不死人になった私~壊れゆく不老不死の花嫁~

琴葉悠

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こわれたはなよめ

「しあわせ」じゃないよ

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 ルリは「とてもこわいひと」の発言が理解できなかった。
 ルリの「おとうさん」達はルリを「およめ」には絶対にやらないって言っては「おかあさん」に叱られてたのを覚えてる。
 そんな「おとうさん」達が自分を「とてもこわいひと」に自分を「およめ」にやるとは思えなかった。
 この「とてもこわいひと」なにか嘘をついてるんじゃないかと思った。
 でも怖くて聞けなかった。

 ヴァイスは中身が四歳児になってしまったルリの対応に頭を悩ませた。
 多分自分たち吸血鬼の事も知らぬ可能性が高い年だろう。
 真祖などと言っても理解しない。
 盟約のことなど絶対知らない。
 だが、現状を納得してもらうか受け入れるかしてもらわなければルリの身が危うい。

 配下の吸血鬼達が彼女に取り入ろうと付け入ろうと、もしくは無知であるところを突いて喉に牙を立てるかもしれない。
 そして人間政府も、一度は脅したものの、それで引っ込んでいたら二千年前の戦争などもっと簡単に収束していただろう、盟約を結ぶときは散々苦労した覚えがある。
 それに幼児退行したルリを「こんな状態では真祖様にはふさわしくない」などと言って連れて行こうとしかねない、今のをみたら確実に。
 そして孕ませる実験を行う可能性が高い、不死人の男と不死人の女、かけ合わせたら産まれてくるのは不死人か、否か、そう言う実験を。
 もし不死人が確定で生まれてくれば最悪だ、奴らの事だからそれで軍隊を作り、盟約を破って自分達を滅ぼそうとしてくるだろう。
 ただ、それが確約した時点でグリースが動くから可能性としては低い。
 だが悪用するのは確実だ。
 そんな事態になったら、ルリは孕ませるための道具として扱われるだろう、精神が壊れようが何しようが。
 それをやったらグリースの怒りを買って人間どもが滅ぶ可能性が高いが、完全に滅びてしまうと自分たち側としては困る事が起こるのでそれは避けたい。

 ヴァイスはため息をつきたくなった、頭痛もしてきた。
 悩みの種が多すぎるのだ。
 色々考え込んでいたら、ルリがうとうとし始めた。
 しばらく見ているとそのまま眠りに落ちてしまった。
 無防備な喉がさらされる。
 ヴァイスは我慢が効かず、ルリの喉に牙を立てた。
 ルリはぴくりと動いたが目を覚まさない。
 抗えない程甘美な味が頭を支配する。
 我に返って、吸血行為をやめ、喉から口を離す。

――これは、本当に危険だ――

 甘美すぎる血は、あまり吸血行為を必要としなくなった自分でさえも我慢が効かなくなるある種の中毒性を持っていると感じられた。
 この味を知ったら、他の血では満足できなくなるだろう。
 配下には自分が呼び出さない限り来ないように命じているが、破る輩がいないわけではない。
 そのような輩からルリを守るにはどうするべきか、ヴァイスは深いため息をついた。


 ルリが目を覚ますと「とてもこわいひと」の部屋ではなかった。
 銀髪の人が言うには自分の部屋らしいが「おうち」の「じぶんのへや」ではないのでルリは不安になった。
 「しんそさまのはなよめになった」と言うが分からないのだ。
 ルリはまだ「よんさい」だ。
 結婚できる年じゃないし、そもそも「しんそさま」――たぶん「とてもこわいひと」の「はなよめ」になんでなっているのかわからない。
 もしかして「ゆうかい」されたんじゃないかと思った。
 それなら、ここから出たら「けいさつ」にばれて捕まるから出さないんじゃないかとルリは考えた。
 ルリはベッドから下りて、裸足のまま部屋から出ようとした、鍵がかかっていた。
 がちゃがちゃと鍵を開けようとするが、開かない。
 窓に向かう、窓は開いた。
 下を見ると、とても高い場所にいるのが分かった。

――おちたらしんじゃう――

 そう思った矢先、ルリは窓から、滑り落ちた。

――あ――

 顔が真っ青になる。
 自分は落ちて死ぬんだと。
 怖すぎてルリの意識は暗転した。


 落下するルリの体をグリースが抱いて受け止めた。
「あぶねぇあぶねぇ、いや、死なねぇけどこれは心臓に悪い」
 グリースは風を操ってその場から浮上すると、部屋に戻った。
 アルジェントと運悪く遭遇する。
「貴様……!!」
 アルジェントは怒りをあらわにしてきた。
「ちょっと待った!! 今回俺は助けただけ!! ルリちゃんが窓から落っこちたの!!」
「……それは本当か?」
「本当本当!! だったら現場検証して見ろ!!」
 グリースの言葉にアルジェントは、過去に起きたことを再現させる術を発動させた。

