クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

文字の大きさ
上 下
84 / 238

己を責める「花嫁」~異形の子等の限界~

しおりを挟む



「腰が痛い」
「自業自得です」
「う!」

 ベッドに横になりながら零は疲れた声で言った。
 それにフエとマヨイが言い返す。

「ペンダント外すなんて自殺行為したんだからあのお説教は当然です」
「だが……」
「女の子達の件はどうしようも無かった、私達異形の子達だって全部を見ている訳じゃない」
「お前の『夢』なのにか?」
「私の『夢』だからこそよ」

 フエは言い切った。

「『夢』だからどんな『夢』になるのか分からない、どんな異形が現れるのか分からない、だから『夢』なのよ」
「……あの異形が居なかったら彼女らは……」
「はいはい、確かに異形の子を身ごもった、私達異形の子等とは違う異形の子を。異形を身ごもった、だからマヨイの手で異形を殺して記憶も消して無かったことにした」
「う」
「それが精一杯だった、それが限度だった」
「……万能ではないんだな」

 零は疲れたように言った。

「どこで、いつ、なにがおこるか全部把握できてるなら私は対応できるわよ。でもそれができないから万能じゃないの」
「今回の事件を持ち込んできたのはニルスだったな……」
「あの野郎、私と違って全部把握してるのに教えないから腹立つのよ、私が主人だっつーのに、あの異形」

 フエは忌々しげに吐き捨てた。

「ニルスを一度締めるか……」
「それはやった」
「やったのか?」
「そしたらなんて言ったと思う?」
「?」

 フエは忌々しそうな顔をした。

「『彼女等は、自分の体を売っていた、だから目をつけられたのだよ』って体売らなきゃ生きてけない少女達に責任転嫁しやがった!」
「……」
「少女達はみんな孤児院に保護して大学出るまでそういうのもうしなくていいってなったら泣いてたよ。もっと早くに此処に来たかったって」
「だろうな……」

 良い家庭環境にある子ほど異形は目をつけない。
 劣悪な環境にある子ほど異形は目をつける。

 居なくなっても誰も気にしないからだ。

 だから劣悪な地域で異形達は我が物顔をしたがるが──
 異形の子等がそうはさせない。

 だから、異形達は身を潜めて、機会をうかがっているのだ。


「劣悪な環境、自分以外が贔屓される環境、良くない環境があるか切り、異形達は人間につけいっていくだろう」
「……」

 零は疲れた声のまま、嘆くように言った。
 フエは黙って聞いている。

「まさに人間の業だな」
「そんなことないよ!」
「いや、人間は罪深い存在だ、誰も彼もが無意識に罪を犯している」
「……」
「私だってそうだ、彼女達を守ることができたかもしれないのにできなかった。これを罪と言わずなんといえばいい」
「罪なんかじゃないよ」

 フエは泣きそうな声で言う。

「確かに人間は罪深いかもしれない、でも零さんは自分の身を削ってまで人々を助けようとしている。だからこれ以上無理しないで私達を頼って」
「頼っているさ」
「もっと、もっと頼って!」
「う!」
「……」

 フエとマヨイの言葉に零は無言になった。

「ニルスだって、使いようによっては上手く使えるはず、だから零さんは私達を使いこなして、頼って」
「……分かった」

 零はそう言って目を閉じた。
 しばらくすると静かな寝息が聞こえ始めた。

「零さん、ごめんね。そんなに自分を責めると思わなかったの……」
「うん、零さん、じぶんのこと、せめすぎ」
「だから、これ以上責めないで……」

 そう言ってフエは零の額にキスをした──





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

処理中です...