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私達の「花嫁」~守ってあげる永遠に~
しおりを挟む「守ってあげる、私達の『花嫁』」
零は異形の群れから逃げていた。
足も疲れ速度も落ちてきている。
時折フエから貰った、異形避けの丸薬をばらまいて距離を開けるがじりじりと迫ってきていた。
しかし、今の零には叫ぶ事が出来ない。
声を封じられたのだ。
町から生け贄として誘拐された女性達を救う為、自分が囮になったのはいいものの、その際魔術で声を出せなくさせられたのだ。
──くそ、どうすればいい!──
そう考えていると──
「守ってあげる、私達の『花嫁』」
そう声が響いた。
異形はおびえたような声を出し逃げ出した。
「逃がさない」
耳障りな悲鳴らしき鳴き声が零の耳に届いた。
零は、はっはと呼吸を整える。
「んもー! 零さん、声が出せなくても私達を呼ぼうとすれば来るって行ったでしょう?」
そう言ってフエはマヨイに指で支持を送る。
「う゛!」
マヨイはこくんと頷き、零にキスをした。
しばらくキスをしていると、舌で不気味な生き物を捕りだし、ひょいっとフエに投げた。
「マヨイナイス、術で召喚して喉に張り付いて声を出せなくする生き物ね、普通の手術とかじゃとれないヤバい代物ね」
「わたしなら、できるの」
「そう、マヨイならね偉い偉い」
「その組織を潰すことができ──」
「あ、潰してきたわよ」
「……早いな」
「だからさ、もっと頼ってよ私達の『花嫁』さん」
「……」
「私達に番いはいるけれども、貴方は別次元の存在」
「うー……」
「守ってあげる、私達の『花嫁』」
「……なら今日は休ませてくれ、走りすぎて疲れて足が痛いんだ……」
「うん、分かった。その代わり体調が良くなるまでちゃんと休んでね」
「ああ」
「マヨイ、先に帰ってて、私は零さんを送ってくるから」
「あい!」
「よしよし、マヨイは物わかりがよくて助かるわ」
フエはそう言って零を抱きかかえてその場から姿を消した。
それを見送ってマヨイも姿を消した。
寝間着に着替え、ベッドに横になった零の看病をフエはしていた。
「足にマヨイ印の塗り薬塗ったからもう痛くないでしょう?」
「ああ」
「でも、あんまり無理しちゃ駄目よ、貴方は私達の大切な『花嫁』なんだから」
そう言ってフエは姿を消した。
「『花嫁』か……」
零は一人呟いた。
零は生まれてすぐ孤児院に捨てられていた、平坂孤児院という孤児院に零という名前だけ残して。
後に知ったことだが、そこは異形から子どもを守る施設であることが発覚した。
職員に異形の子等がおり、零が「花嫁」だと分かると、他の子よりも狙われる恐れがある、送り迎えは卒院するまで行うと。
その通り、零は送り迎えをされていた。
そのため、他の子どもから浮いたが、体のこともあり、浮いてて正解だった。
中性的な体に女性器だけのからだ。
男とも女ともとれない体にある孕む器官。
どうしてこんな体なのか零は悩んだが、諦めることでその悩みを消した。
そして警察官になり、異形の事件と遭遇した。
そこで出会ったのがフエだった。
『初めまして「花嫁」さん!』
凄惨な状況で無邪気に笑う彼女を恐ろしいと思わず、何故こんな子どもが?
と戸惑いを覚えた。
『さすが「花嫁」さん、異形の子を見ても戸惑うだけなんてすごいわ!』
『異形の子?』
そして零は異形の子と異形についての事を知り、また「花嫁」についても知り──警察官を辞めて、探偵になった。
探偵としての技能も持っていたし、何より警察をやっていると立場に縛られ動けないからだった。
異形の事件を一つでも減らして、犠牲者を亡くしたい。
それが零が探偵になった理由だった。
ただそれだけでは食べていけない為、普通の依頼も受けている。
普通の依頼は警察官時代後輩だった高嶺と伊賀に任せている。
そして受付はアルバイトの瑞樹に任せている。
父を異形の事件で亡くし、母が病に倒れた彼女はバイトの時良く働いてくれている。
そして異形の事件の時、魔術に覚えがあるというレオンと、とある事件で知り合った異形──ニルスを雇うことで解決している。
ニルスを雇うのは自殺行為だとレオンに言われたが、手元に置かねば被害が拡大すると言うと渋々納得してくれた。
零は花嫁がある種の不老不死であることを理解していた。
異形の子を宿し産む為に、私はこんな体なのだなと他人事のように思うようにもなった。
「私達の『花嫁』無理はしてないか?」
「してない、二日も休んでいる」
紅がやってきて、零の様子を見に来た。
「そうか、それならいい」
「──私達の『花嫁』貴方が生き続ける限り守り通そう」
紅はそう言って立ち去った。
「『花嫁』か」
「だから利用するんだ、お前達を、そんな私を軽蔑するか?」
『ううん、軽蔑しないよ。寧ろ利用して!』
フエの声が頭に響いて、零は苦笑した。
「どれだけ『花嫁』が大切なんだか」
と──
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