつも良い香りがしてる、それに少しだけまた気分が落ち着く。
が、それでも自分の頭の状態が、心の状態がいつ、危険な状態になるか分からないのは変わらない。
だから俺は風呂の中でも何も言わない様にした、下手に会話をしたくなかった。
王子様を抱いてる時に思い出した子どもの頃の事、アレが今だへばりついてて気分が悪いからだ。
また開きそうになる「傷口」の感触に、俺は考えるのを止めた。
「……にゅくす……」
俺は王子様――リアンの言葉に苛立ちを感じた。
喋るな、黙れ、と言いたい。
だがそれを言った時点で、俺の今にも噴き出しそうな感情は確実、噴き出す。
だから聞かない振りをした。
目を閉じて、知らぬ顔をする。
向かい合ってるから、俺がそういう態度を取ればそれ以上喋らないと思った。
が、そうはいかなかった。
手に触ってくる。
不愉快だ、止めろ、気持ちが悪い。
「にゅくす……」
俺の名前を呼ぶな、俺は我慢しているんだ。
「ひどくしても、いい、なぐってもいい、だから、おねがい、そばに、いて、わたしは、にゅくすが、いないのに、たえられない、だからおねがい、ほかのひとをよばないで、ほかのひとのところにいかないで」
ああああああああ!!
身勝手だ、お前は本当に身勝手だ!!
ぎりっと歯を食いしばる、殴りたい、首を絞めてやりたい、そんな事二度と言えないようにしてやりたい。
ああ、お前が憎い!! 疎ましい!! 羨ましい!! お前の所為で俺は一生この苦しみから逃げられないっていうのに!!
「――ふざけんな、テメェの都合で俺は死ぬチャンスも失ったんだ。 楽になれる機会を奪われたんだ。俺は――」
そこまで言って、何とか言葉を飲み込んだ。
俺は風呂から上がって出て行った。
耐えきれない。
恰好も気にする余裕はなかった。
急いで扉に向かい、扉を開けようとする。
そして開かない扉の前に蹲って待つ。
扉が開く音と、締まる音、そして柔らかなタオルが体にかけられる感触を感じた。
顔を上げると、マイラが俺の髪をタオルで拭き始めた。
「そんな恰好では、いくらここでも風邪をひいてしまいます」
マイラはそう言って俺の髪を拭き、体を拭いてから、服とか着せてくれた。
「少々お待ちください」
マイラは浴室へと向かった。
少し待つと服を身に着けた、王子様が出てきた、王子様は部屋の隅に向かい、そこに蹲る。
マイラがその後出てきた、ベッドのシーツをどっかから出した新しいのに取り換え、汚れたベッドのシーツを何処かに多分転移させた。
俺はその間、嫌な感情に耐えきれなくなってまた腕を引っかいて傷つけ始めた。
マイラが俺に近づいてくる。
抱きしめ、背中をさすって、俺の自傷行為が終わるのをじっと待つ。
俺の自傷行為が終わると、マイラは俺を椅子に座らせて、手当をする。
それが終わったら出ていく。
色々言ったりしたのはあの時だけ、王様が来れない時にアルゴスの代わりに部屋に来るという事を説明されたあの時だけ。
耐えきれなくて、自傷行為に走る俺の事を抱きしめて、俺が落ち着くのを待ってから手当するか、俺が言葉を一方的にぶつけるのを静かに頷いて、優しい言葉をかけて抱きしめてくれる。
マイラは何も咎めない、怒らない、叱らない、諭さない。
そんな彼女に俺は少しだけ気が楽になる。
でも、そんな彼女の前でも俺は泣けない。
悲しくても、辛くても、苦しくても、俺は、涙を流せない。
流せたらもう少し気が楽になるんだろうけど、「泣いたってどうにもならない」と理解したあの時から俺は泣いた記憶がない、ああ、そうか、気丈とか強がってたんじゃない、俺は「諦めて」、「抑え込んだ」のか。
全部、自分は「魔の子」だから、と「抑えつけて」それが原因で歪んで、壊れて、おかしくなったのが、今出てきた。
でも、涙は流れてくれない。
だから、泣ける王子様が、憎くて、疎ましくて、羨ましくて――
傷つけてやりたくなる、苦しめてやりたくなる。
マイラが居なくなると、王子様は俺に近づいてくる。
俺としては近づいて欲しくない。
俺が「愛されてこなかった」とは言わないし、思わない。
確かに俺も「家族」に愛されてきたでも――その「家族」は俺の所為で普通の生活が許されなかった。
