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眠り姫とともに~一緒に夢を見よう~
いつかな ~今度こそ君を守りたい~
しおりを挟むグリースはベッドに横になり、ルリを抱きしめながら頭を優しく撫でていた。
ルリは今まで押し殺してきたものが無くなったように、吐き出し始めた。
怖かったと。
でも我慢しないといけないと思ってしまったと。
まわりがそれを望んでいるからと。
気が付いたら、周りが望むように動けば、余計傷つかなくて済むと思ってそういう行動しかとれなくなったと。
ぐすぐすと泣くルリの言葉を否定せず、グリースは聞き、優しく頭を撫でて、「苦しかったね」と声をかけた。
「……うぇ」
ルリが突如気持ち悪そうな表情を浮かべた。
「……ルリちゃん?」
ルリは透明な液体を吐き出した。
服が汚れたが、グリースはそんなことは気にせず、ルリの背中をさすり、エチケット袋を取り寄せて、ルリに口元に持っていくと、ルリはそれに顔を突っ込むように何度も吐いていた。
「……」
グリースはある予感が頭によぎった、あの二人が今までしていたことについて尋ねる。
「ルリちゃん、アルジェントかヴァイス、どちらかでいい、君に避妊薬、飲ませてたかい」
吐くのが終わったルリにグリースが問いかけた、ルリは怯えた顔のまま首を振った。
グリースは舌打ちしたかったが、ぐっと堪えた。
「……食欲は?」
「……今まで食べなくて平気だったのに……急にお腹がすくようになったの……」
「熱っぽい?」
「うん……熱が前より高くなった」
「お腹、張ったりしてない?」
「うん……張ってる気がする」
「胸が張ったりしてない?」
「うん……あのお薬飲んでないのに胸が張ってるし……少しずつ大きくなってる……」
「ちょっと『診て』いいかい?」
「……うん」
ルリも何かを察しているのか、怯えた表情のまま頷いた。
グリースは灰色の目を炎のように赤くして、ルリの下腹部を見る。
ぼんやりとした小さな影が、「二つ」子宮があった箇所に見えた。
子宮も通常時より大きい。
――ああ、クソ、あのくそったれな神様め!!――
グリースはぎりっと歯を食いしばった。
グリースの悪い予感の通りルリは「妊娠」していた、そして問題はこの二つの影――「胎児」だ。
人間や吸血鬼よりも成長速度が速いように見える。
不死人の特性か、もしくはルリの特性か、判断ができない、何せまだルリ以外の不死人の女は一人も「妊娠」していないのだから。
「……」
グリースの頬に汗が伝う。
言うべきか、否か、それとも――
「……グリース、もしかして、私、妊娠、して、るの?」
ルリは顔色を青くしながら、グリースの服を掴んで問いかけてきた。
「……うん、そうだ。どっちの子かは――」
「知りたくない!!」
ルリは耳を覆ってグリースの言葉拒絶した。
「いや……いや……」
ルリはぶつぶつとそう呟いた途端、がくりと倒れた。
「ルリちゃん!!」
グリースはルリの体を揺すった。
誰、誰なの?
私の体に触るのは。
首を噛まれる感触が気持ちよくて、怖い。
真祖?
『すきにしていいよ、ヴァイス』
違う、こんな言葉言いたいんじゃない、違うの、違う、違う。
こんな口づけ、気持ち悪い、いや、嫌だ。
触られるのが、怖い、気持ち悪い、気持ちいいのが気持ち悪い、体が勝手に反応するのが怖い。
男の人のあれが、体の中に入ってくる。
やだ、こわい、たすけて。
あ、ああ、お腹の中に何か出されてる、やだ、だって、私薬飲んでない……
いやだ、いやだ、いや、いや、いや!!
誰、今度は誰?
体に優しく触れている、でもこれは違う、グリースじゃない。
アルジェント。
――愛しております、ルリ様――
いや、止めて。
『うん、私も愛してるよ、アルジェント』
違う、違う、こんな言葉いいたいんじゃない、違うの、違う、違う。
愛してない、私は誰も愛してない、愛せない!!
