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君を守るため
ねむりにおちる ~予想的中、そしてこれからマシになるといいんだが~
しおりを挟むグリースはアルジェントから放たれる氷魔法を避けながら、どうやって彼に近づくか悩んだ。
フェロモンはなるべく弱い物にしたのだ、強い物だと周囲に残って悪影響がでかねない。
だから、このルリのフェロモンを直に嗅がせる必要がある。
「がああああああああ!!」
雄たけびを上げながら狂ったように攻撃を仕掛けてくるグリースを止める手段はヴァイス位だが、寝てる奴をたたき起こすのもちょっと借りを作る感じで嫌だった。
なので、身体の防御力を極限まで高めて、アルジェントに突っ込むことにした。
アルジェントは攻撃が全く効かなくなっても怯むこともせず攻撃を続けている。
――あー完全に正気ねぇなこいつ、よく普通に仕事……あ、もしかしてルリちゃんの残り香的なフェロモンがあったから正気保てたけど、限界に来てたところで俺来て正気ぶっ飛んだ的な?――
――だったら、悪いことしたなぁ――
そう考えつつ、アルジェントの頭を鷲掴み、床にたたきつける。
じたばたとあがく彼の鼻に、ルリのフェロモンで精製した液体を吹きかけた。
「る、り、さ、ま?」
殺意と本能に染まっていたアルジェントの目に理性の光が戻る。
「あーやっぱりか、こいつは面倒だな」
「……おい、グリース貴様何をしている」
意識を取り戻したアルジェントは自分の頭を鷲掴んでいるグリースの手を頭から引きはがした。
――今のはルリ様の香り……何があった、いや私は何をしていた?――
正気じゃなくなっていた頃の記憶がないのか混乱しているアルジェントにグリースは詳細を話した。
「……なるほど……依存性……そして貴様が手に持っているのが……」
「かなーり薄いけど、ルリちゃんのフェロモンが詰まった香水の瓶だよ」
「……」
「城の連中の詳細を診たところ、ルリちゃんのフェロモンとかで依存症が発生してるのはお前とヴァイスだけだ」
「……ヴィオレ様と……カルコスは?」
「そこまでフェロモンに当てられていない、だから依存症になるのを逃れている」
「……そうか」
「一番フェロモンに当てられてるのが俺ら三人だ、中でもアルジェント、テメェが特にだ。だが、俺と違ってフェロモンの依存症になってる、定期的にフェロモン嗅いどかないと正気失うぞ。ヴァイスにいたっては他の血を受け付けなくなるレベルで依存症が出てやがる」
「……」
「ルリちゃん戻すって話しは無しな!! まだルリちゃんダメージ大量に残ってるんだよ!! そんな状態で此処に帰すってのがまず自殺行為だわ!!」
グリースはルリの精神と肉体の健康状態がまだよくないのでアルジェントの言いそうなことを先に否定しておいた。
「てなわけでほれ」
グリースはアルジェントにフェロモン入りの香水瓶を渡した。
「使うなら自室で使えよ!! 何かあっても俺責任取らねぇからな!!」
「……何故だ」
「今お前らに何かあって吸血鬼の国がごたつくと不味いの!! ルリちゃんの立場とかも含めて!! いいか、俺はお前らがどうなろうが本当はどうでもいいんだが、結果としてルリちゃんがヤバい事になるのだけは絶対防ぎたいだけだからな!! それで正気保たせとけ、足りなくなりそうな頃にまた持ってくるから、それまでは正気でいろよ」
グリースはそう言ってその場から姿を消した。
「待て……!! くそっ!!」
アルジェントは舌打ちする。
渡された香水瓶の様なものを見る。
正直あの不死人からもらったものだ、今すぐ床に叩きつけたい衝動に駆られるが、ぐっとこらえて自分の部屋に戻る。
鍵をかけ、術で結界と匂い等が外に漏れないようにする。
恐る恐るボタンらしき箇所を押した。
頭に無臭のはずの中にあるものに反応する。
――嗚呼、間違いない、ルリ様の香りだ――
ぼろぼろと涙が零れる。
愛しい香りに、涙が止まらない。
「あ、あ、あ、あ」
両手で顔を覆う。
「ルリ様、ルリ様、ルリ様、ルリ様……!!」
八日、今までだったら大した時間ではなかったものが酷く長く感じる。
顔を見たい。
声を聴きたい。
名前を呼んでほしい。
抱きしめさせてほしい。
何故自分では駄目なのか、何故主では駄目なのか、何故よりにもよってあの不死人なのか。
分かってる、自分たちでは彼女を傷つけるだけなのだと。
どうしても、彼女を求める感情を抑え込めない、感情が暴走する。
