51 / 96
傷深き花嫁
おやすみなさい、お早う ~目覚め~
しおりを挟むルリは明るい花畑で女の人とお話をしていた。
「それでね、昨日はね……」
『ふふ、それは良いことね』
女の人は笑顔でルリの頭を撫でていた。
長い髪は短くなり、表情がはっきり見えるようになった。
花畑は素敵な空間になった。
ただ、ルリに一つだけ気がかりがあった。
「……おねえちゃん、あしのやつ、とれないの?」
『……』
女の人の足には枷と鎖がついていた。
その枷と鎖の所為で女の人はここから動けないのをルリは知っていた。
「おねえちゃん、だいじょうぶだよ」
ルリが女の人の頭を撫でる。
『……まだ、怖いの、色んな事が怖いの……』
ルリは女の人を抱きしめた。
「おにいちゃんたちとおじちゃんがまもってくれるよ」
『……私はまだ、その三人も怖いの……』
グリースが部屋に入ると、ルリはまだ眠っていた。
ルリの発情事件から一か月が経過した。
ヴァイスとアルジェントとヴィオレが配下たちの動向と人間政府の動向に神経をとがらせている。
人間政府は、真祖の城を強襲したということをこちら側とマスメディアに責められ、関係者は全員逮捕される事案になったり、与党、野党、官僚、研究機関も色々吸血鬼側にバレたら不味い情報が何故かマスメディアと吸血鬼側にバレて責められ、政府の状態はがったがただ。
ルリの実家や友人たちを見ているが、彼らを監視していたり何か接触する余裕もなくなっている。
国として傾きかけているのだ。
あと、聖なるものを作っていた宗教団体も関係者と「聖女」も逮捕され全員刑務所に入れられている。
真祖の命を狙うようなものを作った責任を取らされたのだ、作らねばよかったのに、身勝手な正義は身を亡ぼすなぁと、グリースは思った。
「ん……」
ルリが目を覚ます、グリースはベッドに近寄り、ルリの顔を覗き込む。
「ルリちゃん、おはよう」
「ぐりーすおにいちゃんおはよう」
「『おねえちゃん』は元気だった?」
そう問いかけるとルリは困ったような顔をした。
「おねえちゃん、いろんなことがこわいって……おにいちゃんたちとおじちゃんもこわいって……」
「……そっか」
グリースは寂し気に笑ってルリの頭を撫でた。
傷は大分癒えただが、恐怖心が消えない、それが枷となって元のルリが表にまだ出てこれない原因なのだろう。
恐怖心を作ったのは自分たち、そしてこれまでの事。
人間政府の行い、配下の暴走。
また、それが起きたら。
幼いルリは自分達が守ってくれると言っただろう、だが元のルリは自分達のこともまだ怖いのだ。
もし、表に出て前のようなことがあったら、そう怯えているのだ。
こればっかりは時間をかけてそれがほどけるのを待つしかないとグリースは心の中でため息をついた。
「ルリ様、おはようございます。グリース貴様は失せろ」
「あるじぇんとおにいちゃんおはよう、あとおくちわるいのめー」
「グリース様、今すぐご帰宅のしていただけないでしょうか?」
「遠回しかつ丁寧になっただけじゃねぇか!!」
アルジェントの発言にグリースは腹を立てた。
まだ力の差は広いが、アルジェントも成長要素があるなら、グリースと並ぶかもしれない。
そうなると色々面倒が増えると、グリースの頭痛の種にもなっていた。
「ヤな奴が不死人になったから面倒だな本当」
「貴様と同類扱いだけは心外だ」
「こっちもだよ馬鹿野郎」
「おにいちゃんたち、けんか、め!」
ルリは頬を膨らませてすねるので、口喧嘩はそこで中断した。
「分かってる、ルリちゃん、さて今日は何をしたい?」
「分かっております、ルリ様。何をご要望でしょうか?」
「えっとねー」
グリース達がルリに何をしてほしいか尋ねるとルリは考え始めた。
今日も平穏そうだなぁ……とグリースが考えているとグリースの耳に何かが破壊される音が聞こえてきた。
アルジェントの耳にも届いたのか、アルジェントは立ち上がり、険しい表情をした。
ルリにも聞こえているらしい、この音に怖いイメージを抱いているのか、グリースにしがみついてきた。
『皆の者』
グリースとアルジェントの耳に真祖の声が響く。
ルリには聞こえてないのか、グリースにしがみついたままだ。
『人間政府から「吸血鬼を滅ぼす」という名目をうたった組織が兵器などを奪ってこちらに攻撃を仕掛けているそうだ、速やかに皆殺しにしろ』
「――ルリ様、申し訳ございません、私急用ができました、ですので失礼いたします。ルリ様、くれぐれも部屋から出てはいけませんよ」
「……うん」
ルリが小さく返事をするとアルジェントは微笑み一礼して部屋から出て行った、部屋に幾重にも結界がはられ、鍵がかかる音がした。
「ぐりーすおにいちゃん……」
「俺は今回ここにいる、ルリちゃん大丈夫だよ」
ルリを抱きしめる。
ルリは少しだけ安心したようだった。
グリースの耳に様々な音が届く。
どうやら相手は相当厄介な代物を持っているらしい。
こんな代物を隠し持っていたのが知られれば人間政府はかなり立場が危うくなるだろう。
否、もう既に危うい。
人間の国の内部ではもう「吸血鬼の技術も上だから任せて自分たちは従う側に回る方がいい」という声の方が多くなっているのだ、人間政府の隠ぺいしていたことと、この城を強襲したことで。
だが、一部の「吸血鬼がいない方が人間は発展する」という連中が今回問題行動を起こしたのだろう。
馬鹿な連中だ、ある意味無敵の真祖と、強大な魔術を扱う不死人がいる場所に攻め込んでいるのだ、他の連中ならともかく、この二人が敵に回った時点で敗北は確定だ。
人間政府は一体どのような謝罪をするのか、グリースは他人事だが興味がわいた。
バリンと高い音と破壊音が聞こえた。
「……ルリちゃん、目を閉じて耳を塞いで」
「……うん」
グリースはルリを抱きかかえてそういうと、彼女は大人しく従い目を閉じて耳を塞いだ。
「ここにも吸血鬼の仲間がいるぞ!!」
「殺せ、殺せ……?!」
入ってきた連中の一人が一瞬で燃え上がり灰と化した。
「――炎の不死人グリースに喧嘩を売ったのはお前たちだ、全員死ね」
グリースはぎろりと睨みつけ、武装集団を一人残らず燃やした。
悲鳴を上げることなく、全員灰になった。
「……掃除はアルジェントに任せるか……?」
グリースは異変に気付いた。
ルリがぐったりしているのだ。
「どうした、ルリちゃん! おい!!」
花畑でルリは女の人に抱き着きながら泣いていた。
「こわいよぉ、こわいよぉ」
『……』
「おにいちゃんたちとおじちゃんたちがまもってくれる、でもこわいよぉ」
『……』
女の人は無言だった。
泣きじゃくるルリの頭を無言で撫でている。
『……大人が子どもを守らなきゃそうよね、私はお母さんにそう守られてきた……』
ぐずぐずと泣きじゃくる「ルリ」の頭を撫でながら女の人――否、ルリは目を開けた。
ガチャン
足の枷が落ちる。
「ごめんね、今までいっぱい私の代わりに怖い思いをさせて」
『……おねえちゃん?』
「もう一度、頑張ってみる。それまでゆっくり休んでいて」
『……うん、おねえちゃん、がんばってね』
「うん、頑張るから」
ルリがそう言うと、「ルリ」は花畑に横になり眠った。
ルリは幼い自分の頭を撫でて、立ち上がった。
目の前が白くなる。
「……ん」
「ルリちゃん!」
グリースはルリが意識を取り戻したことに安堵の息を吐いた。
「心配したよ、どうしたんだい、ルリちゃん。何か具合が悪いのかい?」
「……えーとこれ、どういう状況なのグリース」
「?!」
グリースはルリの発言に目を見開いた。
呼び方が「ぐりーすおにいちゃん」では無くなった、幼い口調でも無い。
つまり――
「ルリちゃん、ようやく目覚めてくれたんだね……!!」
「よくわからないけど、子どもの私にばっかり怖い目に合わせてて大人の私が引きこもったまんまなのにそろそろ腹たってきたの!」
「それは人間政府に言ってくれ」
本来のルリは目覚めるなり、グリースに不満をぶつけてきた。
「あと名前忘れたけど、なんなの赤い髪の男!! 人のこと雌とか言いやがってマジ死ね!!」
「あーあいつか、大丈夫、死んだ方がマシって罰をヴァイスの奴が与えたから」
「……ならいいか。ところで何が起きてるの?」
「『吸血鬼は滅べ!』という連中が暴走して真祖の城を強襲してます、絶賛強襲した連中は殲滅されている、以上」
「……教科書で真祖には何も通じないって習わなかったのかなー……」
ルリは遠い目をしていた。
「ルリ様、ご無事ですか!!」
「……うん……無事だけど……」
「!? る、ルリ様!?」
ルリの反応にルリの安否の確認に来たアルジェントも動揺していた。
「元のルリちゃんに戻った、以上」
「そういうことになるかなー」
「し、真祖様に報告しなくては!!」
アルジェントはそう言って姿を消した。
ルリは深いため息をついた、今後への不安等が混じったため息だ。
「目が覚めたのはいいけど、まだ怖いのは変わりないんだよね……」
そう言うルリの表情は明るいものではない、怯え等暗い色に染まっている。
「……」
グリースは彼女にかける言葉が見つからず、彼女を抱きかかえたまま、そっと髪を撫でた。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
紀尾井坂ノスタルジック
涼寺みすゞ
恋愛
士農工商の身分制度は、御一新により変化した。
元公家出身の堂上華族、大名家の大名華族、勲功から身分を得た新華族。
明治25年4月、英国視察を終えた官の一行が帰国した。その中には1年前、初恋を成就させる為に宮家との縁談を断った子爵家の従五位、田中光留がいた。
日本に帰ったら1番に、あの方に逢いに行くと断言していた光留の耳に入ってきた噂は、恋い焦がれた尾井坂男爵家の晃子の婚約が整ったというものだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる