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壊れゆく花嫁
私っていったい何?!
しおりを挟むルリは体を真祖の手らしき大きな手で掴まれ、ずるっと毛布から顔をださせられる。
目に入ったのは蒼白の肌。
ルリは怖くて、いままでのように声も上げられなくなっていた。
何処か冷たい肌の感触が怖い。
何を考えて、何をしようとしているのか分からなくて怖くて仕方がなかった。
ヴァイスはルリの肌に触れる。
吸血鬼にはないぬくもりのある肉体をなぞる。
柔らかな肌の下に流れる熱く甘美な血を味わいたい気持ちが沸き上がるがぐっとこらえる。
硬直したままのルリの顔を掴んで自分の方を見させる。
表情と目は恐怖に染まっている。
以前のように罵声も飛んでこない。
愛しい妻は自分の事を恐怖対象としか見ていないのが分かった。
頬を撫でる、びくりと怯えているかのように震えた。
あの忌々しい不死人にくれてやるくらいなら血肉全て喰らいつくしてしまおうとすら思った。
否。
やったところで死にはしない。
ただ痛みに絶叫し、それでも死なぬ体に絶望するだけだろう。
そしてきっと吸血鬼も、自分をここへ行かせた人間たちも憎むことだろう。
結果グリースへ縋り吸血鬼と人間たちの屍の山を、奴は築くだろう、憎悪を込めて。
二千年まえの戦争以上に。
かつての妻と息子をどうやって愛していたのか、もう思い出すことすらできない。
肖像画しか残ってない、それで思い出すしかない。
だが、そうしなくても思い出せるものは一つある。
妻と息子を奪われた時の憎悪、これだけは二千年経とうと風化しない。
今だにあの人間たちが憎くて仕方がない、盟約を結んだがそれでも隙あらば自分を葬ろうと目論んでいる人間政府の連中が気に食わない。
大人しく盟約に基づいてこの娘を差し出してきたが、いまだ油断できない。
そう思案してふとルリを見れば、ガタガタと震えていた。
怯え切った表情をしている。
どうすればこの妻の表情を良いものに変えれるか分からなかった。
世話役たちも警戒し、追い出し、近づけない様にしている。
グリースの前や、遠見で見た妻の家族、友人の前では花のような愛らしい笑顔を見せていた。
どうすればあれを見れるのかと思案する。
ルリはガタガタと真祖の腕の中で震えていた。
急に恐ろしい程の怒りを見せたり、それが無くなったり、何が起きるか分からなくて怖かった。
逃げ出したかった。
でも自分は裸でこのまま逃げるなんて恥ずかしくてできない。
そもそもこの部屋の出入り口が分からない。
――どうしよう、どうしよう――
裸にされて、向こうも裸になって、抱き寄せられて、冷たい肌の感触を感じながらルリは頭がぐちゃぐちゃになる。
真祖が何をしたいのかわからない、最初に来たときみたいな事をする気配もない。
でも真祖が怖くて仕方なかった、逃げたかった、こんな格好見られたくなかった。
色んな感情がぐちゃぐちゃになってルリは混乱状態に陥っていた。
ヴァイスはルリを見る。
完全に恐怖心が上限を突破しているのか、錯乱しそうな状態に陥っているのが分かった。
ここまで追いつめたのは、グリースの今までの言動から自分であると理解させられた。
黒い髪を優しく撫でてみるが、効果はない。
むしろ悪化して言っているのが目に見えて分かった。
グリースがしたように、額に口づけをしてみた。
わずかに反応が変わった。
顔を両手で包み、そっと口づけを落としていってやる。
そして血を吸ってない口で、柔らかな薄紅色の口にキスをする。
僅かに触れるキス、それをした後のルリの表情を見る。
とまどいの表情へと変化していた。
恐怖感情が少しばかり薄らいだことを安堵しながら、ヴァイスはルリを抱きしめた。
試しに体になぞってみるが、また表情がこわばったのを見て、触れるのを止めた。
また、口づけを繰り返した。
朝、ルリはいつの間にかまた自分のベッドで眠っていた。
ネグリジェ姿だった。
この間のような下腹部への違和感は全くなかった。
というかそう言う行為はされなかった。
裸でベッドの中でキスをされたり抱きしめられたりするだけだった。
着替えさせられたくないし、パンツが見えるような恰好も履くのもつけるのもためらうような高級な下着も嫌だったのでベッドから起き上がりさっさと実家にいた頃の恰好になる。