体に触らないで、中に指が入ってくる感触もいや、それを気持ちいいと感じる自分の体が嫌!!
また、男の人のあれが、体の中に入ってくる。
やめて、私、薬飲んでない。
お願い、やめて、いや、いや、いや、いや!!
……あれ、なんだっけ。
何か悪い夢、見てたような……
ああ、夢か……そうだ、避妊失敗して「グリース」の子どもできちゃったんだ
あはは、グリースって結構ドジだね。
そういえば、グリースと何処で会ったんだっけ……どうしてここで暮らしてるんだっけ……まぁ、いいか、思い出せなくても。
ルリが目を覚ました、先ほどまでの恐怖が顔色から消えて失せているのにグリースは気づいた。
――気を失ってる間、ルリちゃんの精神に何が起きた?――
ルリはグリースの腕の中で怯えた風ではなく愛おし気にお腹をさすっている。
「避妊失敗ってあることだしいいよいいよ、ちゃんと産んであげるからねーよしよし」
ルリの言葉にグリースは耳を疑った。
――待った、ルリちゃんの精神……いや、記憶に何が起きた、避妊失敗ってどういうことだ?!――
グリースが必死に考えていると、ルリは明るい笑顔でグリースの頬を撫でる。
「どうしたの、グリース。パパになるのそんなに嫌?」
「――俺が、パパ?」
グリースは額を抑えた、そしてあることを問いかける。
「……ルリちゃん、アルジェントとヴァイスのことは覚えてる?」
「……アルジェント? ヴァイス? 誰の事?」
グリースは「診」なくても分かった。
ルリの記憶が大きく書き換えられたのだと、あの意識を失っている最中、自分が傷つかないものに。
「……俺と何処であったかとか覚えてる?」
「え? いきなり何……うーん、あれ、思い出せないや、なんでだろう……まぁいいじゃん!! 細かいこと気にしちゃ!!」
ルリは明るく笑って、自分のお腹を愛おし気に撫でている。
「元気に育つんだよー……」
グリースは判断した、ルリをここに置いておくのは危険だ、と。
ヴァイスに場所がバレているからだ。
ルリが記憶を書き換えてまで自分の精神を守ろうとしているのだ、既にグリースは二度失敗を犯している。
だから三度目は決して起こしてはならない。
「……ルリちゃん、ここはちょっと危険な場所になってきた、もっと安全な場所に行こう」
「? そうなの。うん、わかった」
ルリはグリースの言葉を聞くとぬいぐるみを持ち、スマートフォンを探し始めた。
グリースは仕舞ったスマートフォンを取り出し、ルリに余計な情報が入らないように術を施してからスマートフォンをルリに返す。
「荷物とかは俺が少しずつ運ぶから、ルリちゃんは何もしないで自分と、赤ちゃんの事だけ考えて」
「うん!! それにしてもいきなり双子かー……大変そうだなぁ、でも頑張ろう」
ルリはお腹を撫でながら、ぬいぐるみとスマートフォンを持っている。
グリースはきゅっと唇をかみしめて、ルリを隠れ家からそのまま別の場所へと移転した。
ヴァイスすら知らない、より遠くにある隠れ家へとルリを連れて行った。
ルリは広い、開拓地のような空間にぽつんとある、隠れ家と同じような行動の家の前に連れてこられた。
グリースがルリを抱きかかえながら中へと入る。
中は前の家よりも広かった。
見かけと、中身が違うつくりになっているようだ。
「……広いなぁ」
「……赤ちゃん、産むんでしょう? じゃあ広さはないと」
「――うん、そうだね!!」
グリースはルリを寝室に連れて行って、ベッドに寝かせる。
「ルリちゃん、俺が居ない間無理しちゃだめだよ」
「うん、わかってる」
明るい表情をしているルリに気づかれないよう、笑顔で心を覆い隠しながらグリースは彼女を撫でた。
この判断が良かったなど、グリースには分らなかった、ただルリが傷つくのをもう見るのは嫌だった。
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