89 / 238
変わりつつあること~「花嫁」の周辺で~
しおりを挟む「あー疲れた」
フエは住処の自分の部屋に戻った。
「フエ……!」
「柊さん、ただいま」
抱きついてきた柊を抱きしめ返した。
「最近ないがしろにされているようで、怖かったんだ……」
「ごめんねー仕事が立て込んでて、そっち優先にしないと善良な人が死にまくる事態に陥ったりする案件があったから」
「うん、分かってる。そういう事をしているのは」
「ありがとう」
柊の言葉にフエは笑った。
「それはそれとして、だ」
「何?」
「『花嫁』の世話に手を焼いていたんじゃないか?」
「残念、慎次が全部やってくれてるから私は最低限の事しかしてないよー! 異形関係とか!」
「慎次?」
明らかに男の名前であることにぴくりと柊が反応する。
「ああ、封印されてた異形の子でね、もう封印してるとかいってらんねー! って状態だから封印解除して『花嫁』さんの護衛を任せてるの」
「……大丈夫なのか、封印されていたと言うことは問題があったということだろう?」
「おやまぁ『花嫁』さんの心配をするとは珍しい」
柊の言葉にフエは目を丸くする。
「『花嫁』に何かあったら君は傷つく……」
「柊さんに何かあってもよ、だからここから出るときは一緒でしょう?」
「ああ……」
「ごめんね、どちらかを選べなくて」
「……浮気者」
柊は不服そうにぽつりと呟いた。
それを聞いたフエは苦笑いを浮かべた。
「慎次──零さんはどうしてる?」
深夜、住処に戻って来た慎次にフエは問いかける。
「眠った、連日の異形事件の所為でぐっすりだ」
「じゃあ私ちょっと様子みてくるね」
「起こすなよ」
「分かってるって」
そう言って慎次に言うと、フエはその場から姿を消した。
慎次は深いため息をつく。
そして手を見て握りしめる。
「……暴走はしてねぇな」
『あら、慎次さん』
「ロナか……」
『深夜までお疲れ様です』
「お前こそ、深夜まで起きてるなんて珍しいな」
慎次がそういうと、ロナから困ったような息を吐き出す音が聞こえた。
「……ロナクか」
『ええ、あの子また異形集団と悪人がいるからってジンさんと乗り込んで無断でやらかしたからフエ姉さんの助言もあって、ジンさんはしばらく外出禁止、ロナクは封印ということになったの』
『ねーちゃん、ごめなさーい! だから出してー!』
遠くからロナクの悲痛な叫び声が聞こえている。
「ロナクの野郎、マシになったかと思えば変わらないな」
『ええ……慎次さんは変わりましたね』
「なに?」
『こう雰囲気が柔らかくなったように思えるんです、これも「花嫁」のおかげですかね?』
「さぁな、というか彼奴は『花嫁』の自覚があるのか? 危ない事にばかり首を突っ込んで……」
『自覚があるから突っ込むらしいですよ、フエ姉さんいわく』
「厄介な奴だ……」
『ふふ、そう言ってるわりには穏やかな表情ですよ、慎次さん』
「……ふん、言ってろ」
慎次はそう言って自分の部屋に戻った。
用意していた食事を温めて、口にし、そしてシャワーを浴びて、体を拭き髪を乾かし、寝間着に着替えてベッドに横になる。
「……本当、変わった『花嫁』だよ、お前は……」
そう言って眠りに落ちた──
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる