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はなよめの傷

ひとりはこわい

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 グリースは新作のぬいぐるみを取り寄せ、ルリと遊んでいた。
 ルリは新作のぬいぐるみがお気に召したのか嬉しそうにいつも抱きしめているぬいぐるみと一緒に遊んでいる。
 そこに扉を開けて誰かが入ってきた。
 気配で分かる、アルジェントだ。
 扉を閉め、一礼し、ルリに近寄ってくる。
「ルリ様、戻ってまいりました」
「おかえりなさいあるじぇんとおにーちゃん、なにかあったの?」
 アルジェントはルリの手をとって口づけをした。
「ルリ様に永劫お仕えいたします」
「……?」
「あー、お前永劫の現状維持を望んだんだもんなー」
 ルリの相手をしながら覗き見ていたグリースが言うと、アルジェントは少し不機嫌そうな顔をグリースに向けた。
「貴様その覗き見癖をやめろ」
「二千年前にできた癖なんでもうなおりませーん!」
 グリースは開き直った、アルジェントは額を抑えてため息をついた。
「……ルリ様と同じ不死人というのは光栄なのに、こいつと同じ不死人でもあるとすさまじく不名誉に感じる……」
 グリースはムカッときたので、ルリの耳を塞ぎ術を使って一時的に音を聞こえなくした。
「うるせぇな、俺だってムッツリスケベと一緒にされたくないわ」
「そのネタは止めろ!!」
 前回の口論がまた室内が発生した。

 しばらくして、前回同様グリースの圧勝という結果になった。
 自分の隠しておきたかった事を更に暴露され、アルジェントはがっくりと床に膝をついた。
「も、もっと結界を強固にせねば……!!」
「それやると俺それ突破するために更に強くなるんだけど」
「今ほど貴様を厄介と思った事はないぞ!!」
 アルジェントは立ち上がり、グリースを指さした。
 不死人は成長しないものだと思っていたが、グリースは特定の分野で成長し続けているのが分かったのだ。
「私も訓練して成長できるようにせねば……!!」
「うえー厄介な奴だなぁマジでお前」
 グリースはげんなりした表情を浮かべて、ようやくルリの術を解いた。
「おにいちゃんたち何してたの?」
「ちょっとルリちゃんにはまだはやいお話を」
「ええ、ルリ様には関係のないお話です」
「? うん、よくわからないのがわかった!」
「それでいいのです」
「それでいいんだよルリちゃん」
 グリースとアルジェントの二人に頭を撫でられながら、ルリは首を傾げた。

 夕暮れ時になった。
「おー時間が経つの早いなぁ、そうだ。ルリちゃんこのぬいぐるみあげるよ欲しかったんだろう?」
「いいの?」
 グリースから新作のぬいぐるみを受け取るとルリは驚いたような表情をしてたずねた。
「いいんだよ、ルリちゃんにプレゼントするために用意したんだから」
「わぁい! ぐりーすおにいちゃんありがとう!!」
 ルリはぬいぐるみを抱きしめた、その直後、アルジェントがそのぬいぐるみをすっと抜き取るように取り上げた。
 じろじろと見ている、透視や、探知の術まで使って調べて。
「はい、よろしいですよルリ様、このぬいぐるみには監視カメラや術などはかかっていないようでしたので」
「?」
 ルリはぬいぐるみを返してもらうと首を傾げた。
「お前と違ってそんなセコイ真似しねぇわ!!」
「私はルリ様の部屋に監視カメラなど仕掛けてない!!」
「おにいちゃんたちけんかはめーだよ」
 ルリはぬいぐるみ二つ抱きしめたまま、再び口論を始めそうになった二人に頬を膨らましながら言う。
「あー……ごめん」
「ルリ様申し訳ございません」
「……できればなかよくしてほしいの」
「――それはちょっと難しい」
「申し訳ございません、それだけは難しいのです」
「なんでぇ」
 ルリはしょげた表情で二人を見た。
 グリースは困ったような笑みを浮かべ、アルジェントは申し訳なさそうな顔をして答えた。
「色々あるんだよ」
「色々あるのです」
 ほぼ同じ発言だった。
 ルリはきょとんとしてから、くすくすと笑った。
 何故笑ったのか、二人には分らなかった。

「じゃあ俺帰るねー」
 グリースはそう言って窓に寄りかかるとすうっと消えた。
「ばいばいー」
 ルリは手を振る。
 アルジェントはグリースがいなくなると、ルリの汚れたネグリジェを綺麗なネグリジェに着替えさせた。
 汚れたネグリジェをもって一礼した。
「それでは失礼いたします」
「あるじぇんとおにいちゃんまたあしたね」
「はい、また明日」
 アルジェントは部屋を出て行った。
 一人になると、ルリは嬉しそうに二体のぬいぐるみを抱きしめる。
「えへへぷにちゃんふえた」
 ルリは幸せそうに抱きしていた。
 そうしていると少しだけ薄暗くなった。
 顔を上げる。
「しんそおじちゃん」


 ヴァイスはまだ変わらず中身が幼子のままのルリの頭を優しく撫でる。
「……今日は怖かったであろう」
「……うん、こわかった」
 ルリは思い出したのか不安そうな顔をした。
 ヴァイスはルリの頬を優しく撫でながら言う。
「私達が何があってもお前を守ろう」
「ほんとう……?」
「ああ、約束するとも」
「……しんそおじちゃんたちもしなないでね」
「勿論だとも」
 ヴァイスの言葉にルリは安心したような表情を浮かべた。
「さて、今日はどうするか……」
「……あのねしんそおじちゃん……」
「どうしたのだ?」
「きょうはすごくねむいの……でもひとりでねるのこわいの……いっしょねて?」
 ルリは二体のぬいぐるみを抱きしめて少し怯えた色の声でお願いをしてきた。

 今日の襲撃が相当怖いものだったのだろう。
 一人になった時、また知らない人が来て自分を無理やり連れていくんじゃないかと怖がっているのだ。
 連れていかれた場合自分にとって「こわいこと」を強いられるのが何となく想像できているからだろう。

 ヴァイスはかがんで、ルリと視線を合わせて微笑んだ。
 優しく頬を撫でながら言う。
「良いとも、では、私の部屋へ行こう」
「うん」
 ヴァイスはルリを抱きかかえて、闇に包まれ、自分の部屋へと転移した。
 そして広いベッドにルリを寝かせて、マントを脱いでその隣に横になり、毛布を出現させ、自分とルリの体にかける。
 ルリはぬいぐるみを抱きしめたままヴァイスに近寄付きふところに入るような体勢になって目を閉じた。
「ひとりにしないでね……」
 ルリはそう言った後、少ししてから静かな寝息を立て始めた。
 ヴァイスは眠るルリの頬を愛し気に撫でる。
 今日の事がまた元のルリの傷になっているのではないかと不安になった。

 いつ、あのルリに会えるのか。

 予期せぬ事態や、予期はしていたが対応がうまくとれなかった事などで、元のルリに傷がつく。
 そうすると、より目覚めが遠ざかる。
 今でもいつ目を覚ますのか全く予想がつかないのだ。
 触れ合いたい、もっとその体を深く、それが恋しい。

 ただ、それを元のルリが拒否するかもしれないと思ってしまう。

 どんなに恋しく愛おしく思っても、本来のルリを苦しめているのではないかという考えが消えない。
 強要はしないと約束はした、それでも――

――お前の愛が欲しい―ー

 ヴァイスは眠るルリの唇にそっとくちづけした。


 ルリは目が目を開けると、薄暗い花畑の中にいた。
 今にも倒れそうな女の人がいる。
 ルリは駆け寄って、女の人を支える。
「おねえちゃんだいじょうぶ?」
『……なんとか』
 女の人は落ち込んだような声をしていた。
『向こうの政府にとって私はそういう扱いなのねもう……』
「おねえちゃん?」
『……お母さん達が心配なのよ』
「……うん、おかあさんたちしんぱい」
『……でもわたしにはどうすることもできない、どうしたらいいの……』
「……しんそおじちゃんたちにそうだんしてみよう?」
『……それしかないわね……』
「……おねえちゃん」
 女の人は自分の体を抱きしめた。
『それと何か、体が変なのよ、変な感じがするのよ、これは何?』
「……?」
『……貴方が目を覚ました時、これで苦しむのがことが不安だわ……』
 女の人は不安そうにルリを見てきた。
 ルリは自分の体に何か怖いことが起きるのかと不安になった。


 ルリは目を覚ました、頭がぼんやりする、体が熱っぽい、変な感覚がする。
 特にお腹の部分が何か切ないような感覚がする。
「ルリどうした?」
 そんな自分を「しんそ」が覗き込む。
「なんかからだ、おかしいよぉ……」
 ルリは自分の体の不調をどう伝えればいいか分からず困惑した声を上げた。




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