不死人になった私~壊れゆく不老不死の花嫁~

琴葉悠

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こわれたはなよめ

きゅうけつき

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 アルジェント不安そうに見つめてくるルリに説明することは山ほどあった。
 だが中身が「四歳児」なルリに一気に説明しても理解してくれないだろう、一つずつ説明しなければ。
「……なんでおそとにでちゃだめなの?」
「ルリ様は特別なんです、外はそんなルリ様をさらおうとする連中がたくさんいます」
「……おうちにいたときはそんなのなかったよ」
「ルリ様は特別で、真祖様の花嫁、だからさらおうとする輩がたくさんいます、中にはそう『こわいこと』を強要してくる輩も多いでしょう」
 ルリの顔色変わった、卑怯なのはわかるが「こわいこと」という言葉は効果があった。
「それと中には吸血鬼という特別な存在がおります」
「きゅうけつき?」
「血を吸うんです、人間。ルリ様の血は吸血鬼からするととても貴重です」
「きちょう?」
「欲しくてたまらない物なのです、真祖様も吸血鬼です」
「……あの『こわいひと』もわたしのちをすうの?」
「……それは分かりません、ですがルリ様が嫌がるなら真祖様はしないでしょうが、他の吸血鬼は違います、嫌がるルリ様の血を無理やり吸って痛い目に合わせるかもしれません」
「……そんなひとたちがおそとにいるの」
「はい、ですからこの城からは出てはいけませんよ」
「……おうちは?」
「ルリ様のお家の周辺もそういう輩がたくさんいます、ルリ様のご家族ではルリ様守れないので私達はルリ様をお家には帰せないのです」
「……うそじゃない?」
「本当です」
 疑っているような目をしているルリにアルジェントは真剣な表情で答えた。
 しばらくして、ルリは小さく頷いた。
「……うん、わかった」
「ご理解いただけて何よりです」
「……おかあさんたちはここにはこれないの?」
「それをするとルリ様のご家族が危険な目にあいかねないのでできません、ルリ様をお守りするのが私の精一杯です」
「……あえない?」
「申し訳ございません」
 中身が四歳児のルリだが、実際は二十歳、この十六年も年月では人間容姿に老いや成長が見える、母親はぎりぎり大丈夫でも他の身内を認識するのができないだろう、何より既に身内が二人亡くなっている、そういう事柄と直面して混乱して、精神が危うくなるのは避けたかった。
「……わたししあわせじゃない」
 再びぽつりとつぶやくルリに、アルジェントは頭を悩ませた。
 どうやってこのルリに幸せだと認識してもらうかだ。
 そこには主の存在もネックになっている、ルリにとって「怖い人」という認識のままだというのが分かったからだ。
 主を「怖い人」ではなく、「最愛の夫」と認識してもらうようにするにはどうすればよいのか、と悩む。
 アルジェントはこればかりは投げだした、自分ではどうにもできないのだ、口で言っても主の行動次第なのだ。
 主の行動がルリの心を動かしてくれる、そう良い方に動かしてくれるのを願った。
「ルリ様、何がしたいですか」
「……おそといきたい」
 説明はしたが、それでもまだ外へ出たいようだ。
 城の範囲内で何処か遊べる場所はないか遠見で探る、一か所あった。
 遊具がある、日の下の場所に相当する場所が。
「分かりました、ではお着換えをしましょう」
「うん」
 ヴィオレが居れば「ふさわしくない」と怒るだろうが、遊ぶのであれば動きやすい方がよいだろうと、かつてのルリが着ていたらしい服と、シャツとブラジャーを出す。
 ルリにブラジャーをつけると窮屈そうにしていたので、ヴィオレに怒られそうなかつてのルリが着用していたと思われるスポーツブラとシャツにすると、大人しくなった。
 そして服を着せ、歩きやすいようにスニーカーを履かせる。
 着替えが終わると抱きかかえ、ルリと一緒に転移する。

 公園のような場所に転移すると、ルリは嬉しそうな顔をした。
 アルジェントの腕から降りるとすぐ駆け出して遊具で遊びだした。
 無邪気に遊ぶ姿は四歳児というのも納得させられるものだった。

 ルリは飽きるまで遊んだらしく、疲れたのかぺたりと地面に座り込んだ。
「ルリ様、お部屋へ――その前にお風呂ですね」
 土まみれになってるルリを見て、アルジェントは苦笑しながら彼女を抱きかかえる。
 いつものように浴室へと転移した。

