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傷深き花嫁
苦しさが消えない、そして…… ~何故自分はこうも力が足りないのか~
しおりを挟むアルジェントは眠っているルリをお湯の張っていない浴槽に裸にして寝かせる。
恥部からはどろりと精液が零れていた。
アルジェントは酷く悔しい感情を抱えながら、ルリの膣内から精液を洗浄する。
そして薬を膣内で潰した。
念のためだ。
その後、石鹸をタオルで泡立て、丁寧に体を洗う。
髪の毛も洗う。
全身綺麗に洗い、シャワーのお湯で泡を洗い流す。
そしてお湯を一瞬で張る。
薔薇の香のお湯だった。
しばらくお湯に浸からせてから、抱きかかえてお湯から上がらせ、タオルで体を拭き、拭き終わるとくるんでルリの部屋へと転移した。
ルリの部屋に転移すると、グリースの姿は無かった。
いない事に安心し、アルジェントはルリを椅子に座らせて、ルリの髪を乾かした。
乾かし終わると、ショーツを履かせ、露出の低いネグリジェを着せてからベッドに寝かせた。
「おー終わったか?」
タイミングを見計らったかのようにグリースが姿を現した。
「何をしていた?」
「いやね、研究所に行ってきたのよ、不死人の女性の発情について見てみたんだけど、その時に出る『香り』の強さは変化しないって書いてあったのよ。でもルリちゃんのはどう見ても発情すると『香り』が強くなっていく感じがしてるのよ」
「何が言いたい?」
「……ルリちゃん、不死人の女の中でも特殊なんじゃね、まぁ調べたところ最近また二人増えて今不死人の女四人いるらしいんだけど、ルリちゃんだけなんか違う感じがしてな」
「……人間政府がルリ様を狙う可能性が出てくると?」
「それも否定できない」
「いっそ政府をつぶすべきではないか?」
「んーそれやっちゃうと人間と吸血鬼の関係が支配者と被支配層になりそうで困るんだよねぇ俺としては。ルリちゃんの家族が周囲から迫害されそうだし」
「……それは……」
最愛のルリの家族ならば、アルジェントも敬意を払わねばならない対象だ。
それが迫害されるなどあってはならない。
「というわけで、人間政府がマシになるようヴァイスも圧かけといてって話してきた、以上。てなわけでそろそろルリちゃん起こすぜ」
「……頼む」
グリースはベッドの上で深い眠りについているルリに近づいた。
顔の前に手をかざし、パチンと指を鳴らした。
すこしすると、ゆっくりとルリの目が開いた。
「……」
「ルリちゃん、辛いの無くなった?」
「……うん」
グリースはルリの頬を撫で、上半身を抱きかかえる。
「……ねぇ、私の体これからどうなっていくの?」
「……俺も分からない、ごめんよ」
グリースはそう言ってルリの髪を撫でる。
「……まだ、スルのは怖いの」
「仕方ないよ」
「……でも体はそれを突然要求してくる無視すると悪化して……中毒みたいなもんじゃない」
ルリは憂鬱そうな息を吐いた。
「今はもう、休んで、体も疲れてるんだろうから、ね?」
「うん……」
ルリはそう言うと今度は自然な眠りに落ちた。
グリースはルリをベッドに寝かせ、毛布を掛ける。
「というわけだ、ルリちゃんに変な奴近づけさせんなよ」
「分かっている」
「じゃあな」
グリースはそう言って窓に寄りかかり姿を消した。
グリースが居なくなったルリの部屋で、アルジェントはルリに近づき、頬をそっと撫でた。
「……」
声にならない声で、アルジェントは囁いた。
ルリに対して愛の言葉を。
そして部屋に結界を張り、部屋を後にした。
『おねえちゃん、まだきずいっぱいだね』
「……」
ルリは幼い自分に膝枕をされた状態で、花畑の中にいた。
ルリの体はまだ傷だらけだ。
『……おにいちゃんたちにいってないの?』
「言えない……『早く身ごもれ』って声が聞こえるの言える訳がない……」
『はやく「おかーさん」になれってこと?』
「……遠回しに言うとそういうことよ……」
