クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

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傷を負う「花嫁」~報復を~

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「この浮気者!」
「五月蠅いそっちだって浮気しているじゃないか」
「アンタの方が年数ながいじゃない!」
「そっちも長いじゃないか!」
「あの、喧嘩をするなら外──」

 ガツーン‼ ガチャン‼

 夫婦らしき人物達が投げた物が零の頭に当たり、零は昏倒した。

「所長⁈ 所長⁈」
「ニルス、その二人を追い出せ!」
「了解したとも」
「所長、しっかりして下さい」
「……いてぇ」
 零は起き上がり、頭部から血をだくだくと流していた。

「キャー!」
「病院に連れて行くぞ!」
「いや、救急車よ!」
「この際どっちでもいい!」




「……零さん、災難だったね」
 自室のベッドので横になっている零に、フエがため息をついていった。
「まぁな。たまによくある」
「たまになのか、よくあることなのかどっちなの?」
「探偵事務所としてはよくあることで、私が出て来たときにあるのはたまにだ」
「なるほど、それならたまによくあるだわ」
 フエはため息をつく。
「その夫婦に異形けしかけようか?」
「被害届けを出してるからいい」
「そう?」
「異形の被害者は見たくない」
 零はそう言って目を閉じた。
 すぅすぅと眠り始める。

「うー、被害届けだしただけで終わらせるのはちょっとむかー」

 フエはじたばたしはじめる。

「仕方ない、今回は大人しくしている……」
「フエ!」

 帰ろうとするフエを二階に上がってきたレオンが呼び止める。

「何、レオン?」

 フエはおっくうそうに言う。

「ニルスの野郎がやらかした!」
「はぁ?」

 今度はすっとんきょうな声を上げた。




「──夫婦は全治二ヶ月の重傷、ついでに何か見たから発狂して鍵付きの部屋に閉じ込められていると……」

 自分達の住処に帰り、レオンから貰った情報を見て、フエはため息をつく。

「これ、ニルスに二人を追い出させた零さんの凡ミスだわな」

 そう言ってフエは、ため息をつく。
 レオンも額に手を当てている。

「そう、ですね。追い出すように言ったのは零だ」
「そうなのよねー、なんで……あ、陶器頭に投げつけられて意識朦朧としてたからか!」
「大丈夫だったの?」
「ああ、医者は心配はないと診断をくだした。何針か縫うことになったがな」
「うー零さん、かわいそう」

 マヨイがどこかに行こうとするのをフエが止める。

「マヨイストーップ」
「どうして?」
「何でもかんでもマヨイので直しちゃうと零さん体余計大事にしなくなるからしばらくは安静にしてもらおう」
「うー……わかった」
「いい子いい子」

 フエはマヨイを撫でる。
 マヨイは嬉しそうに笑った。

「レオンは今すぐ戻って零さんの警護をいい?」
「わかりました」

 レオンはそう言って姿を消した。

「全くニルスの野郎、好き勝手にしやがって、これだからああいう愉快犯的な異形は嫌なんだよ」
「ロナク」

 フエがロナクをジト目で見つめる。
 複数の子等もジト目で見つめる。

「それ、アンタが言える?」
「ふ、フエも言えるのか⁈」
「私は愉快犯的に見えて考えてやってる」
「じゃ、じゃあ俺だって」
「アンタのは完全愉快犯なのよ!」

 フエの一言に、ロナがしくしくと泣き始める。

『ロナクはどうしてこうなのでしょう? 私の教育が悪かったから?』
「いや違う、ロナ、こいつ生まれた時から根性曲がってる」
「わー止めろー! 姉ちゃんに追い打ちかけるなー! それと姉ちゃんごめんなさいー!」

 ロナクはロナに土下座して謝罪しはじめた。



「ニルス、何をしている」

 フエの顔に触れているニルスの行動を制止するようにレオンが声を発する。
 ニルスは行動をやめて零から離れた。

「何、慈しんでみようかと」
「貴様のはただ傷つけるだけだ」
「それは君の方だろう?」
「‼」

 レオンは言葉を無くす。

「君ら、異形の子らは甘すぎる。だから『花嫁』を失ってきた」
「……」
「私なら──」
「私なら、なんだって?」

 フエが現れる。
 その顔色は怒りに満ちていた。

「これはこれは、我が主・・・
「私は余計な事すんなって言ってるよね、いつも」
「申し訳ありません、ですがあの二人は逆恨みをして我らが『花嫁』の命を狙おうと考えていたので」
「……」
「身勝手な人間は何処までも身勝手なのね」

 フエは吐き捨てるように言う。

「今回の事は不問にしてあげる、同じ案件があるなら私に言うように」
「勿論です」

 そう言ってニルスは消えた。

「フエ、いいのか」
「いいのよ、今は彼奴は世界を壊す行動はとれない、私がだからね」

 フエはそう言ってため息をついた。

「全く厄介な奴作ってくれやがって、私の親父は。まぁそれ喰っちゃった私がいうのもあれだけどねー」

 フエはそう言って零にのぞき込み、傷跡らしき場所を撫でた。

「守ってあげる、私達の『花嫁』だから無理しないで──」

 フエのどこか辛そうな言葉、レオンは黙って聞いていた──




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