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自己犠牲の強い『花嫁』

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「全く、奴らは何を考えていたんだ」

 一つの事件が終わり、探偵事務所に戻ってきた零は帽子を脱いで、コートも掛けて、不服そうにつぶやきながらソファーに座った。

「誘拐した人達を異形化させて街に放ってまた人を誘拐させてそれを繰り返そうとしたようですよ」
「マヨイがいなかったら危なかった……」
「そしてマヨイも危なかった」
「どういうことだ?」
「連中は異形化されかかっている人間を戻せるマヨイを危惧し、殺そうとしたが──」
「ジンと、ロナクが人間には攻撃しようとしないマヨイの代わりにそいつらを屠った」

 それを聞いた零ははぁとため息をつく。

「やれやれ、人間の信者がいたのはそういう訳か」
「今頃、エルの食料が増えたと喜んでいそうですがね」
「ああ、ジンって奴はエルに依存しているからな」
「確かに」

 ふぅと息を吐き出して、零は二階へと移動した。
 荒井がついて行く。

「どうした、零」
「……異形が憎い」
「そうか」
「何もできない自分も憎い」
「そんなことはねぇよ」
「何が異形の『花嫁』だ」
「零」

 荒井が零の手を掴む。

「自傷行為はすんな、お前は何も悪くないし、仕方ないことだ」
「私が生け贄になってれば起きなかった事件もあったんだぞ?」
「それはそれだ」

 荒井はカッターを仕舞い零が自傷行為をしないよう見つめていた。

「零、お前は自己犠牲が強すぎる」
「……」
「お前に何かあったらそれこそ大事件に発展する、我慢してくれ」
「分かっている、だから憎いんだ自分が」
「零」

 荒井はお茶を出した。
 冷たいお茶だったので、零は一気に飲み干した。

「っはぁ」

 空のコップを荒井は受け取り、仕舞う。

「本当は何もしないのがいいのだろう、お前達の所にいるのが一番いいのだろう。でもだめなんだ、犠牲者の方々を見てきたから。遺族の嘆きを見てきたから」
「零……」
「ああ、どうしようもならない、どうにもできない自分が忌々しい──」

「あれ?」

 零の視界がぐにゃりとゆがむ。

「なんだ、これ」

 零はそのままベッドに倒れ込んで目をつぶった。




「クラル特性の睡眠剤、本当即効性だな」

 慎次はそう呟くと、零をベッドの上にキチンと寝かせそのまま眠っている零の頬を撫でる。

「確かに、俺達の所にいてくれた方がいいんだ、その方が俺達も安心できる」

「でも、お前はそれができなくなっちまった。簡単だ、犠牲者と遺族に感情移入しちまったんだからな、それが人間ってもんだ」

「だから、お前の無理に俺は付き合ってやるよ、レオンも。ニルスの野郎はしらねぇが」

 そう言って薄紅の唇に指で触れる。

「誰もものにもならないお前が、少しはこっちを向いてくれることを俺は望む、高慢だろうがな」

 唇を重ね、そして終わると立ち上がり慎次はその場から姿を消した──






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