――貴方様の愛が欲しい――
身勝手なのは重々承知だ、身の程知らずなのもよく分かっている。
それでも、望まずには入れなかったのだ。
グリースは隠れ家に戻ると、ルリがソファーの上ですやすやと眠っているのが分かった。
起こさないようそっと抱きかかえてベッドに連れて行き、ブランケットをかける。
「よしよし……」
しばらく眺めていると突然ルリは怯えたような表情になった。
苦しそうに身をよじり、哀願にも懇願にも似たような声が上がる。
弱弱しい助けを求める声に、グリースはルリの体をゆすった。
「ルリちゃん、ルリちゃん!」
しばらく声をかけながらゆするとルリはゆっくりと目を開けた。
怯えた色をしていたが、グリースの顔を見るとそれは消えて安堵の色へと変わる。
表情も穏やかなものになった。
「ぐ、りー、す。お、か、え、り」
「……ただいま、大丈夫かい?」
「う、ん」
「……嘘だね、大丈夫じゃない」
グリースはそういうとルリを抱きしめて、優しく髪を撫でた。
「言わなくていいよ、怖い夢みたんだろう、それは夢だよ、安心して」
「……う……ん」
ルリはぐすぐすと泣き出し始めた。
ルリの状態はあまり良くない。
夢でうなされる事もまだ多々ある。
その時は即座に起こすようにしている、それは夢なのだと教えるため。
悪い夢は、ただの夢。
忘れてしまおう。
グリースはルリをもう一度ベッドに寝かせて頬を撫でる。
「昨日セックスしたから、不安が今でてきちゃったんだよ。発情が来たとかじゃない限り、あんまりしないようにしようね」
ルリは頷きも首を振りもしなかった。
答えが出てこないようだ。
「……まぁ、ゆっくりやっていこうって話だよ。昨日したから今日はしないよ」
頭を撫でて、額にキスをして微笑みかけると、ルリは少し納得した様に頷いた。
「……何か飲む?」
「……さ、い、だー」
「サイダーね」
グリースはルリの言葉を聞くと、寝室を出てリビングに向かい冷蔵庫からサイダーのボトルと取り出し、グラスに氷と一緒に入れて注ぐ。
ボトルを仕舞い、冷蔵庫を閉じると、グラス片手に寝室に戻る。
ベッドの上で上半身を起こしているルリに近づき、口にグラスを近づける。
ルリは少し震える手で、グラスを両手でつかみ、サイダーを一気に飲み干した。
ルリは飲み干すとふうと息をついた。
グリースは飲み終えたグラスをすっとルリから受け取った。
「……ね、むぃ……」
ルリは目をとろんとし始めた。
「いいよ、眠いなら、ゆっくり休むんだよ。ルリちゃんは本当に疲れてるんだから」
グリースがそう言うと、ルリは頷き、目を閉じた。
しばらくすると、寝息が聞こえ始める。
グリースはルリをちゃんをちゃんとベッドに寝かせ、ブランケットかける。
額を優しく撫でて、ベッドから離れる。
隠れ家の外に出て、家の前にいる使い魔達を見ると手をたたいた。
使い魔達は一つに混じり合って、小さな飴玉のような物体になり、グリースの手の中にぽとんと落ちた。
「さぁて、バカ共は次は何考えてる?」
飴玉らしき物体を口に入れ、かみ砕いた。
グリースの脳内様々な情報が一気に流れ込む。
「……今のところは、大人しい、か。今までの隠し事が明らかになってかなり不安定でそっちの対応に追われてて吸血鬼の国にむしろ援助を求めている、と」
グリースは鼻で笑った。
「これはますますヴァイスには元気でいてもらわねぇと不味いな、あいつが不調になったら奴らまたやらかすだろうしな!」
グリースは家の中に戻る。
リビングのソファーにどっかと座り、空中に、画面のようなものを浮かばせる。
グリースの耳にだけ音声が届く。
「はぁ~~政治家、官僚一族でかかわった連中はみんな処罰の対象になったのか、あと研究所の責任者も処罰と、魔術師の一族と、不死人への今後の対応で現在もめてると……は、だろうな!! 心配なのは宗教活動家の動きだ、なんか吸血鬼排除をまた叫び始めてるってことだな……」
グリースは画面のような物を消した。
「全く、これだから宗教はロクなことがないし、政治家は本当アレだぜ!!」
グリースはソファーに寝っ転がる。
「……さて、俺は様子見しつつ介入だな、悪いけど吸血鬼にも人間にも滅んでもらっちゃあ困るんだよ、つーか関係が良くなるならともかく、悪化して吸血鬼が滅ぶか、人間が被支配されるのは困るんだよ」
グリースはそう呟くと目を閉じた。
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