誰も俺を責めない、だから俺はますます自分を責めて、「抑えつけていった」、その結果がこれだ。
今は、治ってるのか、より歪になってるのか、噴き出そうとしてるのか、よく分からない。
でも、今回のは一つ歪になった事は分かる。
抑圧してきた「性」に関するものが、いきなり不完全な状態でたたき起こされて、無理やり成熟させられて、その結果歪な感情と結びついた。
この件に関しては、王子様とアルゴスが原因だから、もうどうしようもない。
無意識のうちに抑圧してきたのは俺自身だが、その蓋をこじ開けたのはあの二人だ。
椅子に座って一人、本を読む。
王子様は床に座り込んで、俺の服の裾を掴んでいる。
苛立ちから目を背ける様に、無視して本を読む。
ああ、でも、俺が王子様――リアンにああいう事したこの日から、俺とコイツの生活はより歪に変化していくことになった。
毎日のように、俺にとってはあんまり気持ちよくなれない性行為をするようになった。
気持ちよくなれない。
俺が無理やり突っ込むのが大半だけど、乗っかることもある。
女の方にリアンの雄突っ込ませてみるが、気持ちよくならない。
クリトリスだっけか、最初触られたりして気持ちよくなった其処とか触られても気持ち良くならない、なれない。
膣内とか、感じた奥の箇所にまで入ってきても、気持ちよくなれない。
俺の尻の方は――一回だけ突っ込ませたけど、気持ち良くないどころか不快感とかが酷くてそれ以来突っ込ませてない。
気持ち良くなるためにする行為というか、リアンの事を殴って罵って、傷つける事をする為だけにしている行為でしかない俺にとっては。
多分、マイラが抱きしめたりしてくれる行為は俺の「傷」を癒してるわけじゃない、ただ俺を「受け止めている」だけで、俺の「傷口」がふさがるわけじゃない、噴き出た「血」が収まるのを待つ、それまでリアンにそれをぶつけない為に。
俺の「血」が噴き出て、それが収まれば塞がる「傷」ならまぁ、それで良かった、でも俺の「血」は「受け止められる」と次第に噴き出す「量」が増えていく――悪化していくし、「傷」も酷くなるのがわかった。
そんなのに気づくようになってから、俺は苦しくなってもマイラを呼ぶのことをしなくなり、代わりに全部リアンにぶつけるようになった。
そっちの方が、楽だと分かってしまったから。
リアンも暴力振るわれたり、強姦としか言えない行為が嫌なら、逃げるなり、助けを呼ぶなり、「止めて」とか言うなりすればいいのに。
リアンはそれを絶対しない。
すげぇ泣く癖に、痛そうな声出して俺に殴られる癖に、絶対しない。
「あ゛ぁ゛――!!」
「何度勝手にイってんだテメェは、一人だけよがって、まぁそうだろうよ、俺の事自分の性欲吐き出すためにヤろうとする、節操無しの淫売だしなぁ」
最近顔を殴る力が加減できなくなってきたので、四つん這いみたいな状態のリアンを後ろから犯すようになった。
勝手にイったら、ご自慢の綺麗な長い髪を引っ張ったり、噛みついたり、尻を叩いたりしながら罵倒する。
白い尻は俺が加減なく叩いてたからか、もう赤くなっている。
いつもなら「ごめんなさい」とか言うから、また同じ言葉しかいわねぇのかとか言うつもりだった。
「あ゛ぁ゛……!! ち、が、うぅ……!!」
「違わねぇだろうが、アルゴスの奴に頼んで俺の事無理やりヤッたじゃねぇか、性欲発散したいだけなら、そういう相手呼べよ、俺は気持ちよくもねぇこんな行為しても楽しくもねぇんだよ」
その言葉にいつもとは違う意味で苛立って、既に俺の爪に引っかかれて傷だらけで、一部血が滲みだしている背中を更に強く爪で引っかく。
「ただ、くる、しく、て、たすけ、て、ほしくて、にゅくすいがいじゃ、だめだ、たから、もう、たえられ、なく、て」
助けて欲しくて?
耐えられなくて?
それなら、何しても、良い、とでも?
ふざけるな!!
気がつけば、リアンの首を絞めて気絶させていた。
ああ、どうでもいい
其処からぶつりと記憶が途絶えた。
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