不死人になった私~壊れゆく不老不死の花嫁~

琴葉悠

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偽りの忘却

思い出したい! ~君の記憶~

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 ルリは色々と頭がぐちゃぐちゃだった。
 知らない間に処女でなくなったというのもショックだった、記憶がない間何があったんだろうと思うが、考えないことにした。

『おもいだすな!』

 声が響くのだ。
 思い出すのはきっとよくないことなのだろう、自分にとって、でも――
 このままでいいのかとも思ってしまうのだ。

 グリースは毛布にくるまったままのルリが顔を出したので頭を撫でた。
「……あのさ、発情した時がはじめてだったの?」
「……知らない方がいい」
「知りたい、教えて」
「……」
「……声が聞こえるの『おもいだすな』って声が、でもこのままでいいとは思わないの、答えられる範囲でいいから教えて」
「……分かった、じゃあ教える、違う。ルリちゃんが発情した時にはもうセックスの経験があった、それが原因で記憶を失う前の君はセックスに関連する事柄全てが恐怖対象になったんだ」
「そう、なの」
 ルリは困惑したような、納得したような表情をしていた。
「まぁ、俺が説教したのと色々あったのが原因でルリちゃんに無理やりセックスとか性的行為やらかそうとする奴はいなくなったけどな」
「色々?」
「色々あったんだよ」
「……グリースは私の初めての相手ではない?」
「ではない」
「初めては、誰?」
「……答えられない」
「無理やりだったから」
「ある意味そう、君は嫌がっていたのに相手は君に性行為を及んだからね」
「……その相手はもう私には無理やりしようと考えてない」
「それは答えられる、考えてない。後悔してるからな」
「……他に、私に嫌がってるのに無理やりした人とかは、いた?」
「……いた」
「……その人達は?」
「……反省してる奴と、反省してない奴と、犯罪行為だったんで処刑された奴らがいる」
 ルリが少し怯えた表情をした。
「反省してる奴は二度としない、反省してない奴は近づくのを禁じられている、処刑された奴らはこの世からいなくなった」
「なんで、処刑されたの?」
「……少しだけ答えられる、吸血鬼の連中が君に暴力をふるって心に傷を負わせたから」
「……城の?」
「いいや、ある日君は城にいるのが辛くて城の外へと出てしまった、其処で悪い吸血鬼に捕まって暴行されたんだ、血も吸われた」
「……」
「だからルリちゃん、俺は君に記憶を取り戻してほしいとは言わない、だって今いった内容も全部思い出すことになる、そうしたらまた君は辛い思いを抱えて過ごすことになる」
「……でも、思い出さないといけないと思う、辛くても苦しくても……」
「ルリちゃん、忘却を忘れたら生きるのがしんどくなるだけだ、記憶喪失になって、心の中にいる誰かが『おもいだすな』とまで言ってるんだ、無理に思い出す必要はない」
 グリースはルリの頬を撫でながら言う。
「……ルリちゃん、ヴァイスに俺たち三人の事をどう思ってるか聞かれたよね?」
「う、うん」
「……俺はともかく、アルジェントとヴァイス、この二人関してはルリちゃんはこの二人の望む感情を持っていない」
「……どういう、こと?」
「その感情が何かは言えない、だけどその感情を二人が求めたのも記憶を失うルリちゃんが苦しんでいたことの一つなんだ、それでも思い出したい?」
「……うん」
「――わかった、君がそれを望んだ。なら俺はその手伝いをしよう」
「ほんとう?」
「ただし」
「ただし?」
「そうなると暗示を解くことになる、君が抱えている違和感や、強く思い出そうとする感情を取り戻すことになるつまり――」
「……頭痛?」
「そう、君は頭痛に苦しめられることになる、それでも、いいかい?」
「……うん」
「――分かった、俺の目を見て」
 ルリはグリースの目を見た。
 瑠璃色の目と炎のように赤い目が見つめ合う。

 ルリは頭の中でパキンと何か壊れた音が聞こえた。

「――暗示は解いたよ、でも辛くなったらいつでも言ってくれ、俺は君の味方だ」
「……うん」
 グリースはルリの頬を両手で包むようにしながら、額に口づけた。
「今日はもう遅い、また明日」
「うん、また明日」
「おやすみ、ルリちゃん、いい夢を」
「うん、お休みグリース」
 グリースは淡く微笑みを浮かべて姿を消した。

 一人になった部屋で、ルリは何から手を付けるべきか分からず、とりあえず寝ることにした。


 暗い場所だ、でも今回ははっきり見えた。
 花畑だ、自分は花畑にいる。
 そして隔てるような鉄の柵らしいぶったいがある、向こうには女の子と自分とよく似た女性が横たわっている。
「ねぇ!! 貴方は記憶喪失になる前の私なんでしょう?!」
 ルリは横たわっている女性に柵越しに声をかけた。
 女性は起き上がった。
『……思い出さない方がいい……記憶喪失になったんでしょう、なら今度は幸せになれるかもしれない……』
「要らない!! そんな作られたみたいな幸せは要らない!!」
『我儘言わないで!!』
 女性の怒鳴り声に、ルリはたじろいだ。
『お願いだから忘れたままでいて……お願い……』
 女性の泣く声に、ルリはその場に立ち尽くすしかなかった。


 ルリは目を覚ました。
 窓からは日が差し込んでいる。
「……ふぁ……あ、そうだ薬」
 ルリはベッドから下りて冷蔵庫からボトルを取り出し、机の上の袋から薬を一錠取り出した、白い色の薬だ。
 それを口に入れ、ボトルの水で流し込む。
「……効果あるのかな?」
 ルリは首を傾げつつ、とりあえず、服とスポーツブラ、靴下をタンスから取り出し、着替えた。
 ネグリジェはベッドの上にたたんで置いておく。
「うーん、夢の中のあの女性は確実に記憶喪失になる前の私だ、話してみた感じ相当精神的にまいってるようだ……」
 ルリは夢の中でのできごとを思い出す。
「……確実に分かること、誰かがした性行為が酷い恐怖感情を与えたのは間違いない、あと、アルジェントとヴァイスが私に求めている感情ってのにも苦しんでいる、それと――」

「――多分私の住んでた国の連中が何回か城に来て私に危害を加えたことにも怯えているに違いない」

「……確実に記憶を取り戻すのは難航しそうだな、記憶喪失前の私が邪魔をしかけてくるから、だけど私はめげないぞ!!」
「いやぁ、朝から元気がいいねぇ」
「あ、グリース、おはよう」
「おはようルリちゃん」
 窓の所にグリースが立っていた。
「……うーん、今日も夢見た」
「どんな?」
「とりあえず、確実に記憶喪失前の私が妨害しているのが分かる夢。柵で近づけさせないのは、接触したらもしかしたら記憶を取り戻すかもしれないから柵で近寄れない様にしてるんじゃないかと思う」
「……なるほど」
「めっちゃ怒鳴ってたもん、相当思い出させたくないって私に何あったの?」
「……まぁ、色々あったんだよ……」
 ルリはグリースの発言からも、直接言うのをためらうような内容があったのではないかと推測した。
「……どういう扱いされてたんだ私、マジで……」
「うーん……」

――ここにはじめてきた時どうだったんだろう……ヴァイスは私の血を吸うとかしたこととかあるのか……はじめて……吸血……――

「あいだだだだだだだだだ!!」
 激しい頭痛にルリはその場に倒れこんだ。
「ルリちゃん?!」
 グリースは倒れこんだルリを抱きかかえてベッドに寝かせた、そして額に手を当てようとしたが。
「お、おもい、だせ、そう、だから、すこし、まって!! あだだだだだだだだだ!!」
 ルリはグリースの手当てに待ったをかけて頭を押さえて足をじたばたさせる。

 黒い広間、誰もいない、首に鋭い牙が食い込む感触。
 驚いて、手で突き飛ばす、突き飛ばした相手は――

「……そうだ、ヴァイスに私血吸われてる、初めて会った時」
 頭痛が治まったのかルリは起き上がってそう言った。
「あー……ソコを思い出したのね」
 グリースは、傷がまだ浅い部分を思い出した事に安堵した。
「なんで血吸ったんだろ?」
「あの時のルリちゃんフェロモンが非常に薄かったから、不死人かどうか吸血鬼的に判定するには血を吸うのが手っ取り早かったんだろ、多分。本物をよこさないで偽物よこしたかもしれないってのがあるし、今の人間政府みれば疑ってかかる必要がある」
「あー……」
 ルリは納得したような表情を浮かべた。
「……まだ思い出す必要があることが多いような」
「ストップルリちゃん、思い出したいならゆっくり思い出して、じゃないとルリちゃんノンストップで頭痛地獄を味わう羽目になるよ」
「う」
 ルリの顔が引きつる。

 今の事から、ルリは思い出す代償として頭が割れそうな程酷い頭痛に耐える必要があるのが分かった。
 だが、その頭痛が一日に何十回も起きたら思い出すことに精神がばっきり折れてしまいかねない。
 それくらい、頭痛が酷いのだ。

 ルリは記憶を取り戻すために、この頭痛と戦う羽目になるのかと覚悟は決めていたが、憂鬱になった。




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