クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

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影使いの異形の子の過去~そして今~

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 赤い
 赤い
 これは血だ。
 騙され、救いを求めていた者達の血だ。
 俺が殺した──


「‼」

 慎次は目を覚ました。
 汗びっしょりになっており、シャワーを浴びに浴室へ向かう。
 シャワーを終え、体を拭いて、下着を履き部屋に戻ると──

「ヤッホー慎次、悪夢でも見た」

 フエがテーブルの上に寝そべっていた。

「ちっ、勘だけは鋭いなテメェは」

 慎次は舌打ちした。
 フエはにんまりとした笑いから慈悲深い笑みに変えた。

「慎次、貴方は優しいわね、まだあの事件の事を気にしているの?」
「当たり前だ、俺は、死にたくないと言っていた連中を殺しちまったんだぞ」
「んー慎次にはいってなかったんだけどね」
「なんだ」
「あの信者達、どちみち死ぬの確定してたんだよね」
「なっ……」

 フエからの予想もしない発言に慎次はフエの胸ぐらを掴んだ。

「どういうことだ⁈」
「あの信者達、異形の種を飢えられていたからどうしようもできなかったんだよね。マヨイはまだ生まれて間もないし、クラル今は此処にいるけど、呼び出してももう発芽してて死ぬしかなかったのよ」
「……だが俺は、助けてくれとすがった連中を殺したんだぞ‼」
「仕方ないじゃない、その頃アンタの精神は安定してなかった、起こるべくして起こっていたのよ」
「だが……!」
「今はもう、マヨイがいるし、アンタの精神も安定してるし、大丈夫でしょう」

 フエは再びいつものような口調に戻り、言った。

「ああ、そうそう」
「何だ」
「零さんの護衛はしっかりね、零さん第一でお願い」
「……分かった」

 フエの言葉に、慎次はそう返すしかなかった。




「零、お前は何でこう厄介毎に首を突っ込む」
「異形案件は見過ごせない、すまんな」

 追ってくる目玉が無数にあり、手が複数ある異形から逃げながら零と慎次は逃げていた。

「荒井、お前はそっちに行け、私が引きつける」
「馬鹿を言うなお前はそのまま走れ!」
「だが……」
「俺がフエに殺される! さぁ、行け!」
「分かった」

 フエの名前を出した直後効果てきめんだったのか、零は更に速度を上げて逃げていった。

「よし、離れたな」

 それを確認すると、慎次は手を伸ばし口を開いた。

「こい、シャドウ」

 影が広がり、無数の手が異形を包み込み、飲み込んでいく。
 異形は耳障りな声を上げながら影に飲まれて消えた。

「……もう出て来ていいぞ」
「……終わったか」

 零は通路の角から出て来て、慎次に近づく。
 すると慎次の拳骨が零に飛んだ。

「所長、俺はお前に逃げろって言ったよな、なのに何で隠れてるんだよ」
「一応、フエからの紹介だから異形の子だろう? だから能力を見ておきたかったんだ」
「……」
「部下の能力把握も所長の務め、だろう?」
「……馬鹿すぎて言葉がでん」
「失礼な」

 慎次は零の額を小突いた。

「いいか、お前に何かあったらフエから直々に仕置きが来るのは俺なんだ、そこら辺はわかるだろう」
「わかるが……」
「なら、さっさと帰るぞ、もう異形の気配は何処にもないしな」
「……」
「そして飯にする、買い物するぞ」
「牛乳プリンが食べたい」
「買ってやるから、ちゃんと他のも食えよ」
「分かった」

 そうして慎次は零の手をつないでその場を後にした。




「わーお、これはレオンとクロードに続き、慎次も零さん狙いになりつつあるかなー」
 とあるビルの屋上からフエが二人を愉快そうに見つめる。
「まぁ、零さんが選ばないから可哀想だけどしかたないよね、今回の『花嫁』さんはつれないんだなぁ、これが」
 そう言ってフエは姿を消した──





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