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君を守るため
あんしんする ~君本当に自分の状態把握できてる?!~
しおりを挟む海の中の散策をルリが満喫した頃、グリースは浜へと戻った。
抱きかかえているルリが、海を遠い目で眺めている。
もし、彼女が自由に歩ける体なら、そのまま海に沈んで二度と戻ってこないのではないかと思わせるような目と横顔で、グリースは恐ろしくなってルリを抱きかかえる力を強めた。
急に強く抱き抱えられた事に、ルリは驚いたのかグリースの服を引っ張った。
『どうしたの』
「……なんでもない、なんでもないよ、ルリちゃん」
グリースは静かにそう言ってルリの髪を撫でて、しばらく海を眺めた。
「……じゃあ、帰ろうか」
『うん』
ルリは再び海に視線をやった、消えてしまいそうな表情が視線が現実になるのではないかと怖くてグリースは彼女が腕から消えないうちに急いで転移した。
隠れ家のリビングに戻ると、ルリはグリースの服を引っ張った。
「ん? どうしたの、ルリちゃん」
『きょうも、おねがい』
「えっとお願いってまさか……性行為慣れる練習?」
グリースが恐る恐る問いかけると、ルリが小さく頷いたので、グリースの表情は引きつった。
――ルリちゃん、無自覚に自分を追い込むタイプ?――
――いやいや、連日やってたらルリちゃんの精神がまいるし、俺も薬どか飲みしないといけなくなるじゃないか!!――
グリースはとりあえずルリをソファに座らせ、自分は隣に座り、ルリに自分の方を向いてもらう。
「ルリちゃん、もしかして毎日やって慣らそうと考えてる?」
グリースはルリの肩を掴んで問いかけると、ルリは小さく頷いた。
「いいかい、ルリちゃん、君の精神は性行為に精神的負担を感じている、それなのに毎日やって慣らす? とんでもない!! そういうのは間隔をあけてゆっくり慣らしていくものだよ、無理はだめ、ね?」
グリースは真面目な表情で諭す。
ルリは口を僅かに開いて何かを言おうとしているようだったが、口を閉ざして顔を伏せた。
「ルリちゃん、君には良くなってほしいけど、早く良くなれなんて俺は一言も言ってない。ヴァイス達からすれば早く良くなってほしいかもしれないけれどそれは奴らの都合だ。ルリちゃん、君はここでゆっくり良くなっていいんだよ、焦らず、自分の心をすり減らすような行為もなるべくせず、良くなってほしいんだ」
グリースはルリの髪を撫でながら、優しく諭す。
ルリは顔を上げる、不安そうな表情を浮かべている。
『ほんとう』
「本当、だからもっと自分の事大事にして、ね?」
グリースが優しい表情で、ルリに言うと、ルリはぼろぼろと瑠璃色の目から大粒の涙をこぼし始めた。
「ルリちゃん」
グリースはルリの頬を優しく撫でる。
「……っ……て……そ……し……なぃ……と……つ……ら……い……」
「いいんだよ、ルリちゃんはここでゆっくり休むんだ、慣れるのはもう少し落ち着いてからでもいいし、できるだけ期間を開けてやったほうがいい、俺はルリちゃんの事好きだし、だから最初の頃は抱いてたでしょう、嫌がらないように。セックスするなら気持ちよくて幸せな気分でいてほしい、ルリちゃんが慣れようとする行為は自分を調教するようなもんだ、より自分を痛めつけている精神をあいつらの都合のいいよう無理やり変えようとしてる、それだけはだめだ」
「ぅ……ん」
グリースは泣いているルリを抱きしめ、背中をさする。
ルリは戻った時、より傷つかないように、自分自身を無理に変えようとしていたのだ。
そうしないと、されることや要求されることが辛くて耐えられないのだろう。
グリースがルリをここで保護し続けている間に、ルリをここまで追いつめた二人の対応が変わることを祈りたかったが、無駄だろうと諦めた。
グリースは自分にいつでも助けを求めていいというのを分かってもらおうと決意した。
怖いことや嫌な事、苦しいことを要求されたりしたら自分に助けを求めていいんだということをルリに分かってもらおうと保護している今の内に教えようと決めた。
ルリが居なくなって一週間が経過したルリの部屋で、アルジェントは相変わらず部屋の主がいないのに部屋を訪れた。
たたまれたネグリジェがベッドの上に置かれてある。
部屋に鍵をかけ、ネグリジェを手に取る。
ルリが普段纏っていた香りがする、洗い流しきれなかったフェロモンの残り香がわずかに感じられた。
ネグリジェに抱きしめその場にしゃがみ込む。
「ルリ様、ルリ様、ルリ様、ルリ様、ルリ様、ルリ様、ルリ様、ルリ様……!!」
アルジェントは何度も愛しい人の名前を呼ぶ。
目から涙が零れる。
「何故、何故真祖様や私ではだめなのですか……?! 何故グリースなのですか……?!」
血反吐を吐き出すように、苦し気に一人いない最愛の人へと問いかける。
「私たちは貴方様に愛されたいのです……貴方の全てが欲しいのです……ですからどうか、どうかお慈悲を……!!」
此処に居ない最愛の人へ思いを吐き出す、答えはないと知りながらも。
