不死人になった私~壊れゆく不老不死の花嫁~

琴葉悠

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壊れゆく花嫁

この真祖、私を籠の鳥にしたいのか?!

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 真祖の城の広い部屋に連れてこられて、真祖に最終的にキスをされたルリ。
「ぎゃー!!」
 顔を真っ赤にし、色気のない悲鳴を上げて真祖の顔を無理やり離した。

――こんなファーストキスあるか普通?――

 ルリは自分自身に問いかける、答えは「ねぇよ」だった。
 ルリは正直自分の人生、あの事故が起きるまでは平凡か、ちょっと波乱があるかのどっちかだといいなぁと思ってたのだが、こんな大波乱になるとは予想もしていなかった。
 人類の未来は自分に託された、と言わんばかりの重大なポジションに突かされる羽目になるなんて誰が予想できただろうか。
 不死人になってなかったら、多分ちびってたとルリは思った。
 非常に恥ずかしい内容だが、この時ばかりは不死人になっていてよかったと思った。
 しかし問題はここからどうするかだ。
 逃げるという選択肢はない、魔法陣はないし、この建物の内部構造なんて全く分からない。
 相手はこの城の持ち主、確実に捕まる。
 諦めてもらうという選択肢はないと宣告された。
 ルリは正直どうすればいいのかわからなかった。
 何故ならこの結婚もとい婚姻はルリの意思を全て無視して進められたものだ。
 同じことを他の誰かがやったら顰蹙を買うどころではない。
 だが、顰蹙は買うことはない、むしろ多くの人が祝福するのだ。
 昔風に言えば、生贄を捧げるのと一緒だ。
 自分はまさに真祖に捧げられた「生贄」なのだ「不死人の女」と言う生贄なのだ。

――ふざけんな!!――
――何で私がこんな目に!!――

「わー!! 嫌だー!! 私まだ結婚したいなんて考えてないー!! そもそも私の意思はどこ行った?! ないぞそんなもん!? 政府とか役人連中が勝手に進めて、勝手に決めて!! うちの家族の将来安泰だからつべこべ言わず行けとかぬかすし!! 私納得してなーい!!」
 もう人類の未来とかいろんなことがどうでも良かった、この真祖格好いいが非常に怖いのだ。
 今すぐ実家に帰って風呂に入って布団にもぐって今までの事は全部夢だったというオチにしたい位追いつめられていた。
 真祖の腕の中でじたばたともがく。
 真祖は面食らった表情を浮かべてから何か納得したような顔をした。
「なるほど、お前は盟約も良くわからず人間の政府の者達に行けと言われてここに来たのか」
「じゃなきゃこねーよ!! 私ひきこもりだもん!! 用事なきゃ家からでねーよ!! できれば実家にこもってたいタイプだもん!!」
 口調も丁寧なものから素に戻ってルリは言う。
「そうか、だが安心するといい、今日からここがお前の家だ」
「ダメだー!! この真祖話通じねー!!」
 ルリは話がどうあがいても真祖は話が通じない、基返してくれないのが分かった。
 真祖はそんなルリを抱きしめたまま床に魔法陣を展開した。

 瞬きをすると部屋に移動していた。
 おいてあるもの、ぬいぐるみなど、全部自分の部屋や所有物だった。
 ただ、広い。
 かなり広い部屋だった。
 テレビとエアコン、ネット環境に必要なもの等、色々な物が完璧に配置されている広い部屋だ。
 ベッドも広く、天蓋付きのベッドだ。
「この部屋……」
「お前の部屋だ」
 ようやく真祖はルリを離した。
 ルリはそう言えば自分の私物関係全部先に持ってかれたんだったなと思い出した。
「今日はもう休むが良い」
 真祖はそう言って姿を消した。
 ルリははぁと深いため息をついてスマートフォンの電波が通じるか確認する。
 電波は通じる。
 実家に電話をかけた。
「……」
『はいこちら――』
「もしもしお母さん、私、ルリだけど」
『ルリ?! ルリなの?! 無事?!』
「あー……うん、一応無事」
『よかった……』
 母親の安堵の息が電話越しに伝わってくる。
「まぁ、こまめに電話するから心配しないで」
『うん、できるだけ電話して、凄く心配なの』
「はははー……」
 ルリは乾いた笑いを浮かべて通話を終了した。
 棚らしき箇所を見る、明らかに自分が用意したものじゃない服が入ってる。
 ルリはげんなりした表情を浮かべながら普段来ているパジャマを着てベッドに寝っ転がる。
 そしてスマートフォンで日課のアプリやゲームをやってから、きょろきょろと周囲を見る。
 枕の横にリモコンがあった、見る限り明かりを操作するものだと分かった。
 ルリはリモコンを操作し、部屋を暗くする。
「これからマジでどうなるの私……」
 ルリはそう言いながら、中々寝付けづベッドの中でうだうだと蠢いた。


