両性具有な祝福者と魔王の息子~壊れた二人~

琴葉悠

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壊れた王子様

「魔王」と「神の言葉」

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 扉を叩く音に、義父さんが急いで剣をとってくる。
 俺が十過ぎてから俺らへの刺客連中とか倒したりするの俺がやるようになってるから多少さび付いてるかもしれないが、俺が倒されるまでに母さんや弟達を逃がす護衛はできるはずだ。
 父は警戒しているが、相手の力量がでかすぎて分かっていないようだった。
 けれど俺には嫌でもわかった。

 外にいる相手は「敵」に回したら不味い、それほど危険な存在だと。

 扉を暫く叩く音が途絶える、しかし、気配はする。
「義父さん、まだ外にいる」
「そ、そうなのか?」
 外の相手がどんな存在かますます分からない、扉を壊す気配はない、と思ったら扉の下の隙間から黒い影のようなものが伸びてきた。
「「⁈」」
 俺と義父さんは慌てて構える。
 影は丸い形になったと思うと伸びて形を変えていって――壮年の男――何と言うかまぁ、品の良さそうというかうっすら記憶に残っている貴族の連中が着ていたものよりも何倍も気品がある恰好の男が姿を現した。
 闇のように黒く少し長めの髪、紅玉よりも赤い目、青白い肌。
「――ニュクス、と呼ばれる者がいる家はここか?」
 男が発した第一声はそれだった。
「「……」」
 俺も義父さんもだんまりを決める、いや、声が出せないのが正解だろう、義父さんなんか剣を持ってる手がガタガタ震えてる。
 ついでに言うと最悪な事に身動きがとれねぇ。
 男が俺の方へと近づいてくる。
 白手袋をつけた手が俺の頬を触り、赤い目が俺の目を覗き込む。
「――ああ、其方がニュクスか、探したぞ」

「――お、俺の子に手を出すな!!」

 義父さんが無理して体を動かして男に向かって剣を振りかざした、ミスリル製の剣は男が腕を盾にするような動作で防がれ、折れた。
「――落ち着くがよい、ニュクスの――ああ、義理の父か。すまぬが、私は急いでいる、この者を私の息子の元へ連れて行きたいのだ」

 その言葉で、俺も義父さんも、この男の正体を理解した。

 この男は「魔王」だ。
 国が滅んだから来たのか、それとも差し出せない状態にあると聖王庁の連中が何かいったのかは分からないが、配下ではなく、本人が来たのだ。
 俺を連れていくために。

「ふ、ふざけるな!! 何故お前の息子の為に俺の子を差し出さねばならん!!」
 義父さん、めっちゃ声が震えてる。
 いや、俺は相変わらず怖くて声でねぇからアレコレ言えないから、辛い、しんどい、やばい、どうしようとか頭のなかぐっちゃぐちゃ。
 その時、ガチャリと母さん達の寝室の扉が開いた。
 母さんが杖で体を支えながら、部屋に入ってくる。
「ダフネ!! 危険だ!!」
「母さん?! 何してんの、部屋に戻って!!」
 漸く俺も声が出せた、いやこんな次何が起こるか分からない危険地帯になっている部屋に体が弱まっている母さん来させるとか不味すぎるだろう。
「――貴方が、魔王、ですか?」
 母さんは「魔王」を見て怯える様子も見せず尋ねていた。
「『魔王』か、確かに私の敵対者はそう呼ぶ。私はカオス、敵対者たちは魔の国と呼ばれている国の王だ」
 母さんの問いに「魔王」――カオスはそう答えた。
「では、カオス様。何故故我が子ニュクスを求めるのです?」
「――他言にせぬと、誓えるか」
 カオスの圧のある言葉に、母さんは動じることなく頷いた。


 魔王と呼ばれている男――カオスの話はこうだった。
 彼には一人だけ息子がいる、人だった妻によく似た絶世の美しさを持つ息子だそうだ。
 亡き妻に似て、慈悲深く、物静かで穏やかな子だったそうだ。
 ある時、領地で怪我人の治療に当たっていた所に人間達――自分達と敵対意識を持つ種族の連中が襲撃し、子どもを人質にして息子を生け捕りにして連れ去ったそうだ。
 その知らせを聞いたカオスは急いで配下に息子の救助を命じたが、妨害が酷く、息子は中々見つからず、二か月という時間を有したらしい。
 二か月たって漸く見つかった彼の最愛の子は――変わり果てた状態で見つかった。
 男女関係なく様々な者達に凌辱され、蹂躙され、拷問され、心が壊れてしまっていたそうだ。
 実の父であるカオス(一部例外はあるらしいが)以外の前では発狂状態に陥り、手が付けられず、無理に何かしようとすれば気を失い、より状態を悪くしていく。
 食事もカオスが一度口にしたもの以外は口にいれることはしない、毎日それができればいいのだがそれができず食事を取れない状態が続いている。
 治療を施すも、全て全く効果がなく、息子は日に日に弱っていく一方、誰か息子の傍に寄り添い、息子の世話などを任せられぬ者はいないかと神へスペリアに祈りを捧げつつ探し続けていたある日、祈るカオスの前に謎の人物が現れた。
 フードで顔は見えない、だが何故か「逆らってはいけない」そう感じさせる雰囲気を持ったその人物はこう言ったそうだ。

『両性なる者――聖王庁やそれに従う者達には「魔の子」として迫害されているが、祝福され守られ続けている者、「祝福の子」を息子の妻とするがよい。その名をニュクスと言う』

 その人物はそう言うと、姿を消した。
 カオスは半信半疑でそれに合致する者がいないか配下――密偵に調査させた。
 合致する存在――つまり俺が見つかった。
 聖王庁に狙われているようだから、滅ぼさない代わりに俺をよこせというのを要求すれば聞くだろうと思い要求した。
 国々は、滅びたくない一心でその要求を飲んだのだ。

 だが、待てども待てども「祝福の子」を連れてくる気配が一向にない。

 こうしている間にも我が子はゆっくりと弱っていっている、もう待つことなどできない。
 そう考えたカオスは念のため配下に調べさせて、把握していた俺の所にやってきて――今に至るということだ。


 なんというかその――……うん、何とも、言えない。
 この王様は、息子を救ってくれるかもしれないという僅かな希望に縋り付こうと今必死なのが分かった。
 だが、疑問がある。
 
 祝福の子、とは?
 そもそもなんで、俺?
 そしてそのローブの人物、何者?

「「「……」」」
 俺も母さん達も無言になる。
 まぁ色々と疑問もあるし、戦争している理由とか色んな知りたくない情報も知ったから気分はあまり良くない。
 母さんは悲し気な顔、義父さんは額を抑えている。
「――だからニュクス、其方に来てほしいのだ」
「……」
 この王様の言葉に、俺は悩んだ。

 ローブの人物の言葉が偶然一致したとかまぁ他の理由とかで、でまかせだった可能性がないとは言い難い。
 だが、この王様、その気になれば俺を無理やり連れていく事ぐらい訳なくできるだろうというのも分かる。
 連れていかれたら、確実に弟、妹が色々とショックを受けるだろう、連れていかれたと。
 弟は義父さんへの反抗状態を更に悪化させるだろう、「大事な兄」を連れて行かせた薄情な父親と軽蔑しかねないし、妹も同じように「大事な姉」が居なくなった事で非常に不味い状態になりかねない。
 それは勘弁願いたい。
 だが、この王様は連れて行きたいと言ってはいるが、大事な子を親から奪う気がないのは分かる。
 非常に頭が痛くなってきた。

 非常に重苦しい沈黙が部屋を包んでいる、そんな時。
 トントントン、と静かに扉をノックする音が聞こえた。

「……」

 何故か分からないが、俺は扉を「開けなければいけない」そんな気分になった、明らかにおかしいのに体が勝手に扉の鍵を開けて扉を開けていた。
 そこにはローブで姿が分からない人物が立っていた。
「――祝福の子ニュクスよ、彼の王の願いを聞くがよい」
 何か逆らえないような感覚になる声でその人物は喋った。
「賢王カオスよ、聖女ダフネとその夫パリス、息子ゼロス娘レイア、彼の者達も祝福の子と共に己が国に連れてゆくがよい」
 その人物は続ける。
「祝福の子ニュクスを連れて行った後、愚王レオンは彼の者達を殺めようとするだろう、故に汝の国へと連れていくがよい」

「これはへスペリアの言葉なり、故に過ちを起こすなかれ」

「「「!?!?」」」
 その言葉に俺たち家族は硬直した。
 その人物のわずかに見える口元が俺には笑っているように見えた、まるで「怖いことなどなにもない、私の言葉に従いなさい」と言わんばかりに。
 その人物はそう言って姿を消した。

 先ほどの不可思議な人物の言葉分かりやすく言えば、俺は王様の願いを聞け、王様は俺の家族全員そっちの国に連れてけ、じゃないと家族が俺の実父が殺そうとする。

 そしてヤバイのは「へスペリアの言葉」。
 へスペリア――この世界を作りし創造者、まぁ神様。
 この世界では「へスペリアの言葉」であるという台詞は言えない、何故か、その名を騙った奴は悉く神の雷で焼け死ぬか、その瞬間突然死している。
 語って死なない奴は文字通り「神の言葉」を代弁していることになる。
 あの人物、平然と言って、何もなく、姿を消したつまり――

 あの人物の言った内容は、全て事実、または事実になるであろうことなのだ。

「――わかった、行くよ、行けばいいんだろ!!」
 俺は半ばヤケクソになってそういうと、王様は安堵したような表情と息を吐いた。
「すまぬ」
「――だが、俺の家族もアンタの国に連れていけ、さっきの言葉が事実なら俺の家族は殺されかねない」
「勿論だ」
「――可能なら、俺が会いに行ける所に住まわせるかして欲しい、さすがに会えなくなるのは俺が嫌だ」
「良かろう」
 王様はそう言うと手を伸ばした。
 黒い何かが形を成し、鳥の姿になると、目に留まらぬ速さで開いたままの扉から飛び去って行った。
「――祝福の子よ、私は時間が惜しい。其方の家族は配下の者達に急ぎ迎えをよこさせる」
 王様は俺に手を差し出した。
 言葉には出してないが、俺だけ先に連れていく、と言うことだ。
 俺は諦めたように息を吐いた。
「――分かった、それで手を打とう。あ、母さん俺の黒い箱、あれをちゃんと持っててくれるか」
「ええ、分かったわ、ニュクス」
 俺はそう言って王様の手を取る。
「感謝する」
 その言葉の直後俺と王様の周囲が闇に包まれた。

 闇の中で俺は、「こんな事態引き起こした連中全員生きたまんま食人植物の中でじわじわ溶かされる恐怖味わいながら死ねばいいのに!!」と思った。



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