「真祖様、もう一週間も何も口にしていません、お願いしますどうか、どうか」
「要らぬ、要件がそれだけなら下がれ、私は一人になりたいのだ」
玉座に座りながらヴァイスは配下の吸血鬼に言った。
「……お言葉ですが、真祖様、奥方様の件、別の――」
「それ以上口にしたら灰になると思え」
ヴァイスは鋭い殺意のこもった視線を配下に向けると、配下は頭を下げて玉座の間から出て行った。
誰もいない、空間で、ヴァイスは深いため息をつき、額を抑える。
愛するルリが居ない一週間は、今までの一週間よりもはるかに長く感じられた。
まだ帰ってこない、まだグリースが帰してくれない。
夢を見る、明るい表情を浮かべているルリが自分に笑いかけている夢を、でも夢の中でも決してルリは――「愛している」とは言ってくれなかった。
見れば見る程辛くなる、そしてルリを欲する気持ちが強くなる夢だ。
ヴァイスは再び深いため息をつく。
喉の渇きがないわけではない、だが、この渇きを癒せるのはルリだけだとヴァイスは思っている。
他の血では渇きも癒せず、満たされもしない。
「ルリ……お前はいつ、私の元へ戻ってきてくれるのだ……」
誰もいない空間でヴァイスは項垂れながら祈るように呟いた。
「ルリちゃん、よーし頑張ったね」
一週間経過した隠れ家では、グリースがルリに負担がかからない範囲でリハビリを行うようになっていた。
ルリは支えがあれば、何とか歩ける程度まで回復していた。
グリースは二日前から「何かあったら自分を呼んで、助けに行くから」「何かあったら自分を頼って、またこうやって連れ出してあげるから」と言うような内容を何度も繰り返しルリに言い聞かせ、かすかに声が出せるようになったルリが自分を呼ぶと即座に駆けつけるように心掛けたことから、ルリは「助けを求めてもいい」という相手を見つけたことで精神的の負荷が予想以上に軽くなったのだ。
「ぐ、りー、す」
「はいはい、何だいルリちゃん」
「……ぎゅう、して?」
「はい、ぎゅー!」
グリースはルリを抱きしめた。
ルリもまだ力がうまく入らない腕でグリースを抱きしめ返した。
グリースはルリの髪を撫で、ルリが顔をあげると額に優しくキスをした。
ルリは嬉しそうに笑った。
グリースは笑ってルリの頬を撫でる。
リハビリやルリとのやり取りで、今更ながらグリースは理解した。
ルリは本来は触れ合う形のコミュニケーションを好むタイプの存在だと。
触れ合ったり、ハグしあったり、そういうのが嫌いではないタイプの子なのだと。
だが、城で色々強いられてきたため、触れ合うのが怖くなってしまっていたのだ。
幼児退行してて精神が安定している時期はそれが顕著だったが、大人になっても残っているタイプは貴重だ。
周囲がそれでよしとする環境だったのだろう、また人見知りは強いが一旦心を許せばどこまでも許す善良性故の危険性があった。
グリースには心を許している状態にある、だから非常に危険だった。
その心を許している状態で、傷をつけるような行為をしたら、ルリの状態は悪化し、自分でも一切治療にかかわっても治らない恐れがでてきたからだ。
グリースはルリへの対応をより慎重にせざる得なかった。
――信頼を裏切るような行為だけは何としてでも避けないと――
グリースはその考えを頭の中に張りつけながらルリのリハビリと療養に付き合った。
リハビリを終えて、ソファーでゆっくりしていると、ルリがグリースの服をくいくいと引っ張るのが分かった。
「ぐ、りー、す」
「はいはい、ルリちゃん何かなー? 俺ができることならするよー?」
いつもの明るい調子で言えば、ルリが顔を伏せて少し恥ずかしそうにしている、それを見てグリースの脳みそがこれはまずい、と一気に警戒モードになった、表面上は変わりは見せないまま。
「んー? どうしたの?」
――どうか、どうかアレじゃありませんように!!――
「……し、て」
「えっと、キス?」
「……せ、っく、す、し、て」
グリースの脳みそが一気アラートを鳴らす。
――うわああああ!!――
――やっぱりセックスかよ!!――
――ルリちゃん、本当理解してるの、君まだセックス関係は精神負担が重いんだって!!――
グリースはルリの肩を怖がらせないように掴み、彼女の目を見る。
「……精神負担、かかる可能性高いよ? 大丈夫?」
「う、ん」
ルリはそこまで怯えや、不安を見せずに頷いた。
明らかに、グリースへの信頼感からなのが分かった。
この人なら自分が嫌がったらやめてくれる、という安心感だろう。
「……わかった、無理そうならちゃんと伝えてね」
「う、ん」
グリースはそういうとルリをベッドに運んで再び道具の確認を行った。
「……絶対ローション以外のアダルトグッズとかはアウトだろ、多分。後自慰ができないからなぁルリちゃん、そういうのもあるのかなぁ?」
グリースは薬とローションボトルだけ手に取り、寝室へと向かった。
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