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スイッチ~それは唐突に~
しおりを挟むその日、フエはキッチンに立ちずっと料理をしていた。
脇目も振らず、ふたすら、食材を刻み、泡立て、煮込み……等を繰り返していた。
料理ができる度に紅や、マヨイ達に運ばれ、異形の子等は舌鼓を打っていた。
「な、なぁ康陽」
「どうした柊」
「フエがずっと料理しているんだ、話しかけても反応しないんだ」
柊は不安そうに、康陽に話しかけた。
「あーそれ不定期発作みたいなもんだから」
「ふ、不定期発作?」
答えが分からない康陽の変わりに蓮が答える。
「フエ姉さん、食材がどっさり入るとたまにスイッチ入るのか、料理に没頭することがあるのよ」
「ど、どれくらい?」
「食材が無くなるまでかなぁ……」
そう言って食材の山を見る。
「……当分このままだと思うよ」
「蓮おねえちゃん、零さんつれてきたよ」
りらがそういうと、蓮と康陽は立ち上がった。
「忙しい中済まないな」
「お忙しい中済みません」
「いやいい、またフエの料理発作だろう?」
「その通りで」
「フエの料理は美味いからな、文句はないさ」
零は椅子に腰掛けた。
「ほら、柊さんも立ってないで料理食べましょう」
「あ、ああ」
異形の子と番い、そして「花嫁」を交えた食事会が始まった。
特に食べていたのは大食の紅だった。
そして意外に食べていたのはエルだった。
人の肉など一切使っていないのに。
「フエお姉ちゃんのお料理美味しい!」
「だとさ、フエ」
「……」
フエは反応することなく黙々と調理を続けていた。
「フエお姉ちゃん、反応しないね」
「スイッチが切れるまで放置だ、さぁ、食べよう」
「うん!」
紅とエルは食べ始める。
「私もこの位料理ができるようにならねば……!」
美味しそうに食べているエルを見て、ジンは一人決意をあらたにしていた。
「あー疲れた」
食材が無くなり、調理スイッチが切れたフエが食堂へやって来た。
「まだ残ってるが食べるか?」
「ううん、いい。食欲わかないし」
紅の問いかけに、どこかげんなりした顔でフエは答えた。
「しかしお前の料理は美味いな」
「あ、零さん。来てくれてたんだ! そう言ってくれて嬉しい!」
ゆっくりと茶を飲んでいる零に、フエは笑いかける。
「……」
「ど、どうしたの柊さん」
「お前が自分の事を無視して調理しつづけたのが不服なんだと」
「あーごめんねー。スイッチ入っちゃうと誰の声も聞こえなくなるの」
柊にフエは謝罪するが、柊はむくれたままだ。
「フエは私の番いなのに……」
「本当にごめんねー」
そう言ってフエは柊に抱きつく。
「……ずるい」
「ずるいのは知ってるでしょう?」
「むぅ……」
柊はフエを抱きしめ返した。
「後で、たっぷり甘やかしてあげるから」
「わかった……」
フエの言葉に柊はうっとりとした表情で頷いた。
「思った事言っていいか?」
零が柊を連れて自室に戻るフエを眺めて口を開く。
「どうした?」
紅が問いかける。
「破れ鍋に綴じ蓋という言葉があるが、あの二人とかマヨイと隼斗にぴったりだと思った」
「それはいわんでやれ……」
「そうそう……」
調理された料理が運ばれている最中、マヨイと隼斗は食べさせたあいっこしていたし、柊は調理しているフエをずっと眺めていた。
特に隼斗はマヨイに依存して食べさせて貰っていた。
「……大丈夫か?」
「大丈夫だろう」
「うん、そう思う」
「そうか、じゃあ帰るから案内頼む」
「分かった」
紅が零を送っていった。
「……あの二人仲良いけどくっつかないんだよね『花嫁』だから惹かれてるのに紅姉さん」
「それを言ったらレオンもだろう」
「だねー」
食堂を後にし、蓮と康陽は手をつなぎ合って自室に戻った──
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