64 / 238
スイッチ~それは唐突に~
しおりを挟むその日、フエはキッチンに立ちずっと料理をしていた。
脇目も振らず、ふたすら、食材を刻み、泡立て、煮込み……等を繰り返していた。
料理ができる度に紅や、マヨイ達に運ばれ、異形の子等は舌鼓を打っていた。
「な、なぁ康陽」
「どうした柊」
「フエがずっと料理しているんだ、話しかけても反応しないんだ」
柊は不安そうに、康陽に話しかけた。
「あーそれ不定期発作みたいなもんだから」
「ふ、不定期発作?」
答えが分からない康陽の変わりに蓮が答える。
「フエ姉さん、食材がどっさり入るとたまにスイッチ入るのか、料理に没頭することがあるのよ」
「ど、どれくらい?」
「食材が無くなるまでかなぁ……」
そう言って食材の山を見る。
「……当分このままだと思うよ」
「蓮おねえちゃん、零さんつれてきたよ」
りらがそういうと、蓮と康陽は立ち上がった。
「忙しい中済まないな」
「お忙しい中済みません」
「いやいい、またフエの料理発作だろう?」
「その通りで」
「フエの料理は美味いからな、文句はないさ」
零は椅子に腰掛けた。
「ほら、柊さんも立ってないで料理食べましょう」
「あ、ああ」
異形の子と番い、そして「花嫁」を交えた食事会が始まった。
特に食べていたのは大食の紅だった。
そして意外に食べていたのはエルだった。
人の肉など一切使っていないのに。
「フエお姉ちゃんのお料理美味しい!」
「だとさ、フエ」
「……」
フエは反応することなく黙々と調理を続けていた。
「フエお姉ちゃん、反応しないね」
「スイッチが切れるまで放置だ、さぁ、食べよう」
「うん!」
紅とエルは食べ始める。
「私もこの位料理ができるようにならねば……!」
美味しそうに食べているエルを見て、ジンは一人決意をあらたにしていた。
「あー疲れた」
食材が無くなり、調理スイッチが切れたフエが食堂へやって来た。
「まだ残ってるが食べるか?」
「ううん、いい。食欲わかないし」
紅の問いかけに、どこかげんなりした顔でフエは答えた。
「しかしお前の料理は美味いな」
「あ、零さん。来てくれてたんだ! そう言ってくれて嬉しい!」
ゆっくりと茶を飲んでいる零に、フエは笑いかける。
「……」
「ど、どうしたの柊さん」
「お前が自分の事を無視して調理しつづけたのが不服なんだと」
「あーごめんねー。スイッチ入っちゃうと誰の声も聞こえなくなるの」
柊にフエは謝罪するが、柊はむくれたままだ。
「フエは私の番いなのに……」
「本当にごめんねー」
そう言ってフエは柊に抱きつく。
「……ずるい」
「ずるいのは知ってるでしょう?」
「むぅ……」
柊はフエを抱きしめ返した。
「後で、たっぷり甘やかしてあげるから」
「わかった……」
フエの言葉に柊はうっとりとした表情で頷いた。
「思った事言っていいか?」
零が柊を連れて自室に戻るフエを眺めて口を開く。
「どうした?」
紅が問いかける。
「破れ鍋に綴じ蓋という言葉があるが、あの二人とかマヨイと隼斗にぴったりだと思った」
「それはいわんでやれ……」
「そうそう……」
調理された料理が運ばれている最中、マヨイと隼斗は食べさせたあいっこしていたし、柊は調理しているフエをずっと眺めていた。
特に隼斗はマヨイに依存して食べさせて貰っていた。
「……大丈夫か?」
「大丈夫だろう」
「うん、そう思う」
「そうか、じゃあ帰るから案内頼む」
「分かった」
紅が零を送っていった。
「……あの二人仲良いけどくっつかないんだよね『花嫁』だから惹かれてるのに紅姉さん」
「それを言ったらレオンもだろう」
「だねー」
食堂を後にし、蓮と康陽は手をつなぎ合って自室に戻った──
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
異世界でひっそりと暮らしたいのに次々と巻き込まれるのですが?
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
旧名「異世界でひっそりと暮らしたいのですが」
俺──柊 秋人は交通事故で死んでしまった。
気付き目を開けると、目の前には自称女神様を名乗る神様がいた。そんな女神様は俺を転生させてくれた。
俺の転生する世界、そこは剣と魔法が飛び交うファンタジー世界!
その転生先はなんと、色鮮やかな花々が咲き乱れる楽園──ではなかった。
神に見放され、英雄や勇者すら帰ることはないとされる土地、その名は世界最凶最難関ダンジョン『死を呼ぶ終焉の森』。
転生から1年経った俺は、その森の暮らしに適応していた。
そして、転生してから世界を観てないので、森を出た俺は家を建ててひっそりと暮らすも次々と巻き込まれることに──……!?

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています
ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら
目の前に神様がいて、
剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに!
魔法のチート能力をもらったものの、
いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、
魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ!
そんなピンチを救ってくれたのは
イケメン冒険者3人組。
その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに!
日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる