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君を守るため

まだ、怖い ~俺がいないとだめじゃねこれ?~

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 ルリは目を覚ました。
 少し前までの明るい天井ではなく、真っ暗な闇色の天井が視界に入る。
 ベッドから起き上がり、グリースが用意してくれたブラジャーをつけ、次に動きやすい服に着替える。
 化粧はしたくない、本当最低限しかやれない。
 顔を洗い、タオルで顔を拭いて、化粧水をつけて、唇にリップを塗る。

 不死人に効果があるのかわからないが。

 持たされた薬を口に入れて、ボトルの水で流し込む。
 ふぅと息を吐いてベッドに座り、ぬいぐるみを抱きしめる。
 一人で不安な時は、このぬいぐるみを抱きしめる癖がついてしまっていた。
 治す気はない、不安や恐怖にまだ自分は耐えれないのだ、だからぬいぐるみを抱きしめ必死にそれを紛らわすのだ。

 ガチャリと、扉の開く音が聞こえた。

 ルリはより強くぬいぐるみを抱きしめ、心の中で何度も「大丈夫」と呟く。
「ルリ様、おはようございます」
 ルリにとって「怖い人」――アルジェントの声だ、振り向いて挨拶をするのは怖くてできない。
「……おはよう」
 何とか絞り出すように返事を返す。
 何か視線を感じる、それがとても怖かった。
 グリースがいつ来るか酷く不安になった、ぬいぐるみを抱きしめたまま、その場から動けない。

「ルリちゃん、お早う」

 明るい、優しい声にルリは窓を見ると、グリースが普段のような明るい笑みを浮かべて手を振って立っていた。
「おはよう、グリース」
 ルリはグリースの姿を見て安堵した。
 グリースはルリに近づいてきて、頬を撫でた。
「ルリちゃん、昨日はちゃんと寝れた?」
「うん」
「なら良かった」
 ルリはグリースの手に頬をすり寄せ、安心した。

 グリースは安心しきった表情を浮かべるルリと、自分へ敵意を向けているアルジェントを見ながら心の中では少しひやひやしていた。

――これは相当難しそうだな、でもくれぐれも傷つけんなよ……――

 しばらくの間グリースはルリの世話をしてから、研究の方に戻ると言って城を後にした。
 ルリへ二人がどう行動するか気にはしながら。


 忌々しい来訪者が居なくなり、アルジェントは心の中で安堵の息を吐いた。
 ただ、悲しいことに、自分が慕う方はその来訪者が居なくなったことに酷く不安を覚えているようだった。
「……ルリ様」
 声をかける、こちらを向いてはくれない。
 ぬいぐるみを抱きしめているのか、こちらに背中を向けたままだ。
「……何?」
 震えた声、か細い声、己に怯えている声。

 こちらを向いてほしい、顔を見せてほしい。
 近づくことを許してほしい。

「何かご要望はございますか?」
 問いかける。
「……ない」
 かつてのように「でていけ」とも言ってくれない、何か要望を出すこともない。
 まるで、自分の願いなど誰も聞いてくれはしないと諦めたような声色で、こちらを見ずに言う。
 近づくことはできない、怯えている彼女をより怯えさせてしまう、だから近づくことはできない。

 アルジェントはただ、その場に立ってルリの後ろ姿を見つめるしかできなかった。


 夜になり、アルジェントが居なくなると、ルリは寝間着に着替えた。
 胸が張ってるのが少し辛いが、真祖が来るのが怖いので、毛布をかぶってベッドの上に横になり、目を閉じた。

 早く隠れ家に戻りたい。

 そんなことを考えながら。

 ルリがすやすやと眠る頃、ヴァイスはルリの部屋に姿を現した。
 ヴァイスはルリに近づき、穏やかに眠っているのを見る。
 ルリが居ない間は血の飢えが定期的にやってきて酷かったが、今のルリは居るだけで心が落ち着く。
 血を飲みたいという気分が消えたわけではないが、其処まで乾くことはない。
 漸く手の届く範囲に愛しの妻が戻ったことが嬉しかった。

 笑顔を見たいと願うが、それは今は無理なのは重々承知だ。

 ヴァイスはルリの頬をすっと撫でてから部屋を後にした。
 彼女を起こして仕舞わぬように、怯えた顔を見ない様に。


 ルリは早朝目を覚ました。
 胸が痛むのだ。
 二日前は、寝る前にグリースが胸の汁を絞り出してくれたが、昨日はそれがなかった。
 ネグリジェを脱いで、ブラジャーを外す。
 張っているのが見るだけで分かった。
 何とか絞り出そうとするが、あまり汁が出てきてくれない。
 どうしようと途方に暮れる、この城の者は呼びたくない、こういうのを見られたくないからだ。
「……グリース」
 小声で呼んでみる、来るのかどうか不安だった。
 少しして。
「はいよ、どうした……おっとその恰好ちょっと不味いね」
 グリースが現れた、ルリの恰好を見て目を隠すと、指を鳴らした。
 何か音がし、鍵もかかる音がした。