 朝、目を覚ました。
「んー……吸血鬼の国でも朝は普通に来るのね」
「お早うございます奥方様」
「お早うございます」
「んぎゃ!!」
 布団から上半身起こして伸びようかなと思った時、部屋には見知らぬ紫の髪のメイド服を着た女と、同じく見知らぬ灰銀色の髪の青年が入ってきていた。
「あんた等誰?! 何者?!」
 ベッドの端っこによりながらルリは問う。
「私真祖様から奥方様のお世話を任されましたヴィオレと申します」
「私は人間ということで真祖様から貴方様の世話と相手を命じられました、アルジェントと申します」
「え、吸血鬼の国にも人間いるの?」
「おります、人間たちの中になじめなかった者が多めですが」
 紫の髪のメイド――ヴィオレは淡々と答えた。
「奥方様、お召し物を事前に拝見させていただきましたが、いけません。これらは奥方様に相応しくありません、いえ相応しい物もいくつかありましたが多くがふさわしくありません、服も下着も」
「ファッションセンスないんだよほっとけ! それと服は基本お母さんが選んだのしか着てなかったんだよ! 下着安売りで買ってるのしかつけてないだけだほっとけ」
「失礼ですが、奥方様のお母さまのセンスを疑わざる得ませんね。それとこれからは下着は真祖様の奥方様なのですからもっと品のあるものをお付けいただきます」
「ほっとけ!」
 ルリは心の底から余計なお世話だ、と思った。
 ヴィオレは服と下着を既に用意していた。
「あとその寝る時の服も違うのにしてください、真祖様の奥方様としてふさわしくありません」
 ヴィオレはにじり寄ってきて、アルジェントは何が起こるか分かっているのか後ろを向いている。
「うわー! なんか怖いからよるな来るなー!!」
「御覚悟を」
 ヴィオレに布団をはがれその上パジャマに手をかけられあっという間に素っ裸にされる。
「ギャー!!」
 ルリは色気のない悲鳴を上げた。
 どう見ても高級そうなパンツとブラジャーを付けられ、上に着るランジェリーと、ガータベルトを履かされる。
 高そうなストッキングを履かされ、服も自分が少し憧れがあるロリータやゴシックに近い感じの要素とセレブ的な要素を取り入れた、非常に高級そうな服を着せられる。
 そして顔を洗われ、化粧をされる。
 化粧はマスカラなどそういうのまで出そうとしてきたのだが、目があかないとか化粧嫌いとか色々駄々こねることで、みっちりメイクされるのをふせいだ。
 靴はヒールはそこまで高くないがこれもまた高級そうな靴だ、履き心地は悪くない。
「……お、お願いスパッツ履かせて、これこけたらパンツ丸見え……」
「ダメです」
 ルリのお願いをヴィオレは突っぱねた。
「後風が吹いたらパンツ見えるじゃん!」
「そのような風がふく場所はここにはありませんのでご安心ください」
「畜生!」
 スースーする不快感を感じながらルリは地団駄を踏んだ。
「では奥方様食事にしましょう、不死人は食事が不要と聞きますが、食事をしてないと気力が落ちやすいとのことですので三食きっちり食べていただきます」
 人の姿をしていない――妖精のような悪魔のような謎の存在達がワゴンに食事を乗せてやってきた。
 いつの間にか用意されているテーブルの上に並べていく。
 アルジェントがすっと椅子を引いた。
 ルリは少々イラつきながらも椅子に腰をかけた。
 ホテルの朝食のような物を見てぼつりと呟く。
「……朝ごはんはコメがいい」
 そう言いながらパンをほおばる。
 その言葉を聞いたらしいヴィオレが頭を下げた。
「申し訳ございません奥方様、こちらの都合に合わせすぎました。次回はなるべく奥方様が食べていらしたものに合わせるようにします」
「あーうん……普通のでいいよ……」
 サラダを口に入れ、やたらと生真面目に接してくるヴィオレにちょっと引きつつ答えた。
 高級料亭の料理が出されては困る、お母さんと兄貴の料理が食べたい、と心の中で思った。
 ルリが朝食を食べ終えると、さっきのよくわからない生き物たちが片付けて行った。
 ヴィオレは歯磨きの道具を持ってくるのでルリは歯を磨いた。
 歯を磨き終えると口紅を塗りなおされる。
 そして、ルリは考えた。
 どうやっても逃げられない、と。
「……この後私何すりゃいいの?」
「真祖様がお目覚めになるまでは基本自由にしていただいて結構です」
「え、じゃあ外」
「外に出るのだけは禁止されております」
「いやだー! 部屋の中じゃ息が詰まるー! お外ださせろー!」
「……ヴィオレ様、庭でしたらよろしいのでは」
 黙っていたアルジェントが口を開いた。
「そうですね、庭でよろしいのでしたら」
「じゃあ庭に案内して」
「アルジェント」
「はい」
 アルジェントとヴィオレがルリに近寄ってくる。
 アルジェントが指を鳴らすと足元に魔法陣が展開される。
 周囲が光ったと思うと其処は明るい太陽の下の花咲く庭園だった。
「すげー……ってヴィオレ日光」
「私は日光が平気なのでご心配なく」
 ルリは吸血鬼やっぱりヤバいと思いながら庭の中を歩いた。
 自分の住んでいる地域で見かける花もあるが、ほとんどが見たことのない植物ばかりだった。
「綺麗だけど……桜はないかぁ」
「サクラですか?」
「うん、私の住んでたところ桜の名所でね、春には綺麗に咲くんだー、それが見れないのが少し寂しい」
「わかりました、手配いたしましょう」
「え、いや、この庭には合わないよ」
「真祖様にお伝えしておきます」
「げ」
 ルリは嫌そうな顔をした。
「……ところで何で夜までは自由なの? 真祖と会って何かすることでもあるの?」
 ルリは嫌そうな顔をしてから気になっていたことをヴィオレに問うと、彼女は渋い顔をした。
 言いづらい、そんな顔だ。
「……人間的に言えば、夜伽直接的に言えば情事を真祖様が所望です」
 ルリの表情がこわばった。
「やっぱりあの真祖いやだー!!」
 ルリの絶叫が庭に木霊した。



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