不死人になった私~壊れゆく不老不死の花嫁~

琴葉悠

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こわれたはなよめ

おそとにでたらそこであったのは「こわいこと」

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 アルジェントはようやく立ち上がった。
 殴られた箇所と蹴られた箇所が酷く痛む。
 術で痛みを緩和させているが、それでも痛みは酷い。
 ルリの方へと視線を向けると、ルリは怯えた表情を自分に向けたままぬいぐるみを抱いている。
「ルリ、様」
「いや……こないで……!!」
 ルリは怯えた表情を浮かべてアルジェントを拒絶していた。
「ルリ様……!!」
「ぐりーすおにいちゃんしななかったけど、ふつうのひとならしんでたもんさっきの……いや、こわい……そうやってへいきでひとをころせるこわい!!」
 先ほどの行いが、別の恐怖心をルリに植え付けてしまったようだ。
 だが、アルジェントは感情がコントロールができなかった。

 彼は気づいてなかった、自分の主を愛してくれといっているのに、本当の自分の願望は己を愛してほしい、己だけ見てほしいというものだと。

 どうしてコントロールが効かなくなりつつあるのかアルジェントは全く分からなかった、ただ頭がルリを求めて仕方がなかった。
「ルリ様、ルリ様……!!」
 腹を抑えながら近寄っていく、手を伸ばす。
 ルリは怯えながらぬいぐるみを抱きしめて後ずさりをしている。

 しかし逃げ場がなくなり、怯えてしゃがみこんだ。

 アルジェントは虚ろな笑みを浮かべて、ルリの肩を掴んだ。
 にたりと口元に笑みが浮かぶ。
「や……いや……」

――その華奢な体を抱きたい、薄紅色の唇に口づけをしたい――

 欲望のまま体が動いていた、だがルリの怯えたに染まった瑠璃色の目を見た瞬間アルジェントは目を見開き、そして自分で自分の顔を殴った。
「?!」
 突然の行動に、ルリは困惑の目でアルジェントを見ている。
 アルジェントは歯を食いしばり、いつもの表情に戻った。
 ルリはそれを見て怯えた表情に戻る。
 アルジェントは膝をつき、頭を垂れた。
「……ルリ様、申し訳ございません。貴方様の目の前であのようなことをしてしまい……」
 雰囲気の変貌っぷりにルリはまた困惑した表情でアルジェントを見る。
「……ルリ様からお許しが出るまで、私は触れません、そしてお願いです、部屋からは決して出ないでください」
「……うん」
「ありがとうございます」
 アルジェントはそう言うと部屋から姿を消した。

 部屋に取り残されたルリは、部屋を掃除しにきた不思議な生き物を見ながら、先ほどまでのアルジェントの行動の変わりようにただ困惑していた。
 まるで、別人のようで――


 アルジェントは自室で自分の体中に傷をつけた。
 少し日に焼けた色をしている体に無数の切り傷がつき、血がだらだらと流れ、鈍痛が体のあちこちに生まれる。
 ガンと、額を壁に打ち付けた。
 徹底的に自分の体を痛めつけた。
 痛めつけ終わると荒い呼吸をして、ルリの写真が入った写真立てを持つ。
 そっと触れ、写真立てを置いて、額を抑える。

――何故、何故あんな行動をした!!――
――主の立場が危うくなる、その上ルリ様の心に更に傷をつける行為を!!――
――そして怯えるルリ様にあんなことをしようとして――

 頭を押さえ呻く。

――あの華奢な体を抱いて、唇を奪って、自分だけを見てほしい――

「黙れ黙れ!!」
 耳を塞いで叫ぶ。
「ルリ様は、真祖様の奥方様だ!! ルリ様の愛は真祖様にだけ向けられなければならない!!」

――嘘をつけ、愛されたいのはお前だ――

 アルジェントが耳を引きちぎりたくなった。
 だが分かってる、引きちぎったところでこの声は消えないと。
 うずくまり、酷い自己嫌悪に陥る。
 自分の中に産まれた酷い欲を消す自信が、アルジェントには無かった。
 消さなければという考え以上に、消したくないとういう感情が強く、自分を支配していたからだった。


「……」
 ルリはぬいぐるみを抱きしめたまま部屋を出ようとした、鍵がかかっている。
 だが、聞こえる声に従って鍵を動かすと扉を開いた。
 ルリは裸足のまま、城の中を歩いていく。
 時折出現する道を塞いでいる壁は叩けば消えた、ルリは城の外へ出た。
 人影はない。
 ルリはそのまま城下をさまよい始めた。