 グリースは目を隠しつつ、隙間からちらりと見て、ルリの状態を把握する。
 そして察する、昨日胸の汁を絞らず寝てしまったのだと。
 分からなくもない、気を許してない、それどころか怖い相手に自分の体の不調、できればあまり言いたくない不調を訴えるのは酷だろう。

「……見ていいよ」
 ルリがそう言うので、グリースは目を隠していた手を取る。
「触っていい?」
「うん……」
 胸に触る、正直言って、柔らかくはない、すごく張っている。
 軽く絞ってみるが汁がにじむ程度にしか出てこない。
「……ルリちゃん、ちょっと痛いかもしれないけど我慢できる?」
「……うん、できる」
 グリースは確認を取ったうえで、少し強めにルリの胸をマッサージする。
 しばらくマッサージすると、汁が勢いよく胸から出た。
 殆どでなくなるまで搾り出す。
 汁が最初のように滲む程度しか出なくなって、グリースは絞るのを止めた。
「うーん、早めにあの二人に一回投与で済む薬作らないとなぁ……さすがにルリちゃんが大変だろう、胸張るのがなんか日に日に悪化してるように見えるし……」
 グリースは困り顔をしてルリに聞くと、ルリは何かもじもじしている。
 よく見ると顔が真っ赤だ。

――あ、しまった、胸張ってるの対処すると高確率でこうなるの忘れてた――

 しかし、ここでやると匂いが残る。
 匂い残すような行為をしたら流石にアルジェントがブチギレる。

「……ルリちゃん、抱くのはできないから、ちょっと手だけで我慢してくれる」
 グリースがルリの耳元で囁くと、ルリはこくりと頷いた。
 ルリが頷いたのを見て、グリースはショーツの中に手を入れる。
 既にジワリと濡れたソコへと指を入れ、膣肉をかき分けて触れるようになっているポルチオ部分を執拗に愛撫する。
 ルリはグリースの服を噛んで必死に声がでないようにしていた。
 隠れ家なら、性行為に及んで発散ができるし、ルリも好きなだけ喘げるが、この城はルリにとってそうでは無いので、手での愛撫のみで発散してもらうしかない。
 それに過去に性行為に及んだらアルジェントが凄まじくキレてルリに無理やり性行為とか調教じみた行為をやったのでここで性行為するのは非常に不味い、これも性行為にある意味入るがまだ、マシだと思っている。

 ぐちゅぐちゅと音を立てて、肉壺は指に絡みついている。
 非常に熱く、締め付けもすごい、指だけで大丈夫かと不安になってきたが、敏感な箇所を執拗に指で愛撫した。
 ルリは服を噛んだまま、声を必死にこらえて、グリースの腕を強い力でつかみ、体を丸めて、びくびくと震えた。
 掴んでいた手がグリースの腕を叩く。
「大丈夫?」
 グリースが尋ねると、ルリは服を噛むのをやめて小さく頷くと、ぐったりとグリースにもたれかかった。
「おっと……」
 グリースは意識が飛んだルリを抱きしめて、下着を整え、ネグリジェを着せてからベッドに寝かせ、毛布を掛ける。
「……母乳の事どうしようかねぇ、あの二人に任せるにはちょっとアレだしなぁ……」
 グリースは困ったように呟くとどうしようもならないと首を振って、その場から姿を消した。

 それから数分後、アルジェントが異変を察知したのかルリの部屋にやってきた。
 アルジェントが見たのはベッドの上で穏やかに眠っているルリの姿だけだった。
 過去の現状把握をしようと術を使用したが、別の術に阻まれ出来なかった。
 アルジェントは誰が阻む術を使ったのか予想がついた。
 だが、気になる点があった、グリースが早くに来る理由がないのだ。
 つまり、ルリが一度起きてグリースを呼んだことになる。
 何のために呼んだのかアルジェントは思いつかなかった。

 アルジェントはルリを起こさないよう静かにベッドに近寄り、髪を撫でる。
 今まで見れなかった顔を見つめ、頬を撫でる。

 愛おしくて仕方がなかった。

 唇にそっと口づけしたかった、触れたかった、だがアルジェントは堪えた。
 ルリを起こしてはならない、彼女は自分を怖がっている。
 だから、耐えなければ。

 アルジェントは名残惜しそうにその場を後にした。

 部屋はルリの静かな寝息と時計の音だけが聞こえるようになった。




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