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君を守るため
こわいばしょ ~とりあえず試してみるか……~
しおりを挟むグリースがルリを隠れ家に連れてきて一緒に住まうようになって一か月が経過した。
グリースにとって少々不味い事態になっていた。
ルリの自分への依存が日に日に悪化してるのだ、このまま帰すと不味い、色々と。
ルリが自分を「愛した」なら覚悟はする、だがこれは「依存」だ、「愛情」ではない。
彼女の精神状態から突き放すことも難しい今後またルリの精神が軋んだ場合を考えると突き放すのは得策ではない、結果グリースは頭を抱える羽目になっていた。
すやすやとベッドで眠っているルリを見て、頬を撫でため息をつく。
ここ毎日、性行為をせがみ、体のふれあいを要求してきて、少しでも外出すれば、精神が一気にガタンと不調になるのを見ている為か、いつ城に帰せばいいのか非常に悩みどころだった。
いつまでもここに置いておくわけにはいかない、グリースは悩みに悩んで決めた。
――よし、一度ヴァイスの城に戻そう、試しだ、ダメならまた連れてくればいい!!――
明後日ルリをいったん戻そう決めた。
が、これが結果的としてとんでもなくダメな結果をもたらす事を、この時のグリースは想像もしていなかった。
後日彼は「あの時の俺がバカでした!! というか反省してるか分からない奴らの所に戻すって選択肢選ぶ前に気づけよ当時の俺!!」とこの選択をした自分を責めることとなる。
「……」
二日後グリースは明らかに不安そうなルリを抱きかかえながら、城のルリの部屋へと戻った。
ルリはぬいぐるみを抱きしめ、スマートフォンを手に持ち、無言だ。
「ルリちゃん、大丈夫だから、お試し期間だから、ダメそうならまた隠れ家に連れて戻るから」
グリースは困ったような顔をしてルリの頭を撫でると、ルリは無言のままこくりと頷いた。
ベッドに座らせ、隣に腰を下ろし、ルリの頭を撫でる。
ルリは怯えと不安でいっぱいの表情をして、グリースの服を掴んでいる。
グリースは今更ながら自分の決断は良かったものか悩んでいた。
「……大丈夫今日は寝るまでいるから」
そう言ってグリースが彼女の頬を撫でれば、ルリは目を細めすり寄るような仕草をして少し安心した様に見えた。
扉が開く音がした、ルリは体をこわばらせて、グリースの服を掴む。
「……る、り、様? ルリ様!!」
「アルジェントそっから動くな!!」
扉の傍にいるであろうアルジェントに、グリースは怒鳴り声で静止を命令する。
「……グリース貴様……」
アルジェントはグリースへの敵意を隠そうともしてないが、一応近寄るのは止めたようだ。
「……ルリちゃんが、ここで過ごしても大丈夫か少し確認させてもらいたから、一旦ここに連れて来ただけだ」
「……」
「今日は俺はお前らからすると厄介だろうが、この部屋にいる。ルリちゃんが寝るまでな、寝たら俺は帰って明日からは様子見しつつ来る程度にしておく、その間に――」
「――馬鹿な事してルリちゃんの精神が軋むような事があれば俺は即座にもう一回連れ帰るからな」
グリースはルリの頭を撫でながらアルジェントを睨みつけた。
アルジェントは反論したそうにしていたが、前科がかなりあるので反論ができない様で悔しそうに顔を歪ませた。
「……ルリ様、お召し物を着替えましょう」
アルジェントが声を絞り出すように言うと、グリースに抱き着いているルリは嫌々と言わんばかりに首を振った。
「嫌だとよ」
グリースが追い打ちするようにルリの意見を伝えた。
表情をゆがめ、自分の腕を強く掴んでいるアルジェントを見ると、今更ながら本当にこの行動は正解だったのか疑問がわいてきた。
アルジェントはその後も、ルリに何か要望はないかと尋ねるがルリはアルジェントを拒否しているかのように首を振っていた。
日が暮れると、ルリはうとうととし始めた。
「ルリちゃん、寝る前に着替えようか?」
グリースがそういうとルリはこくりと頷いて、グリースの服の袖を引っ張ったままタンスまで向かいネグリジェを取り出すと、その場で着替えた。
「グリース貴様……!!」
アルジェントが食って掛かろうとすればグリースはぎろりとにらみつけてルリの着替えを手伝い、ルリの着ていた服を畳んでベッドの隅に置く。
ルリはネグリジェになると、目をこすりながらグリースの服を掴んだまま歩き、ベッドに横になると、ぬいぐるみを抱きしめる。
グリースはルリに毛布をかけ、頭を優しく撫で、微笑みかけて額にキスをした。
「明日また来るから、お休み、ルリちゃんいい夢を」
「うん……お休み……」
