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偽りの忘却
『 』 ~統合失敗~
しおりを挟むグリースはルリの唇から自分の唇を離した。
「……」
「グリース!! ルリ様は!?」
「……はじき出されたからどうなったのかわからねぇ」
「貴様、肝心な時に!!」
「うるせぇ!! 役にたってねぇのはお前もだろうが!!」
噛みついてくるように言うアルジェントに、グリースも噛みつくように反論した。
「止めよ、ルリはどうなった?」
「――人格が統合、したように見えたところではじき飛ばされた、だから俺もどうなったのかよく分からねぇ」
グリースはルリの顔を覗き込む。
ルリから聞こえるのは呼吸音だけ、それ以外は全く聞こえない。
「……『診る』のはどうだ」
「……ちょっくらやってみる」
ヴァイスの言葉に頷き、グリースは灰色の目を赤く染めて、ルリを見る。
「……あー……その、統合ができたかはわからない、でも精神が起こさないと不味いレベルで眠ってる」
「何をすればよい?」
「……何か精神が起きるようなショックが必要だな。さて難問がまた来たぞ」
「貴様がまた接触して起こすのはどうだ?」
「うーん、精神構造がまた複雑になってそうな気がするけど、それも考えるか――とりあえず」
グリースはぺちぺちとルリの頬を軽く叩く。
「ルリちゃん、ルリちゃーん」
ルリの反応はない。
「……まぁ、これで起きてくれてたらとっくに起きてるわな」
「……やはり貴様がもう一度やるのが早いのではないか?」
「――うーん、じゃあちょっと潜ってみる、ので、寄るな触るな近寄んな!! あっち行けしっし!!」
グリースは追い払うような仕草をして二人が十分に距離を取ったのを確認すると、再度ルリの唇に口づけをする。
真っ白な部屋にグリースは居た。
「……なんかおかしいな」
足元を見る、足形が付いた箇所が透明になり、何か玩具や写真――つぎはぎだらけになったものが見えた。
「……なるほど」
グリースは術で部屋を塗りつくしている白いものを拭い去った。
ガラス張りの様な部屋だと理解ができた。
周りはつぎはぎだらけの写真や、修理途中の玩具等で埋め尽くされている。
「……いや、マジ次の階層への入り口何処だ」
グリースは部屋の中をうろつき壁を触る。
ガコン
「あ゛」
壁が引っ込んだと思ったら高い音を立てて部屋の透明な壁は粉々に砕け散った。
落下していくのが分かる。
「これ正解なの?! それともやらかした俺?!」
グリースはでかいぬいぐるみ等の下敷きになった。
「ぐえ!!」
なんとか這い出て周囲を見る。
周囲の風景を見てグリースは引きつる。
無数の目がみっちり壁天井にひしめき合うように存在し、自分を見ている。
「……これ、どうやって次行きゃいいのよ、なんか潜る度難易度上がってない?」
グリースは脱出し、飛び回りながら何か違和感がないか探し回り。
視線が酷く気持ちが悪い。
「……この視線の意味は何だろうなぁ、ルリちゃんが薄々感じ取ってた会ったこともない自分という存在へ興味をもったりした連中の視線かねぇ」
目の色や、大きさ、まつ毛も様々だった、同じものを探すのが難しそうに感じられた。
しばらく天井や壁を見回し、一つだけ違うものに気づき。
目を閉じ、涙を流しているものがあったのだ。
グリースはその閉ざされた目を触ってみる。
閉ざされた目がゆっくりと開かれる、瑠璃色の目だ。
開いたと思ったら目は真っ黒に染まり、黒く変色した目から黒い手現われ、グリースの体を掴んで目の中に引っ張り込んだ。
「ちょ?!」
グリースは黒くなった目の中に吸い込まれた。
勢いよく床に頭部を激突した。
「いった!!」
グリースは頭をさすりながら周囲を見渡す。
またグリースの顔が引きつる。
周囲にはルリそっくりの人形のようなものが無数に床に転がっているのだ。
「……本当、難易度上げるのやめてくれよルリちゃん」
グリースは困惑した顔をしながら、試しにひとつを触ってみる、反応はない。
目を開けてみる。
すぐ閉じた。
「……まさか、この中に何か違うのがいるから探せってこと?」
ルリそっくりのソレから手を離すと、足の踏み場が少ないのでグリースは再び宙に浮き飛んで違うものがないか探す。
しかし、それらしいものは見当たらない、あるのは巨大な鳥籠のような中にベッドが置かれているのを見つけたくらいだ。
ベッドを見ると凹んでいる。
グリースは試しに近くにあったルリそっくりのソレを寝かせてみる。
何も起きない。
「あ゛ー!! ヒントくれ誰か!!」
そう言いながら籠から出ると何かを踏んづけた。
「やべ!」
慌てて足をあげると傷だらけの左腕があった。
「……まさか、バラバラになったのを探してベッドに寝かせろってこと?」
グリースは頭を抱えて今度は飛ばずに、ルリそっくりのそれらの下敷きになっていないか手あたり次第探し始めた。
頭部、胴体、右腕、右脚、左脚、ばらばらのルリそっくりの傷だらけのソレのパーツ全て集める。
グリースはそれを籠の中のベッドに凹みに一致するように並べた。
最後に頭部をおくと、かちゃりかちゃり、とくっつく音が聞こえた、そして。
ガチャン、ガゴン!
籠の扉が閉まり鍵がかかり、籠は下へと降りて行った。
真っ黒な空間を降りていく。
しばらくそこにいると、ようやくついたのか籠の扉の鍵が開き、籠の外へと踏み出した瞬間。
そこに地面は無かった。
「え゛」
グリースは落下した。
「ルリちゃんちょっとー!! 統合したから安定したんじゃないの?! もしかして統合が悪い方向にいってたとか!? シャレなんねー!!」
何故か術が使えず、グリースはそのまま落下する。
ぼふん!!
「は、花⁇」
落下でダメージを覚悟していたが、落下点は大量の花があり、それがクッションになっていた。
花の海にいるのが分かった。
「くそ、精神状態が全くわからん!!」
グリースは困惑した表情で花の海を進んでいく。
しばらく進んでいくと優しい花の香りから、血の匂いに変わっていく、
花の海だった場所は血の海に変わっていた。
「ああ、くそ、次はどこに行けばいい?! ルリちゃんは何処だ!?」
『……っち、………こっち……!!』
「ルリちゃん?!」
声がかすかに聞こえた、そしてグリースの頭にある予感が思い浮かんだ。
――統合しようとした、だけど、本来のルリちゃんが耐えきれなかったか?!――
血の海を必死に泳いで声の方に向かう、発光していて、体がぼろぼろと崩壊しているルリが壁から手を伸ばしている。
グリースは彼女の手を掴むと彼女は手はグリースを壁に引きずり込んだ。
真っ暗な空間が広がる、グリースは体が下から少しずつ崩壊しているルリの肩を掴む。
「ルリちゃん、統合はどうなったんだ?!」
『いたみ、たえれ、ない、って』
「このままじゃ君も不味い!!」
グリースはルリの胸元に触れ、彼女を手のひらほどの大きさの結晶に変え、懐にしまう。
「これで崩壊はなんとかなる、もう一人、ちっちゃいころのルリちゃんは何処だ?!」
グリースは真っ暗な空間を触る。
べっとりと黒いものがタールの様にへばりついている。
「この黒いのの向こうに壁がある、なら!!」
グリースは黒い物体を全て浄化させた、同時に空間がパリンと割れた。
「げ……」
ぶつ切りにされたルリの体らしき物が血の池から出ている。
「おーい!! ルリちゃん、何処だー!? 返事してくれ!!」
グリースはバシャバシャと血の池を歩いていく。
しばらく歩くと、黒い手が何かを覆っているのが見えた。
『……ちゃん……おにい……ぐりーすおにいちゃん』
それから声が聞こえた、グリースは手を引きはがしていく、手はそれを妨害するように今度はグリースにまとわりついてきたが、グリースはその妨害に負けず引きはがすとそこには体がヒビだらけになっている幼子のルリがいた。
「ルリちゃん!!」
『ぐりーすおにいちゃん』
幼子のルリが腕を伸ばそうとしたが腕がばきんとヒビの所為で壊れて砕け散った。
グリースは幼子のルリに衝撃を与えないようにそっと触れて、彼女も先ほどのルリ同様結晶にして懐に仕舞う。
幼子のルリの板場所に穴が開いた、グリースは自分を妨害する手を全て引きちぎると穴に飛び込む。
落下していく、非常に長く感じた。
ようやく地面に着地する。
視線をやれば何かの結晶の中に目を閉じたルリが閉じ込められていた。
「ルリちゃん……!!」
近寄ろうとした途端地面が大きく揺れる。
グリースは駆け出した。
地面と天井から鋭いいばらが突き破って出現してきた。
「うおおおおおおおお!!」
グリースは全速力で駆け抜ける。
いついばらが自分を串刺しにしようとするのかという恐怖と戦いながら。
ここで串刺しにされたら強制的に自分を守るためにこの繋がりを切って戻ってしまう、そうすると結晶化した二人がどうなるか分からないし、あのルリがどうなるか分からないからだ。
グリースはルリを閉じ込めている結晶に激突し尻もちをついた。
いばらはもう出現しないところに来たようだ。
「……ルリちゃん」
グリースは立ち上がり、目を閉じているルリを閉じ込めている結晶を撫でて名前を呼んだ。
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