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君を守るため
なんだろう? ~依存症状か?~
しおりを挟む「?!」
グリースは風で防御してヴァイスの攻撃をかわしながら距離を取る。
――何あったんだ此奴?!――
ヴァイスの状態は明らかにおかしかった。
どう見ても理性の光も感情の動きも垣間見えない、本能で攻撃している。
口端からだらだらと唾液を垂らし、何かに飢えているような匂いが感じられた。
等と色々考えてきたら、一気に距離を縮められた。
「げ?!」
グリースはとっさに、ヴァイスの顔面を蹴り飛ばすがヴァイスはグリースの足と掴んで地面に何度も叩きつけた。
「いで?! マジでキレるぞおい!!」
グリースが怒鳴り声を上げてもヴァイスの行動は変わらない、漸く手を離したと思い、グリースが上半身を起こした直後、ヴァイスが飛びかかってきた。
「いっで!!」
グリースは硬い地面に後頭部を強く打ちつける、ヴァイスはグリースを押し倒すような恰好を取り、そのままグリースの白い首筋に牙を立て、血を貪りはじめた。
「があああああああ!!」
血を貪っていたヴァイスは、首筋から口を離し、絶叫してその場に倒れて苦しみ始める。
「いってぇ……」
グリースは首筋をさすりながら立ち上がり、ヴァイスを見る。
「何があったかわからねぇが、お前忘れたのか、他の不死人の血はともかく、俺の血は俺が許可してない相手には劇薬――下手すりゃ死ぬレベルの猛毒だってこと!!」
ヴァイスは苦しみ、喉を抑えてうめき声をあげたまま、倒れている。
「……何があった?」
グリースは慎重に歩み寄り、ヴァイスの顔を覗き込み、血色の目を赤く染まった目で「診て」みた。
ヴァイスの症状と、人間の国に合った研究データから該当する情報を探し出し、そして目を閉じて呟く。
「なるほど、お前の場合は他のでもいいから血を飲んでれば何とかなったのに、飲まなかったから禁断症状が出たのか、いやはや、一週間の吸血断ちで、依存症状が出るとはルリちゃんの血も相当やばいな」
グリースはそう言うと、ヴァイスの頭を鷲掴みにし、術をかけた。
正気に戻すための術を。
ヴァイスの目に理性の光が戻り、目も血の色から真紅へと戻った。
「……グリース? ……此処は『廃墟』か? 何故こんなところに……」
「お前が俺を襲ったからだよ、このくそボケ!! 何で血を飲まなかった? 今までだってルリちゃんの血を飲んでない時は他の血飲んでただろう?」
起き上がったヴァイスに、グリースは咎めるように言う。
「……飲めぬのだ」
「は?」
ヴァイスの言葉に、グリースは耳を疑った。
「……最初は飲む気が起きなかっただけだった、しかし飢えに我慢できず血を持ってこさせたが全て吐いた。体が受け付けてくれぬのだ……」
「いや、そんなの知るかよ」
ヴァイスの吐き出すような言葉にグリースは頭が痛くなった。
つまり今のヴァイスはルリの血以外は体が拒絶反応を起こしてしまう状態にあるのだ。
グリースは頭が痛くなった、もしこれが原因で真祖であるヴァイスが弱体化したとなれば、人間の国はその隙をついてくるに違いない。
また、配下の吸血鬼達にも問題がある連中はいる、このままヴァイスが血を飲まず、弱まられては困る。
グリースは深いため息をつき、一つの決断をした。
グリースは転移の陣を展開し、ヴァイスとともに隠れ家の前に戻る。
「いいか、近づくなよ」
ヴァイスに釘を刺して隠れ家に入ると、空間を開けて何かを取り出す。
血を採取するような器具だ。
グリースは寝室に戻り、寝ているルリの腕に消毒した針を刺し、器具で血を抜き取る。
一定量抜き取り、何かのパックの中に血がつまったのを見ると。針を抜き、消毒した上で傷を念のため消す。
「ごめんね」
小声で呟いてルリの頭を優しく撫でて、その場を後にする。
隠れ家の外に出て、息を荒げて必死に吸血衝動と戦っている状態のヴァイスに、ルリの血の詰まったパックを渡す。
「これは……まさか」
「寝てるルリちゃんから採取したての血だぜ、さっさと飲め」
ヴァイスはパックに牙を立てて破き血を貪った。
――これ相当だな、飲み口ついてるのも忘れてやがる――
グリースはヴァイスが捕食するように血を摂取するのを見て若干引きつつ思考する。
――ルリが居る時は他の血も飲めた……だが今は飲めない、精神的なもの?――
――それもないわけではないだろうが……不死人の血の依存性に真祖のヴァイスがこうやられるのも不思議なわけで……ルリちゃんの血がやっぱり特殊なのか……?――
――そうだな、フェロモンもちょっと変わってる……まてもまさかフェロモンにも依存性があるとかないよな?――
グリースは何か予感を感じた、ルリは他の不死人の女とは明らかにデータが違いすぎるのだ。
吸血鬼人間の理性を吹き飛ばす程の濃いフェロモンが出ていると思えば、精神が弱った途端そのフェロモンは一気に減少する。
発情も、確かに他の女性同様性行為するまで、発情はしっぱなしだが、日に日に状態が悪化するのは今のところルリのみ。
そしてこの二千年間男の不死人は現れているが、女の不死人はルリが不死人になるまで一人たりとも現れなかった、ルリという初めての女の不死人が現れてから女の不死人の出現が確認されるようになった。
考えれば考える程気になることが大量に出現してくる。
その結果ルリを人間の国に帰すという選択肢は消されていく。
今のところ安全なのは自分の隠れ家と、ヴァイスの城の二択だけだった。
そしてふと頭に、真祖のヴァイスはこうなっているのだ、不死人になって、フェロモンの効果等に必死に耐えていた――アルジェントはどうなっているのだ、と。
「……」
嫌な予感が頭をかすめた。
――会いたくねぇが明日ちょっと様子見に行くか……――
口を血だらけにしたヴァイスが立ち上がる。
「お前その顔で配下の前でんなよ」
グリースはげんなりした表情でヴァイスに言う。
ヴァイスは何かハンカチのようなもので口元を拭い、血を拭きとった。
「落ち着いたか?」
「……すまぬ」
「……お前がそんなんじゃ色々危険だ、やりたくがねぇがルリちゃんの血定期的に持って行ってやるよ」
「……よいのか?」
「また襲い掛かられたりしたら不味いし、お前が弱ってるなんて噂が立ってみろ、色んな連中が動き出してルリちゃんの立場とかが危うくなる、覚えて置けよ。後血持って行ってやるんだから来るな!! うっかりルリちゃんとお前が会ったら不味い!!」
「……わかった」
ヴァイスはそういうと姿を消した。
「……色々と考えることが山ほどあるな、まったく俺はルリちゃんの精神状態が良くなるのとかだけ考えておきたかったんだが……仕方ない」
グリースは深いため息をつきながら、隠れ家へと戻った。
ルリが目を覚ますとグリースが居なかった。
「……ぐ、りーす」
「はいはいなんでしょう?! それとおはようルリちゃん」
「お、は、よぅ、な、に、して、た、の?」
「あーちょっと調べものをしててね」
ルリは首を傾げた。
グリースはルリを抱きかかえてリビング連れてくると椅子に座らせた。
テーブルの上には実験用の器具らしいものが並んでいる。
「こ、れ?」
「ルリちゃんの血とフェロモンについて調べてたんだよ」
「ち、ふぇ、ろ、も、ん?」
「うん、血は吸血鬼だからわからないけど、フェロモンどうして俺だけが耐性強いか分からないから、ちょっと調べるために抽出してみたりしたの」
「……」
「はは、ルリちゃんが嗅いでも分からないよ、それだってだって君から出てるものだからね」
グリースがからかうように言うのでルリは少し頬を膨らましてむくれた。
「ごめんごめん」
グリースはそう言って器具を片付け始めた。
「で、さルリちゃん。俺ちょっと用事ができたんだ、この家の中で大人しくしてることはできる?」
「……う、ん」
「よしいい子だ」
ルリが小さく頷くと、グリースはルリを抱きかかえてソファーに座らせ、スマートフォンを持ってくる。
「いい子にしてるんだよ?」
「ん」
ルリは静かに頷く。
グリースは優しく微笑む、何かを持ったまま、出ていった。
ルリはそれを見送ってから、扉の閉まる音と、鍵がかかる音を聞き、静かに目を閉じた。
グリースは城のルリの部屋の前に立つ。
「……いやぁ、時間通りでよか……うお?!」
無数の氷の刃がグリースに飛んできた、グリースは何とか避けると、飛ばしてきた相手――アルジェントを見る。
アルジェントは荒い呼吸をし、胸を押さえている。
「……リ……だ……ルリ様は何処だ?!」
青い目を見開き、グリースに殺意を向けてきた。
グリースはその殺意は普段の嫌悪からくるものではないのを察知した、ヴァイス同様アルジェントも正気を失っているのだ。
「どうやら俺の予想は当たりか?」
グリースはそう言った直後周囲の気温が一気に低下するのを感じ取る。
「やべ!!」
グリースは防御陣で自分の身を守る。
四方から氷の槍が飛んできてグリースを串刺しにしようとしてくるが、陣がそれを阻む。
「……ヴァイスよりも厄介だなこれは……」
グリースは正気を失い、自分への殺意だけで動いているアルジェントを見て舌打ちした。
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