 アルジェントは自室を出てルリの部屋へと転移した。
 部屋にルリはいなかった。
「ルリ様……!!」
 アルジェントはぎりっと歯を食いしばり、急いで城の扉の前に転移する。
 扉に触れて読み取ると、ルリが外に出たのが見えた。
 術を発動させ、ルリの足取りを追う。
 しばらく見えた足取りが急に薄くなる、何か乗り物に乗ったのが分かる。
 その時の状況を念のため読み取る。

 男達がルリを囲んでいる。
 嫌がるルリを無理やり車に引きずりこんで、車は走り出した。

 アルジェントは舌打ちして身体強化を使い追跡を開始した。


 見知らぬ場所の、見知らぬ部屋に連れてこられて、ルリはぬいぐるみをもって震えていた。
「俺たちみんな喉が渇いてるんだよ」
 男達はにやにやと笑っている。
 一人がルリを押し倒して、首に牙を立てた。
「いたい!! やめて!! やだぁ!!」
 ルリはじたばたと動くが男達が体を押さえ付けて抵抗できなくする。
「おい、お前飲みすぎだぜ俺たちの分が無くなるだろう?」
「っぷは! すげぇこんな美味い血飲んだことねぇ!!」
「もしかしてどこかの貴族の秘蔵っこか? だったら運がよかったなあ俺たち!!」
「俺にも飲ませろ!!」
「俺にもだ!!」
「やめて……やめて……」
 弱弱しい声を上げるが男達は体のいたるところに牙を立てていく。
 痛みで頭が恐怖に汚染される。

 血を満足するまで飲んだ男達はほとんど体を痙攣させるだけになったルリを見てげひびた笑いを浮かべた。
「お嬢ちゃん、俺たちを満足させたお礼に天国を見せてやるよ」
 ルリのショーツに手をかけ脱がした。
「こわい、こわいよぉ……やめて、やめてぇ……」
 ルリはこの男達は「こわいこと」をすると理解した。
 拒否の声を上げた。
 しかし、それは無視された。
 男の雄が、ねじ込まれる。
「やぁああああ!!」
 ルリは悲鳴を上げた。

――たすけて、こわいよぉ、だれか、だれか、たすけて、たす、けて――


 倉庫の前に車が止まっていた。
 アルジェントは状況再現の術を再度使用する。
 車からルリが引きずり出され、連れていかれる、アルジェントはその後を追って、一つの倉庫の前にたどり着く。
 鍵がかかっている、術では解呪できない鍵だ、氷の塊をぶつけるがそれにも耐性があるのか破壊できない。
「お前、本当役にたたねぇな」
 馬鹿にするような腹立たしい存在の声がアルジェントの耳に届く。
 振り向けば酷く不機嫌そうな顔をしたグリースが立っていた。
「貴様に構ってる……」
「ルリちゃんが誘拐されたんだろ!! 俺お前から喰らった術の所為でしばらく呻いてて気づくの遅れたけど気づいたからきたの!!」
「だが扉が……」
「そんなもんこうだ!!」
 グリースが指を鳴らすと扉は蒸発した。
「ルリ様!!」
「あ、おい待て!!」
 出来た入り口にアルジェントが入っていった、グリースも慌てて中に入る。

 生臭い匂いが鼻についた、アルジェントは嫌な予感に内心怯えながら奥の部屋を開ける、そこには――
 複数の吸血鬼の男達に輪姦されているルリの姿があった。
 体のあちこちに噛んだ傷や切りつけた傷が見えた。
 怒りが噴き出る。
「貴様らぁあああああ!!」
「な、なんだテメェ!!」
「おい、鍵したんじゃなかったのかよ!!」
「アレは人間だ、殺しちまえばバレねぇよ!!」
「そうだやっちまおう!!」
 術を発動させようとするアルジェントの肩をグリースがたたいた。
「お前はルリちゃん連れて今すぐここから出ろ、城に戻れ」
 アルジェントの耳元で囁く。
「ルリちゃんの目の前で流血沙汰はもうやめとけ」
 グリースに言われ、アルジェントはぎりっと歯を食いしばり口を開いた。
「……分かった」
 アルジェントは部屋に飛び込みルリを抱きかかえ、ぬいぐるみを持つとその場から転移して姿を消した。
「魔術師か今の!!」
「畜生やられた!!」
「もう一人のをやれ……ぎゃああああ!!!」
 吸血鬼が燃え上がり、悶え苦しんだ末、灰になった。
「散々楽しんだようだな、その分の代金」

「今から全部その命で支払ってもらう」

 グリースが指を鳴らすを残りの吸血鬼の男達も燃え上がり、悶え苦しみ、最後には灰になった。
「……くそ、もっと早くなんで動けなかったんだよ俺は!!」
 グリースは忌々しそうに己の指を噛んだ。




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