『……おかーさんになるのはたいへんだもんね……』
「……それもあるけど、私が妊娠したら、大変なことが起きそうな気がするの……」
『たいへん?』
「……分からないけどとにかく怖いのそれに――」
「アルジェントの愛も、真祖の愛も、怖いの、見返りを求めてくるから。グリースだけ、あの人だけが見返りを求めない……それが救いなの……」
ルリが辛そうにそう言えば幼いルリは問いかけた。
『ぐりーすおにいちゃんがすきなの?』
「……わからない、そんなかんじはまったくしないの……ねぇ、すきになるって愛するって……どうしたらできるの?」
ルリは目を覚ました。
黒い天井が視界に入る。
眠ったのに疲労感が残っている。
起きるのが辛かったが起き上がり、窓を見る。
日はとっくに落ちていた。
――嗚呼、また、この時間、か――
ルリはぼんやりと視線を天井に戻した。
――どうすればこの苦しいのが消えるのだろう――
心の中にある、苦しさ。
これが消えてくれれば、少しは楽になるのだろうか。
この心の中の痛みや恐怖が消えてくれれば楽になるのだろうか。
ルリはぼんやりと考えていた。
少し暗くなる。
――嗚呼、来たのか――
諦めた表情で視線をやれば、真祖が立っていた。
「ルリ、体はもうよいのか?」
冷たい手が自分の頬を撫でる。
この感触は嫌いではないが、相手が真祖のためか素直に受け入れられない。
「……まぁ」
適当に言って答えないでおく。
体は楽になったが、心が楽になってないからか、色々と疲れてしまっているのだ。
その内生きることも面倒になってしまったらどうしようという不安はなくもなかった。
真祖の指が唇に触れる。
冷たい肌に極端な嫌悪はないが、やはり温かい肌の方が気持ち落ち着く。
今のところ一番落ち着くのはグリースだ、だがグリースの事が好きかと言えば分からない。
嫌がったらしなかった、そこだけが落ち着くのだ。
真祖の指がルリの首筋を撫でた。
すこしびくりと体が震えてしまう。
血を吸うんじゃないかと、体が怖くなった。
ひんやりとした唇の感触が首筋で感じられた。
血を吸われるのではないかと体がこわばる。
だが、牙が食い込まれる感触は来なかった。
真祖は口づけだけして首筋から口を離した。
「……今日はゆっくり休むといい」
真祖はそう言って居なくなった。
ルリは起き上がり、真祖が居なくなった場所を見た。
「……わけわからない……」
ため息を吐くように呟くとルリは疲労感から毛布に潜り込み、眠りに落ちた。
朝目が覚めると何か騒がしく感じた、今までこんな騒がしさを感じた事はない。
「ルリ様早くこちらへ!!」
アルジェントが姿を現し、ベッドから起き上がったばかりのルリを抱きかかえて、部屋から出て行った。
「ど、どうしたの?!」
「革命軍の残党が城に侵入してきたのです!! ルリ様の身を狙っております!!」
「なんで?!」
「とにかく真祖様の――」
周囲に転移術の陣が多数出現する。
「くそ!!」
アルジェントは自分が悪手を打った事を悟る。
部屋を毎回強襲されるから真祖の部屋に移動しようとしたのを読まれたのだ、転移魔法を妨害されてからの行動を完全に読まれていたことに気づく。
武装した集団がルリを抱きかかえたアルジェントに襲い掛かる。
アルジェントは不死人になった事で身体強化された脚部で武装集団の蹴り倒す。
鈍い音と、吐血音が響く。
「――後ろ!!」
ルリが叫んだ、アルジェントが反応した。
しかし、遅すぎた、アルジェントの頭部が殴られ、アルジェントは予想以上の衝撃にルリを落としてしまう。
「ぐ……」
よろめいたアルジェントの視界に映ったのは、ルリに危害を加えようとする武装集団の姿だった。
鈍い音がした。
ルリは頭部を殴られ、その場に倒れこんだ。
彼女はうめき声も上げることなく、その場に横たわった。
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