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はなよめの傷
よくないこと ~襲撃されそして忠義の首は落ちた~
しおりを挟む唇を離すと、ルリは安心したような顔をした。
ルリにとって「怖いこと」などをしなかったという安心感だろう。
「……他に誰かにキスをねだったりしたか?」
ふと気になり、ヴァイスはルリに尋ねた。
「ぐりーすおにいちゃんとあるじぇんとおにいちゃん。あるじぇんとおにいちゃんなんか『おそれおおくてできない』っていったのに、ぐりーすおにいちゃんとちゅーしたら、るりのくちはんかちでごしごししてからちゅーした」
何となく予想はついていたが、自分だけじゃない事がヴァイスには少し残念だった。
「でもみんなしたいれてこない、あのこわいひとしたいれてきたの、だからまだおくちへん、はみがきしたのに」
どうやらルリは口内も舌で犯された感覚がどうやってもぬけないのに嫌な気分になっているようだ。
「それをあの二人には言ったか?」
「ううん、ちゅーだけ、なんかこうろんしてたからいったらこまるかなって」
「……では、もう一度キスをしてよいか、舌でお前の舌に触れたい」
「……それいじょうしない?」
「しない」
「ならいいよ」
ヴァイスはルリの薄紅色の唇に再び唇を重ね、今度は舌を入れた。
ルリの何処か怯えて引っ込んでいる舌に、軽く自分の舌を触れさせ、それで口づけを終えた。
「……すこしへんなのぬけた」
「そうか、それで我慢してくれ」
「うん」
本当は舌を絡ませたかったが、それではルリの信頼を裏切りかねない為、ヴァイスは我慢しながらそう答えた。
「あのね、ゆめのなかのおねえちゃんがよくないことがおきるきがするっていってたの」
「そうか」
精神的に閉じこもったことで本来のルリの第六感が鋭くなっているのだろうかとヴァイスは思った。
ヴァイスもそんな予感はしていた。
人間政府の行動を監視しておかなければならないし、配下たちの監視も強めねばならない。
今回のような事が起きない為に。
ヴァイスは腕の中のルリの髪を撫でる。
出会った時より少しばかり伸びた気がする。
黒い髪、髪が長くなれば美しいだろうと思った。
幼いルリは伸ばしてくれるかもしれないが、本来のルリに戻ったらバッサリ切りそうな予感がした、彼女が髪を伸ばす行為を面倒くさがっていたというのが記載されていたのを思い出す、頭が重くなるのが嫌らしい。
「……さて、今日は何をしたい?」
「……なんだろう、きょうはおもいつかないや、やすんだりしてたのに、すごく、つかれた……なんでだろう……」
ルリは急にうとうとし始めた、本人は休んでいたつもりだが、精神的な負荷が多くて休めてなかったのだろう。
その上、その精神的な負荷が多すぎて、疲労にも今まで気づかなかった、先ほどの口づけで、疲労がどっと表面化したのだろう。
「よい、今日はもう休め」
ヴァイスはルリをベッドに寝かせ、毛布をかける。
「……こわいことおきないといいなぁ」
「大丈夫だとも」
ヴァイスはルリの頭を優しく撫でた。
ルリは小さく頷くと、静かに目を閉じた。
しばらくすると、小さな寝息がヴァイスの耳に届いた。
ヴァイスは部屋を暗くし、部屋を後にした。
それから一週間が経過した。
一週間は何事もなく平和だった。
一週間経過したその日グリースは隠れ家のベッドから起き上がり、ルリの元へ行く準備をする。
鏡で身なりを整える、女でも男でも髭が生えるというが、両性で全く生える気配のない顔を見ながら、変化の一つもない自分の体になんとか今日も納得した。
その直後、違和感を察知した。
人間の国で大量の空間転移が発動したのだ。
グリースはその情報を見て、どこに転移先を見る、場所は吸血鬼の国の真祖の城。
「ついにやりやがったか阿呆共は!!」
グリースは空間転移しようとしたが、バチンとはじかれる。
「連中、色々対策取りやがったなぁ、だが甘いな、転移方法は一つだけじゃないんだよ!!」
グリースはそう言って隠れ家から姿を消した。
『怖い音がきこえる』
大分明るくなり、綺麗な花畑に座っている女の人はルリにそう言った。
「こわいおと?」
ルリは怯えた顔で女の人に尋ねる。
『良くないことがおこる、そんな気がするの』
「また『こわいこと』されるの?」
『……分からない……本当にごめんなさい』
「どうしたの?」
『そういう辛いのばかり貴方に押し付けて、臆病でごめんなさい』
女の人はうつむきルリに謝った。
「……おねえちゃんきずついたからしかたないよ」
ルリは困ったように笑って女の人の頭を撫でた。
ルリは目を覚ました。
いつもの部屋のはずだが、何か違和感を感じる。
ガンガン!!
扉をたたく音にルリは怯えた。
ぬいぐるみを抱きしめ、部屋の隅に移動する。
同時にパリンパリン、パキン、と甲高い何かが壊れる音がたくさん聞こえた。
扉が壊される。
見たことのない恰好をした、何か怖い物を持った人達が入ってきた。
「いたぞターゲットだ!! 確保しろ!!」
その人物達はルリの所に近寄ってルリの腕をつかんだ。
「やだ! はなして!!」
ルリは怖くて逃げようとしたが、ルリの腕をつかんだ人物の力の方がとても強く、また髪もひっぱられ、痛みを感じてルリはぬいぐるみを手放してしまう。
体を拘束され、抱えられ連れていかれる。
「いや! たすけて! たすけておにいちゃん!!」
そう叫ぶと、ルリを連れ去ろうとした人物達の一部が氷漬けになった。
「ルリ様を返せ」
聞き覚えのある声に、声のした方を向ければ、怒った顔をしたアルジェントがいた。
アルジェントは城に突如した不法侵入者達を氷漬けにしながら、ルリの部屋に急いだ。
アルジェントがルリの部屋に近づくと、ルリを拘束し、無理やり連れて行こうとしている者達の姿が目に入った。
串刺しにしてやりたかったがそれを見たらルリが怯えてしまいかねないと、一部の連中を氷漬けにした。
「ルリ様を返せ」
怒りを隠さず、言う。
武装集団は銃を向けてきた。
陣を展開し防御を取るが、銃弾に何かが込められているのか、陣に少しずつ亀裂が入っていく。
「ルリ様目を閉じていてください!!」
大声でルリに向かって言うとルリは困惑したようだったがすぐ目をぎゅっと閉じた。
アルジェントは身体強化を行う。
武装集団の連中の首をねじ切り、銃弾が向けられれば死体を盾にして防ぎながら接近して頭を握りつぶした。
ルリを捕えている最後の一人になるとルリを救出してからかかと落として頭から胴体まで真っ二つにした。
周囲にすさまじい血の匂いが充満する。
「ルリ様、まだ目は閉じていてください」
アルジェントがそう言うとルリは頷いた。
アルジェントは安全な場所がないか城の様子を見るがどこも武装集団がいる。
下手に動くとルリに危険が及ぶ。
主の部屋に武装集団がいる、主が対処しているようだが、主の部屋に連れていくのも得策ではない、武装集団は主の部屋を目指している。
ではどうすればいいかと思案していると足音が聞こえた。
「いたぞ、女を確保しろ!! 怪我を負わせてもかまわん!! 不死人だ!!」
忌々しい愚者共の言葉に、アルジェントは我慢ができなかった。
愚者たちを氷で串刺しにして次々と殺害していく。
しかし、数が多すぎた。
一度まだ拘束されたルリの拘束を引きちぎり、空間の隅に座らせ。
「ここで待っていてください、お守りしますから」
「うん」
不安そうなルリに優しく微笑んでから、武装集団を見て冷徹な表情に戻る。
――ルリ様は守らねば、その結果死ぬことになろうとも――
武装集団の足元が凍る。
次々と凍結し、ガシャンと崩れていった。
武装集団はパニックに陥っているようだった。
アルジェントは冷徹な表情で、弾丸が自分の体をかすろうとも動じず、一人ずつ着実に葬り去っていく。
パニックに陥っていたらしい一人が何かに気づいたように叫んだ。
「女を狙え!! 不死人だから大けがさせても死なないはずだ!! 奴の弱点だ!!」
「?!」
鋭い刃がルリに向かって放たれた。
「ルリ様!!」
アルジェントはルリを庇った。
ルリの耳に何かを切断したような音が聞こえた。
顔を上げる。
「あるじぇんと、おにい、ちゃん?」
アルジェントの首がごとりと落ち、血が噴き出した。
「あ、あ、あ」
「いやあああああああああああああ!!」
ルリの悲鳴が城内に響き渡った。
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