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とある街にて

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 ゼロは目を覚ました。
 夢見の悪さに頭を掻く。
「どうしたんだ、お嬢ちゃん、こわーい夢でも見ちまったのか? ひひっ!」
「……かもしれない」
「ちょっと冗談真に受けるなよ、不安になるだろ」
「安心しろ、今まで通り命は喰らうから」
「ならいいんだ」
「ところで、町は大騒ぎだぜ。目の上のたんこぶだった貴族サマが人さらいをやって怪しい儀式をしてて、だけど何者かに殺されたってな!」
「そうか、そこまで大騒ぎなら次の町へと行こう」
「お、もう出るのか?」
「ええ」
 ゼロはベッドから起き上がり身支度を調えて宿屋を後にした。
「さすがに馬車は今回はお金を払わないとダメそう」
「どうする?」
「移動に時間をかけるのはやめた方がいいと分かった、お金を払おう。幸い手持ちに余裕がある」
「よし、俺等は隠れてるからな」
「分かった」
 ゼロは馬車の乗り合い所に向かい、お金を払い馬車に乗車した。

──目的地は命を奪っていい相手がいるのが分かっている──
──生きるため、命を奪おう──
──私の時間は少ないのだから──

 ゼロはそう思いながら、馬車に揺られた。


 しばらく揺られていると、大きな街へとたどり着いた。
 が、ゼロは違和感を感じた。

 街の規模に反して、人の行き来が少なすぎる事に。

「この街では何が起きている」
「どうするんだ?」
「この街の長のところへ行く」
「町長へ? そうすんなり通してくれるかねぇ」
「さぁな」




「ようこそいらした。旅の方。私はこの街の町長イロン」
「あっさり面会できたな……」
「町長よ、貴方に聞きたい。この街では何が起きている」
「旅人の貴方に話すのははばかられるが……貴方には話した方がいいと私の勘告げている。お話ししよう」
 町長イロンと向き合いゼロはソファーに座った。
「この街では今、人さらいが横行している」
「人さらい、か」
「犯人は分かっているのだが、手出しができない」
「手出しができない程の理由があるのか?」
 ゼロの言葉にイロンは頷いた。
「犯人は前町長ガゼリオの腹心ロファ。……私の元友人だった」
「元友人というと?」
「前町長のガゼリオは、この街を圧政をもって支配していた、平穏の為に。だが、亡くなり圧政を強い続けるロファと、それを拒絶する私でもって町長選挙が行われ──」
「貴方が選ばれたという事か」
「その通りだ、ロファは町民達を裏切り者と見ている、ただ何のために人をさらってるのかが分からぬのだ」
「簡単さ、命の交換。大勢の人の命とたった一つの命を交換するんだ!」
 姿を隠しているマグノリアが答える。
「町長、もはや猶予はない。大勢の命が失われる前に、ロファを私は殺す」
「ま、待ってくれ! まだ、誰も死んでは──」
「ならば二度とそのような事ができないようにする、いいな」
「わ、分かった」
 ゼロはそう言うと、町長の部屋を出て隠れているマグノリアと会話する。
「忍び込む手はずは?」
「整ってるともさぁ!」
「今晩が勝負だ」
 ゼロは静かに夜を待った。

 夜、ロファの屋敷に忍び混み、シリウスに命じて見張りを次々と昏倒させていくと、地下に巨大な魔方陣があった。

「やっべぇな、今日来て良かったな」
「発動は今日か」
「ああ、ちょうど満月だしな」
「急ぐぞ」
「おい、ワンちゃんあの魔方陣を削ってやれ、それで時間を稼ぐんだ」
 シリウスはマグノリアにうなったが、ゼロがやるように指示を出すと素直に聞き、魔方陣の所へと向かった。

「な、なんだコイツは!?」
「まだ死者の門も開いてないのに、こんな存在が──まさか」
「そのまさかだ」
 ゼロは魔術師と、特徴を聞いていた男ロファの存在を視野に入れる。

「マグノリア、暴れろ」
「ほいさぁ!」

 突風が吹き荒れる。
 削れた魔方陣は、効力を弱め、徐々に消えていく。
「やめろやめろ!! ガゼリオ様が復活できなくなる!!」
「大勢の町民の命を引き換えに復活するなら、死んだままの方がいいだろう」
「ガゼリオ様は暗殺されたのだ!」
「だろうな。圧政を強いる者を恐れない者はいない、同調者以外は」
 ゼロは何でも無いことのように言って、ナイフを手に持つ。

「話は、終わりだ。お前達の命を──」

「喰らわせて貰うぞ」

 ナイフが鈍く光る。

「ロファ!!」

 魔術師がロファを逃がそうと転移魔術を発動させる瞬間、ゼロは魔術師を切りつけた。
 魔術師はぐらりと倒れ、動かなくなった。
「レジオ?! 貴様レジオに何をしたぁ!!」
「命を喰らったまでだ。次は貴様の番だ」
 ゼロはロファを切りつけた。
 ロファは地面に倒れた。
「う、動かん。貴様何を……」
 ぜーはーを荒い呼吸をしながらロファは問いかけた。
「お前の命を喰らった、近い将来お前は死ぬ」
「!?」
「それまでの間せいぜい考えるといいさ」

 ゼロはそう言って、その場を離れ、誘拐された人達の牢屋の鍵を壊して姿を消した。





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