クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

文字の大きさ
上 下
36 / 238

私達の「花嫁」~守ってあげる永遠に~

しおりを挟む



「守ってあげる、私達の『花嫁』」


 零は異形の群れから逃げていた。
 足も疲れ速度も落ちてきている。
 時折フエから貰った、異形避けの丸薬をばらまいて距離を開けるがじりじりと迫ってきていた。
 しかし、今の零には叫ぶ事が出来ない。
 声を封じられたのだ。

 町から生け贄として誘拐された女性達を救う為、自分が囮になったのはいいものの、その際魔術で声を出せなくさせられたのだ。

──くそ、どうすればいい!──

 そう考えていると──


「守ってあげる、私達の『花嫁』」


 そう声が響いた。
 異形はおびえたような声を出し逃げ出した。
「逃がさない」
 耳障りな悲鳴らしき鳴き声が零の耳に届いた。
 零は、はっはと呼吸を整える。

「んもー! 零さん、声が出せなくても私達を呼ぼうとすれば来るって行ったでしょう?」

 そう言ってフエはマヨイに指で支持を送る。
「う゛!」
 マヨイはこくんと頷き、零にキスをした。
 しばらくキスをしていると、舌で不気味な生き物を捕りだし、ひょいっとフエに投げた。
「マヨイナイス、術で召喚して喉に張り付いて声を出せなくする生き物ね、普通の手術とかじゃとれないヤバい代物ね」
「わたしなら、できるの」
「そう、マヨイならね偉い偉い」
「その組織を潰すことができ──」
「あ、潰してきたわよ」
「……早いな」
「だからさ、もっと頼ってよ私達の『花嫁』さん」
「……」
「私達に番いはいるけれども、貴方は別次元の存在」
「うー……」
「守ってあげる、私達の『花嫁』」
「……なら今日は休ませてくれ、走りすぎて疲れて足が痛いんだ……」
「うん、分かった。その代わり体調が良くなるまでちゃんと休んでね」
「ああ」
「マヨイ、先に帰ってて、私は零さんを送ってくるから」
「あい!」
「よしよし、マヨイは物わかりがよくて助かるわ」
 フエはそう言って零を抱きかかえてその場から姿を消した。
 それを見送ってマヨイも姿を消した。


 寝間着に着替え、ベッドに横になった零の看病をフエはしていた。


「足にマヨイ印の塗り薬塗ったからもう痛くないでしょう?」
「ああ」
「でも、あんまり無理しちゃ駄目よ、貴方は私達の大切な『花嫁』なんだから」
 そう言ってフエは姿を消した。

「『花嫁』か……」

 零は一人呟いた。




 零は生まれてすぐ孤児院に捨てられていた、平坂孤児院という孤児院に零という名前だけ残して。
 後に知ったことだが、そこは異形から子どもを守る施設であることが発覚した。
 職員に異形の子等がおり、零が「花嫁」だと分かると、他の子よりも狙われる恐れがある、送り迎えは卒院するまで行うと。

 その通り、零は送り迎えをされていた。
 そのため、他の子どもから浮いたが、体のこともあり、浮いてて正解だった。

 中性的な体に女性器だけのからだ。

 男とも女ともとれない体にある孕む器官。

 どうしてこんな体なのか零は悩んだが、諦めることでその悩みを消した。

 そして警察官になり、異形の事件と遭遇した。
 そこで出会ったのがフエだった。

『初めまして「花嫁」さん!』

 凄惨な状況で無邪気に笑う彼女を恐ろしいと思わず、何故こんな子どもが?
 と戸惑いを覚えた。

『さすが「花嫁」さん、異形の子を見ても戸惑うだけなんてすごいわ!』
『異形の子?』

 そして零は異形の子と異形についての事を知り、また「花嫁」についても知り──警察官を辞めて、探偵になった。
 探偵としての技能も持っていたし、何より警察をやっていると立場に縛られ動けないからだった。


 異形の事件を一つでも減らして、犠牲者を亡くしたい。
 それが零が探偵になった理由だった。

 ただそれだけでは食べていけない為、普通の依頼も受けている。
 普通の依頼は警察官時代後輩だった高嶺と伊賀に任せている。
 そして受付はアルバイトの瑞樹に任せている。
 父を異形の事件で亡くし、母が病に倒れた彼女はバイトの時良く働いてくれている。

 そして異形の事件の時、魔術に覚えがあるというレオンと、とある事件で知り合った異形──ニルスを雇うことで解決している。

 ニルスを雇うのは自殺行為だとレオンに言われたが、手元に置かねば被害が拡大すると言うと渋々納得してくれた。

 零は花嫁がある種の不老不死であることを理解していた。

 異形の子を宿し産む為に、私はこんな体なのだなと他人事のように思うようにもなった。


「私達の『花嫁』無理はしてないか?」
「してない、二日も休んでいる」
 紅がやってきて、零の様子を見に来た。
「そうか、それならいい」

「──私達の『花嫁』貴方が生き続ける限り守り通そう」

 紅はそう言って立ち去った。
「『花嫁』か」
「だから利用するんだ、お前達を、そんな私を軽蔑するか?」

『ううん、軽蔑しないよ。寧ろ利用して!』

 フエの声が頭に響いて、零は苦笑した。
「どれだけ『花嫁』が大切なんだか」
 と──





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

処理中です...