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君を守るため
不安はまだ消えないけれども ~今回はいい加減ちゃんとしろよ!!~
しおりを挟むルリを再度保護して三週間が経過した頃、グリースは正直やりたくは無かったが、再びルリをお試し期間と言う名目で一旦、ヴァイスの城に帰すことにした。
もちろん事前にルリには言ってある、ヤバかったら即ここに連れてくる、そうじゃなかったら期間が終わるまで城でゆっくりする、そういう風に言ってある。
ルリは少し不安そうだったが、それも仕方ないと納得している、前回相当自分がいない一日が相当酷かったからだ。
そしてルリに酷だが、一日だけこないという日を設定しておいた。
その日の対応によって即座にここに連れて戻るとかも勿論考えている。
そしてルリの体の事も考えてブラとかも用意して鞄に詰めた。
相変わらず母乳――基汁が胸から垂れるのだ、日に日に量が増えて行ってるし、胸の張りも酷くなっている気がしている。
でも、あの薬を止めると、確実にあの二人がルリのフェロモンにやられる。
その為、この期間中もルリには毎日薬の服用をするように言いつけた。
破ることはないだろう、二人が文句を言うかもしれないが、其処も脅して説明するつもりだ、じゃないとルリが酷い目に会うのが目に見えている。
ルリには酷い目に会ってほしくない。
グリースはカバンに薬や替えの特殊なブラジャー等を詰め込むと、動きやすい恰好に既に着替えているルリを呼ぶ。
「ルリちゃんー」
「……うん」
ルリは少し怯えているようだった、グリースはルリの頭を優しく撫でて言う。
「呼べば行くから、行かないって言った日もちゃんと行くから。それは覚えておいて。君を苦しめるのが目的じゃないから、これも覚えておいて」
頬を包み、こつんと額を合わせて、幼子に言い聞かせるように優しく言うと、ルリはこくりと頷いた。
「よし、じゃあ行こうか、向こうにはそっちにお試しとして戻れるかどうか確認するために連れていくからって程度の連絡はしてるから」
「……うん」
「無理そうなら我慢しないでね、俺はそれが目的で帰すわけじゃないから」
「……うん」
まだ不安そうなルリの頬に口づけをし、頭を優しく撫でる。
ルリは頷いた。
グリースはふうと息をつくと、鞄を背負い、ぬいぐるみとスマートフォンを持ったルリを抱きかかえた。
「じゃあ行こうか」
「うん……」
グリースはルリを連れて隠れ家から外に出ると、其処から城のルリの部屋へと転移した。
ルリの部屋は主が居なくても綺麗に掃除されていた。
いつ戻ってきてもいいようにベッドメイキングもされている。
グリースはルリを床に立たせる。
ルリは歩いてベッドに座り、枕元にぬいぐるみを置いた。
扉からは相変わらず顔を背けている。
扉が開く音に、ルリは置いたぬいぐるみを抱きしめて、不安そうにしていた。
「大丈夫だよ、ルリちゃん」
グリースはルリに近寄って頭を優しく撫でる。
ルリは頷かなかった。
グリースは明らかに不満そうだが、フェロモンにはやられている気配はなさそうなアルジェントを見て少しばかり安心する。
「アルジェント、くれぐれもルリちゃんを怖がらせるなよ」
「いいから貴様はとっとと失せろ、ルリ様に近寄るな」
相変わらず自分には敵意マシマシな様子のアルジェントを見て、グリースは呆れの笑いを浮かべた。
グリースがアルジェントを見ているとその近くに闇が現れ、人型を作った。
ヴァイスとアルジェント二人そろったのを見て、グリースはルリに特殊なイヤホンを見せた。
「少し説明してるから、それまで音楽を聴いててね」
「うん……」
ルリが頷くと、グリースはイヤホンをつけさせた、これでルリには自分たちの会話は聞こえない、怒鳴り声なども。
グリースは二人を見てばりばりと頭を掻く。
「さて、どこから説明しようかね……まぁいいや、お前ら二人がルリちゃんに酷い性行為したのはルリちゃんのフェロモンの中にあるちょっと厄介なのが誘因させてたのが分かった」
「――そのフェロモンだけ除去はできないのか」
「それができたら苦労しない、だからそのフェロモンどうすればでないか実験した、結果が――妊娠している状態だと発生しない、消えるのが分かった」
グリースの言葉を聞いたアルジェントが掴みかかってきた。
凄まじい怒りの形相だ、ルリがこちらを見てなくてよかったとグリースは内心安堵した。
「貴様まさかルリ様を……!!」
「アルジェント、最後までグリースの話を聞け」
胸倉をつかんでいるアルジェントをヴァイスは静かにたしなめる。
「しかし……!!」
「アルジェント、二度は言わぬ」
ヴァイスの言葉にアルジェントは渋々グリースの胸倉を掴むのを止めて少し下がる。
「……グリース、どうしたのだ?」
「ああ、だから体に自分は妊娠していると誤解させる薬あったのを思い出してな、それを試してみたら効果がでた、通常時の依存症になるレベルより低くなってるし、悪影響を出す奴は出なくなった」
「――ああ、あの薬か、その後すぐ避妊薬ができたのであまり使われなくなった奴か」
「それそれ、まぁ悪いのは出なくなったがその薬の副作用が出た」
「まさかルリ様の体に害をなすような――」
「アルジェント、最後までグリースの話を聞くがよい」
ヴァイスが言うと、掴みかかろうとしてきたアルジェントは少し下がった。
「まぁ、胸が張る……ぶっちゃけると母乳みたいのが出る様になった」
「……他に方法は無かったのか?」