ルリはふにゃりとグリースに笑いかけてから、すとんと眠りに落ちた。
「……いいか、まだルリちゃんは色々と良くなってない点がある、後術とかかけたりするなよ、術への耐性が底辺より下って酷いレベルまで落ちてるからな!! うっかり術をかけないよう俺の術で防御してるけど、それでも術とかかけようとするなよ!! 眠らせようとか考えるなよ、いいな!!」
「……分かった」
「じゃあ、俺はヴァイスにもそれ言って帰る、んじゃな」
グリースはそう言って姿を消した。
グリースが居なくなると、アルジェントはルリに駆け寄った。
ぷらんと先ほどまでグリースを握っていたであろう手が、ベッドからはみ出ていた。
アルジェントは縋るかのようにその手を両手で握った。
此処から連れていかれる時は酷く冷たく、細くなっていた手は柔らかく、温もりを持つものになっていた。
その手にそっと口づける。
「ルリ様、ルリ様、ルリ様、お願いです、どうか二度と――」
――ここから出て行かないで、私達だけのルリ様でいてください――
アルジェントはぐっと言葉を堪えたが、それでも懇願するように眠るルリを見つめた。
アルジェントも部屋からいなくなる程月が上った時間帯に、ヴァイスはルリの部屋に姿を現した。
ヴァイスはルリの傍に近寄る。
ルリはベッドの上でぬいぐるみを抱きしめたまま深い眠りに落ちていた。
ちょっとやそっとの刺激では起きそうにもない。
ヴァイスは堪え切れず、見えている白い首筋に牙を食い込ませた。
「ん……う……あ」
ルリから声が上がる、彼女の表情が何処か怯えた表情になっているのに、吸血に夢中のヴァイスは気づけなかった。
ヴァイスが吸血行為を終えると、ルリの吸血痕は塞がった。
ヴァイスは名残惜しそうに首筋を撫でていると、ルリがうなされているような表情をしているのに気づいた。
ヴァイスはどうするべきか少し悩んでから、ルリの頭を撫でてみる。
頭を撫でられる感触に安心したのか、ルリは穏やかな表情をになって眠り続けた。
ヴァイスはルリの薄紅の唇をすっと撫でてから、ルリの部屋を後にした。
ルリは朝目を覚ました。
隣に今までいたグリースの姿はない、それに酷く不安になった。
――此処は、怖い場所――
ぬいぐるみを抱きしめ、怯える。
がちゃりと扉が開く音に、体をびくっと震わせる。
「――ルリ様、おはようございます」
静かな声に、ルリははくはくと口を動かした。
恐怖で声が出ない。
ルリは背中を向けて声の主から視線を必死でそらした。
足音が聞こえてくるのが酷く怖い。
――近寄らないで、怖い、貴方は怖い――
ぬいぐるみを抱きしめカタカタと震える。
「ルリ様」
自分の視界にその人物は入ってきた。
拒否の声も、助けを求めたい相手の声も怖くて出ない。
その人物の顔が分からない、仮面をかぶっているように見えた、笑っているような仮面をつけてルリの目には映った。
「ルリ様、声を聴かせてください、触れさせてください、貴方をお慕いしているのです」
ルリは後ずさった。
――私はこの人を知っている――ああ、この声はアルジェントの声なのに何故――
――仮面をしているの?――
ルリにはアルジェントが顔に真っ黒な仮面をつけているように映るのだ、わずかに表情が分かるような絵が浮かんだりしているが。
それが酷く不気味だった。
ルリはアルジェントが仮面をつけているのではないのが分かった、自分がアルジェントの顔を恐れているのだ、無意識にその表情を見ることを拒否している結果――脳が勝手に処理して彼の顔には仮面がつけているように見えるのだ。
「――ぐ、りー、す、いや、こわい!!」
ルリは声を必死なって発して助けを呼びぬいぐるみを抱きしめて蹲った。
「おい、アルジェント、何したお前?」
グリースはアルジェントとルリを引き離すように割って入るように出現し、ルリを抱きかかえた。
「グリース……貴様!!」
「うるせぇ黙れ。……ルリちゃん、どうした……? 何を、見たんだい?」
グリースはそう言ってルリの額を合わせた。
グリースはしばらく無言になってはぁとため息をついた。
「仮面」
「何を言ってる?」
グリースの言ってることを理解できないらしい、アルジェントは疑問の声を上げる。
「お前の顔、ルリちゃんの目には真っ黒な仮面が張り付いて見えてるんだとよ」
「ど、どういう事だ?!」
「知らね、多分――ヴァイスも同じだろう。きっとルリちゃんは――」
「お前らの顔を見るのが怖いんだろうよ」
グリースはそういうと、腕の中でぐすぐすと泣き始めているルリの頭を優しく撫でた。
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