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異形と異形の子~遠い過去の思い出~
しおりを挟む「なぁ、フエ」
「なぁに零さん」
珍しくソファでくつろいでいる零が、フエに話しかける。
「エイリアンって居るのか?」
その言葉にフエはきょとんとする。
「まぁ、異形扱いしてるけどエイリアンという名称のに相当するのはいるよ」
「そうか……」
「何? エイリアンに誘拐されたとか依頼が入ったの?」
「いやなに、さっきテレビでUFOの特集とかが組まれててな」
「あー……」
「何か知ってるのか?」
「多分、一部にマヨイの父親が映ってる可能性がある?」
「は?」
フエの言葉に、零は耳を疑った。
「マヨイの父親はUFO型なのか?」
「嫌、光体ならマヨイの父親が空を移動している可能性なのに近い。あのお父さん姿色々変えられるから」
「……」
「マヨイのお父さんは珍しい異形だからね、人間に見返りを求めず治療する異形だし」
「ただしその存在は表だってはいけない、か」
「そうそう、だからマヨイが受け継いだ神社もひっそりと、祭りの時だけ名無しの神様を奉るという名目でやるの」
「面倒だな」
「今もマヨイのお父さんは、マヨイのお母さんと一緒に各地を転々としながら不治の病とか治療したりしなかったりしてるよ」
「そうか……」
「まぁ、あのお父さん、気分屋なところあるしね。お母さんには勝てないけど」
「惚れた弱みか?」
「うん、そう」
「マシな異形もいるものだな……」
「レアだけどね」
「異形の子はほとんどがこちらの味方か」
「全員が味方だね、でも異形性に飲み込まれて死んじゃう子もいる」
「……そうか」
フエの言葉に零はなんとも言えない顔をする。
「そんな顔しないでよ!」
フエはケラケラと笑った。
「異形の子なんてそんなものよ」
「……」
「前行った場所があるでしょう、恨み姫の丘」
「ああ、あの丘か」
「あそこに一本だけ咲いている桜がなれの果てって話したよね」
「……ああ」
零は思い出していた。
とある女性から依頼を受け、嫁いだ姉から連絡が来なくなったから姉の安否を知りたいと言われ嫁いだとされる村に行った。
そしてそこで、生け贄にされそうなのがその女性と気づき、女性を連れて脱出。
追ってくる村人から逃げようとした際マヨイに、丘の木の所に行くよう言われ、木の所に行くと、追ってきた村人達が地面に飲み込まれ、死亡した。
そして朝、その場を離れ、荷物を持って女性と帰還したのだ。
「彼女は自分の異形性に苦しんだ、苦しみ抜いて、あの場所で木になることにした」
「それを村人はみちゃったんだろうね」
「女が怨嗟ともとれるうめき声を上げながら木になるんだもの」
「そこからどう解釈したかは知らないけど、あそこに生け贄として女性を埋める風習ができてしまった」
「マヨイは意識が残っている木になった彼女に全てを伝えて村人を喰わせた」
「意識が残っている、だと?」
フエの言葉に零は問いかける。
フエは微笑みながら頷く。
「そうだよ、完全に意識は消えてない。眠っているだけ」
零の問いかけにフエはそう言った。
「だから、一時的に起こして、それで助けたんだ、『花嫁』は大事だからね」
「あんな姿になってまでもか」
「そう」
「彼女の名前は?」
「さくら、だから桜の木になったの」
「そうか……」
「どうしたの?」
フエが首をかしげる。
「いや、助けて貰った礼を言いたいが、起こすのもな」
「分かった、なるべく起きないように伝えておくね」
「助かる」
フエは居なくなった。
「──だってさ『花嫁』さんありがとうって、さくら」
村人が寄りつかなくなった丘の木に話しかける。
「村人の所為で罪悪感に苛まれてたのに助かってよかったね」
「これでここの村人はもう女性を埋めることはしないだろうし」
フエが木に額を当て話していると、はらりと白い花びらが散った。
フエが顔を上げると白い桜の花が満開に咲いていた。
「お礼? わかった」
フエはカメラで写真を撮った。
真っ白で幻想的な桜の花が満開の木の写真を。
「で、これがその写真」
「すごいな、真っ白だ」
写真を見て零は驚きの声を上げる。
「零さんへ気持ちらしいよ」
「そうか」
「真っ白で無垢な気持ちのように見えるよ」
「そう、純粋な気持ちで咲いたんだよ」
フエはそう言って写真に目を落とす。
「零さん、貰ってくれる?」
「ああ、勿論だとも」
零は写真立てを出し、写真を飾った。
「綺麗だからな」
「そう、綺麗なの、あの子とっても綺麗なの」
フエは少し泣きそうな声で言った。
それはおそらく、遠い昔、まださくらが異形の子だった時を思い出しての事だろうと、零は思った──
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