 入浴を終え、綺麗ななったルリをタオルに包んで抱きかかえながらアルジェントは部屋へと戻ってくる。
 アルジェントはルリへ向けていた微笑みを消し、不法侵入者へ警戒の眼差しを向けた。
「……ローザ様、何故貴方様がここにいらっしゃるのですか?」
 亜麻色の髪をした女吸血鬼――ローザにアルジェントは警告の色を込めて言葉を放つ。
「あら、アルジェント。そんなに警戒しないでほしいわ、私は真祖様の花嫁に会いたくて来ただけなのだから」
「真祖様はそれを禁じているはずですが」
「だからますます会いたくなってしまったのよ? ああ、貴方の事なのかしら」
 ローザは近づいてきてルリに声をかけるが、アルジェントの言葉を聞かされているルリは彼女が恐怖対象なのか、アルジェントにしがみついてきた。
「少し『診た』けど、幼児退行しているわね、不死人になった時の事がとても酷いことだったのかしら」
 ローザはくすくすと笑う。
「それとも――」

「真祖様の『寵愛』が重すぎたのかしら」

 ローザの言葉に、アルジェントは怒りを宿した視線を彼女に向ける。
「……ローザ様、土に還りたいのでしょうか?」
「あらあら、そんなに怒ってせっかくの綺麗な顔が台無しよ」
 ローザはくすくすと笑っている。
「ねぇ、花嫁さん、よろしければ私に貴方の――」

「血を頂けないかしら」

 ルリの黒い髪を撫でながら、ローザはうっとりと言う。
 ルリはその言葉に本能的に恐怖を感じたのか、それとも先ほどのアルジェントの言葉が効果があったのかわからないがより強い力でアルジェントにしがみついて首を横に振っている。
 アルジェントはローザの手を払い、ルリをしっかりと抱きしめた。
「二度とここには立ち入らないでいただきます」
「残念、それでは奥方様、またお会いしましょう。今度は邪魔者抜きで」
 ローザは部屋から立ち去った、アルジェントは部屋に鍵をかけて術を施す。
 そして自分にしがみついて怯えているルリの頭を優しく撫でて、ルリをベッドの上に座らせて、下着と服を着せて、髪をとかす。
「……まさか入ってくるとは思っていませんでした、ですが二度目はありません」
「……もうあのこわいひとはいってこない?」
「はい」
 ルリは安心したような顔を浮かべた。
「――外はあのような輩がたくさんおります、ですから城からは出ないようにお願いします」
「うん……わかった」
 ルリは小さく頷いた。
 使い魔たちが部屋に入ってきた。
 洗うよう命令したぬいぐるみが汚れひとつなく、新品同様の姿で戻ってきたのにルリは目を丸くしたが、嬉しそうに手を伸ばす。
「ぷにちゃん!」
 使い魔たちがぬいぐるみをルリに渡すと、ルリは嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめた。
 使い魔たちは用が済んだのか部屋から姿を消した。
 アルジェントはルリの隣に腰を下ろし、ルリの腰を掴んで引き寄せ、頭を優しく撫でた。
「良かったですねルリ様」
「うん!」
 ぬいぐるみを抱きしめて嬉しそうにしていたルリだが、少しすると何か考えているような顔をした。
「ルリ様?」
 声をかけると、ルリはアルジェントの方を見て首をかしげながら尋ねてきた。
「……おにいちゃんのおなまえは」
 アルジェントは今更ながら、今のルリは自分の名前を忘れてしまっているのだと思い出した。
「私の名前はアルジェント。ルリ様の御世話係です」
「ある、じぇんと?」
「アルジェントです」
「あるじぇんと」
 ルリはアルジェントの名前を何度か復唱する。
 復唱して覚えたらしい。
 アルジェントをもう一度見て、首を傾げた。
「なんでぐりーすおにいちゃんもだめなの」
「……奴は危ないのです」
「いたいこともこわいこともしないし、やさしかったよ?」
「……ルリ様は真祖様の花嫁なのです、グリースを好きになってはいけません」
「なんで?」
「何ででもです」
 ルリは納得してないようだった。
 グリースに関しては主のこともあるが、それ以上に私情が入りかねない。
 下手にあれこれ言ってうっかり、自分の思いを吐き出してしまったら死をもって償わねばならない。
 アルジェントはグリースの事に関しては説得することができなかった。

 ルリは幼児かしていたが、ゲームとかのことは残っていたのか、持っていたゲームで遊んだりして時間を使っていた。
 アルジェントは隣でそれを眺める。
 日が傾いていく。
「――ルリ様、そろそろお時間です。もうゲームは止めましょう」
「うん」
 ルリは大人しく言うことを聞いた。
 そして服を脱ぎ、シャツを脱ぎ、スポーツブラを外し、ネグリジェを身にまとう。
 露出の低い物だ。
「……」
 やはり不安そうな顔をしている。
「大丈夫ですよルリ様」
 アルジェントはルリの頭を撫で、額に口づけをする。
「真祖様は優しい方ですから」
「……でもこわいよ……」
「大丈夫です」
 アルジェントは微笑みながらルリの頭を撫で、一礼してその場から姿を消した。


 ルリは不安に怯えながら窓の外を見た。
 真っ赤な夕日が沈んでいく光景が瑠璃色の目に映った。




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