 ルリが部屋から出ようと扉をガチャガチャといじっている。
 開かないのに諦めたのか窓に向かった。
 体を乗り出し、下を見てそしてそのまま窓から滑り落ちる様に姿が消えた。

「……嘘ではないようだな」
「だから言ったろ?」
 グリースは意識をうしなっているルリをベッドに寝かせる。
「窓にも鍵かけとけ!!」
 グリースが怒鳴る、窓に鍵をかけられても別にグリースは部屋に入ってこれる、問題はまたルリが落下したらという恐れがある。

 落下した先で、良からぬ連中に見つかったらルリの身が危ないからだ。

 グリースの言葉に、アルジェントは窓の高い位置の鍵を遠隔で動かし、窓を開かないようにした。
「――貴様は何しに来た?」
「ルリちゃんの遊び相手だよ」
「なら帰れ」
「知ってるぞーお前ヴァイスの奴から無理難題押し付けられたのー」
 グリースの言葉にアルジェントは眉を顰める。
 事実だからだ。

 主に「中身が四歳児になってるルリを城の外や他の配下等に会わないよう、近づかないよう納得させよ」という結構厳しい命令をされたのだ。

「中身四歳児ってのは何となく納得はしてたけど、そんな子に納得させるの大変じゃね?」
「……黙れ」
「何だよー珍しく、お前の事心配してあげてんのにさー」
「貴様の心配などいらん!!」
 アルジェントが怒鳴る。
「ん……」
 ルリがもぞもぞと動きそして、目を覚まし体を起こした。
「あれ……わたしまどからおちた……」
「夢だよ、ルリちゃん、お家帰りたくてそういう夢みちゃったんだよ」
 グリースが嘘をついた。
「そうなんだ……」
 ルリは納得した。
「しろいかみのおにいちゃん」
「グリース、俺はグリース、覚えてね」
「ぐりーすおにいちゃん」
 ルリはアルジェントに気づいていないようだった。
「わたしゆうかいされたの?」
 アルジェントの顔が引きつるのを見て、グリースは噴き出しそうになったがぐっと堪えた。
 噴き出したら多分顔面に氷の塊をぶつけられると。
「……なんでそう思ったのかな?」
「だってわたしまだけっこんできないし、おとーさんがおこるだろうし、おそとでちゃだめなのもおかしい」
「うんうん成程」
「ぐりーすおにいちゃんもゆうかいはんのなかま?」
「あ、それは違う、後後ろのお兄さんが可哀そうだから訂正しとくねルリちゃんにはちょっとつらいかもしれないけど、ルリちゃんは誘拐されてはいないんだよ」
 ルリは後ろを見たアルジェントが何とも言えない表情で立っている。
 ルリはアルジェントを指さしながらグリースを見る。
「あのひとたちがゆうかいしたんじゃないの?」
「残念ながら、ルリちゃんは誘拐されてはいないんだよ、詳しい説明はあのお兄ちゃんに聞いてね」
 グリースはそう言うと窓によっかかった。
「じゃあね、ルリちゃん、また明日」
 すぅとグリースの姿は消えた。

 ルリは窓の方をじっと見ていたが、しばらくしてアルジェントを見た。
「ゆうかいしたんじゃないの? おうちおかねそんなにおかねないよ」
「誘拐ではありません」
「だってわたしまだけっこんできないもん、おにいちゃんたちと……あのこわいひとがいってるのおかしいもん」
 本当に四歳児なら結婚は無理だろう、だがルリの実年齢は二十歳。
 親の許可もなく結婚できる年だ。
 アルジェントは悩みに悩んだ結果、嘘をつくことにした。
「……何事にも例外というものがございます」
「れいがい?」
「そう、決め事通りでは無理な場合にできることです、ルリ様は四歳ですが、選ばれて真祖様の花嫁になったのです」
「おかあさんとおとうさんは? はんたいしなかったの?」
「真祖様の花嫁に選ばれることはとても名誉で幸せなことなのです、反対なされませんでしたよ」
「……でもわたししあわせじゃないよ」
 言葉が詰まりそうになった。
 そうだ、盟約で花嫁になり、主の妻になり、自分たちがしてきたことが重なって精神が保てなくなり幼児退行してしまったのだ。
 未だに「こわいこと」、「こわいひと」という事やそれ以外の事が残っている、彼女からしたら「幸せ」ではないだろう。
「大丈夫です、これから幸せになりますから」
 何とか声を絞り出した。
 ルリは不安そうな顔でアルジェントを見つめていた。





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