「俺の体から発生している中和剤の方も研究中だが、いちいち香水みたくするのも手間だからお前らに一回投薬したら終わりのを今制作中だ、それまではルリちゃんに我慢してもらわないと、お前らがフェロモンにやられて理性ぶっとんでルリちゃん襲うとかあり得るだろうが」
苦々しい表情のアルジェントを見て、グリースは肩をすくめながら説明した。
「何度も言うけど、本当ルリちゃんの扱いマジで気をつけろ!! お前らが本当に扱いアレなの続けると、マジで俺帰さないの検討しはじめるからな最悪!!」
「ぐ……」
「……」
アルジェントと、ヴァイスの表情が曇る。
二人がかりでもグリースには勝てないからだ、グリースが本気でルリをここに帰さないという行動に出られたら二人は止めることができない。
だが、グリースもいきなり盟約を結べといった立場の存在だから、いきなり連れ去るつもりはない、こうして警告を繰り返して、それでも「あ、こいつ等もうだめだ」と感じたらルリを盟約なんて知るかと言わんばかりにここから完全に連れ去り、自分の隠れ家で生きるのが辛くなるまで過ごさせる気だ、生きるのが苦しくなったら、苦しまないよう殺す気もある、彼女を深く愛しているからだ。
「まぁ、とりあえず、ルリちゃんが怖がることはするな。俺は事前に言った日以外は毎日来るが基本ヤバくない限りは長居はしない。ただしルリちゃんが俺を呼んだら来ない日だろうといつでもここに来るからな。覗き見は基本しないが、ルリちゃんの声には反応できるようにはなってるからな」
グリースはそう警告する、自分は覗き見はしないが、ルリに危害、害、怖いことをするなどした場合はすっ飛んできて殴る気満々であることを事前に言っておくことで二人がフェロモンの悪影響がない時でもルリを苦しめる行為をさせないためである。
悪影響がない場合でも何もしないとはグリースは未だ信用しきれていないからである。
前回のがフェロモンが原因だったとしても、こうも愛してやまないルリと引き離されて久々会えたのだから何かするんじゃないと内心ひやひやしている。
だが、今回連れてきたのは、フェロモンがなくてもルリが「怖い」と思うような行為をするか否かを確認する意味でもあった。
だから、あまり期間を開けるのは不味いを思って今連れてきたのだ。
――さて、今回、期待はしてないが、するんじゃねぇぞ?――
グリースはそう思いながら、話すことは全て話したのでルリのイヤホンを外した。
「……お話、終わった?」
ルリが不安そうにぬいぐるみを抱いたま尋ねてくる。
「うん、話した。今日は不安だろうから眠るまでいるよ、明日からは少し違う、あと一日だけ来ない日がある、教えたよね」
「うん」
「ただ、その日でも何かあったら呼んでいい、駆け付けるから。だから声は出してくれ、怖くても、ルリちゃんに俺がちょっと大変だけども頑張って欲しいところはそれだ」
「うん……」
ルリはこくりと頷いた。
この城にはいい思い出がほとんどないのだ、あったとしてもほんの僅か、それでは足りないのだ、ルリの幸せのためには、平穏のためには、たくさんの良い思い出を作れる場所になって貰わなければ困るのだ、それができないのなら、永遠に隠れ家で過ごさせる気でいた。
「……私は戻る、後は任せた」
「畏まりました」
ヴァイスが居なくなる、本来棺で眠っている時間だ。
ルリの部屋居るのはグリースとルリ、アルジェントの三人になる。
ルリはぬいぐるみを抱きしめながらグリースの服の袖を掴んでいる。
「……」
アルジェントはそれに不満そうな雰囲気を出している、ルリは気づいてないようだったが、グリースには伝わった。
相変わらず自分はアルジェントに嫌われているなとグリースは思いつつ、袖を掴んでいるルリの手を握る。
「……」
ルリはきゅっとグリースの手を握り返してきた。
かすかに手が震えている。
アルジェントが怖いのだろう、グリースが居なくなったら自分が何をされるか分からないから怖いのだろう。
「大丈夫だよ、ルリちゃん」
「ん……」
ルリの頬を優しく撫でると、ルリはすり寄ってきた。
自分には心を許しているのが分かった、だから裏切るつもりは無かった。
ルリが「声」を出して自分を呼べば前回と異なりすぐ反応できるようにしている、異変があったらすぐ助けを呼ぶように言い聞かせている。
それに今日は眠るまで一緒にいるつもりだ、ヴァイスには悪いが今晩はルリをゆっくり寝させてあげて欲しいと思った。
ルリはアルジェントにはあまり話しかけず、関わるのを恐れるような仕草を見せていた。
グリースはアルジェントは鉄面皮で対応しているが心の中では酷く落胆しているのがわかった。
愛している者から怯えられ、恐れられ、ある意味拒絶されているのは辛いだろう。
だが、全てアルジェントがしたことが原因だ、フェロモンの影響でやってしまったことであろうとそうでなかろうと、アルジェントはルリに無理強いをしすぎている。
ヴァイスもそうだ、ルリに無理強いをしすぎている。
それを反省したうえで、ルリと向き合ってほしい、向き合えなくても彼女に優しく接してあげることをもう一度覚えなおしてほしい、できないわけではないのだから。
ルリはその日、少し怖いという感情を抱えていたが、眠る時までグリースが傍にいてくれたため、眠ることができた。
明日からは、城にいた時と同じような生活に戻る。
不安がないわけではない、でも、声をだそう、出せばきっとグリースは来てくれる、そんな安心感から何とかベッドの上で眠ることができた。
先はまだ、見えないけれども。
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