食欲はない。
入ってこないだろうと思って、ベッドの上でだらだらとスマホやゲームをやる。
「ルリちゃん、元気~~⁇」
グリースの声が以前のように窓の方から聞こえた、ルリは窓の方を見るとグリースが居た。
「あいつ無理やりしなかったみたいだね、良かった良かった」
「……何考えてるかわかんないから怖い」
ルリはグリースに対して正直な気持ちを話す。
「あいつ、二千年も人間への恨みばっか抱えてたから愛し方が分かんないんだよ」
「は?」
「言ったでしょ? 二千年前の戦争の発端になったのは人間があいつの嫁さんと息子殺したからだって」
「……」
グリースの言葉にルリは無言になる。
「最初ああいう行為をしたのと、城の外に出さないって言ってるのは、全部それが原因さ、外に興味を持たない位ルリちゃんを自分に依存させたいんだよ」
「は?」
グリースの言葉にルリは耳を疑った。
「い、ぞん?」
「性行為二回ともあれだったけど、痛くは無かっただろ?」
グリースの言葉の意味を認めたくはなかったが、その通りだった。
行為は非常に嫌だったが、気持ちは良かった。
「それとルリちゃんの性質、ひきこもりたいタイプだけど稀にうがーってお外出たいタイプでしょ?」
グリースの指摘が当たっているのでルリは何も言えなかった。
「あと、束縛されるのはあんまり好きじゃないでしょう? 甘えるのは好きだけど」
また当たっているので何も言えなかった。
「あいつの望むタイプとは違うから、あいつ的に無理やりにでも変えたかったんだろうね、自分に依存して、自分だけを愛して、自分だけを見る」
「……真祖怖いから無理」
ルリは声を絞り出して言う。
「ヴァイスの奴怖いなら、俺で試してみる?」
「へ?」
ルリがそう言うとグリースはルリをベッドに押し倒した。
「嫌って言ったらすぐ止めるから」
グリースはそう言って、ルリの額にキスをした。
服の中に手を入れてそっと触っていく。
グリースは混乱しているルリを見ながら優しくキスをし、愛撫をする。
「……っ」
初心な反応に心躍らせながら優しいタッチで愛撫を繰り返す。
声を押し殺しているのがいじらしくてかわいいと思いながらキスと愛撫を行っていると。
「奥方様に何をしている貴様」
ルリが声に我に返ると、鍵をしているはずなのに、何故かアルジェントが居た。
「何って君の主が怖いから俺が相手してあげてる――」
グリースの顔を守るようにかざした手に鋭い氷の刃が突き刺さる。
グリースの手から血が流れる。
「いってぇなぁ」
「今すぐ奥方様から離れろ」
アルジェントは表情と声に怒りを乗せて言っている。
グリースは肩をすくめながらルリから離れた。
「ルリちゃん、邪魔者が入らないところで続きをしようね」
グリースはそう言って姿を消したが、その直後グリースが居たところに氷の槍が出現した。
槍はすぐ消えたが、今まで表情を全く動かさなかったアルジェントが忌々し気に舌打ちをしているのにルリは少しばかり驚いた。
真祖とヴィオレに従う人形のように見えていたからだ。
ベッドの上でルリが呆然としているとアルジェントが近づいてきた。
ルリを押し倒した。
「?!」
アルジェントの行動が分からずルリは混乱する。
「奥方様、真祖様から許可は得ております。お相手なら私がいたしましょう」
「は?!」
アルジェントの発言は理解が全くできなかった。
真祖のことがますますわからなくなった。
グリースが触れた箇所を上書きするように触れてくる。
拒否するどうこうのレベルではなかった、混乱してそれどころではないのだ。
触れる感触は腫物に触れるような触れ方だった。
ただ、愛情とかは感じられない。
義務でやっている感じがして嫌だった。
「いらない! 離れて!」
ようやく拒否の言葉を絞り出すがアルジェントは離れてくれない。
ズボンに手をかけ脱がせようとしている。
「あの不死人にだけは体を許すことはあってはならないのです」
アルジェントは厳しい表情でいつもなら引き下がっているだろうルリの言葉を無視した。
ルリは自分の立場がますますわからなくなりただただ混乱した。
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