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フエの事~創造の邪神の娘、喰らいし者、世界を保つ者~
しおりを挟む覚えているのは、白い巨大な生き物。
異形の姿。
そして絶命している、美しい女性。
それが私の最初の記憶。
そして、私は只の異形の子だった最後の瞬間。
「……」
フエは珍しく黙りこくってベッドに横になっていた。
「フエ?」
柊が不安そうに声をかけるが、フエは微動だにしない。
「フエ……」
不安になって柊が手を伸ばすと、その手をいつの間にか入ってきていた紅が止める。
「今のフエには手を出さない方がいい、たまにあるんだ」
「だが……」
「今のフエに手を出すと、宇宙規模の災害が起きる」
「⁈」
柊は驚いて目を見開いた。
「ちょっとフエの話をしようか」
そう言うと柊は頷いて部屋を出た。
会議室に行くと、紅は椅子に腰掛け、柊も腰掛けた。
「柊、フエの出自と親について聞かされた事は?」
紅の問いかけに柊は首を振った。
「彼奴の親は異形の子と異形……いや創造の邪神と呼ぶべきだな」
「邪神?」
「神と呼ぶような高貴な存在じゃないからな、だが創造神だ」
「……」
「あのフエは本体のフエではない」
「⁈」
「本体のフエは夢を見ている」
「夢?」
「そう、この『世界』という夢を」
「この、世界?」
「そう、本体のフエが目覚めたら世界は終わる。簡単な仕組みだ」
「本体はどこに?」
「……世界の果てで、静かに眠っている、使い魔達の子守歌を聴きながらな」
「会いたい……」
「それは出来ない、異形の子ですらいけぬ場所だ、そもそも場所も私も知らないのだ」
「だったら何故……」
「フエから聞いた、あの子が父親を喰らって権威も力も全て引き継いで消えたと思ったら出現したのを見て聞いた」
「創造神を、喰らった?」
「そう、喰らって引き継いだのだ」
「あの子はその所為か、時折かりそめの体と本体の体をすりあわせる必要が出てきた、それが今だ」
「……いつ頃まで続くんですか?」
「短くて数日、長くて一ヶ月くらいだな」
「そんなに……」
「触れると宇宙規模の災害が起きるし、あの子の目覚めも長くなり体の不調がでる、だから触らないで貰いたい」
「そんな……」
柊は触れられない事を嘆いた。
「ちゃんと説明責任を果たしてなかった姪の不始末だ、済まない」
「え……今、妹ではなく姪、と」
「彼女の母は私の妹だ、同じ異形の親を持つ。だから妹とは本来呼ばないが、私達のルールで妹と呼ぶことになっているが、今はそんな事を言ってる場合ではないのでな」
「……あのフエの母君は?」
「死んだ」
「え」
「フエの出産に耐えられなかったのだ。だから死んだ」
「……」
「フエの子の出産に耐えられるのは『花嫁』くらいだろう」
残酷な現実を突きつけられ柊は泣きそうになった。
番いなのに、フエの子を宿すことができないのだ。
産み落とすこともできない。
だから、フエは子どもを欲しがろうとしないのが理解できた。
自分が傷つき、死んでしまうから。
その優しさが辛かった。
「ちょっと紅姉さん‼」
「おや、早いお目覚めだな」
部屋に慌てて入ってきたフエに紅は言う。
「何で私が隠してたこと全部いっちゃう訳!」
「言わないととんでもない事態になっていただろう?」
「おかげで大急ぎで調整したから近いうちまた調整しないといけなくなったじゃん!」
「大人しくなるのはよいな」
「茶化さないで!」
フエは怒って紅に言う。
「ふ、フエ……」
「あー……うん、柊さんごめん。余計な心配かけさせたくなかったんだ。私他の異形の子と事情が違うし」
「……」
「まぁ、子どもが欲しくなったら私が産めば……産めないよね、分かってる、紅姉さんごまかすなって顔すんな」
「産めない?」
「正確には私は子どもを作っちゃいけないんだ。父親の前科があるから、子どもを食い殺すか、子どもに食い殺されるかの二択になってしまう。そうするとまた世界が変わる」
「……」
「そうならない子を産むには『花嫁』が必要だけど……柊さんは嫌だもんね、ごめんねこんな伴侶で」
「違うんだ」
柊はフエの手を掴んだ。
「そういう事を抱え混ませていた自分の性質に嫌気がさす」
「柊さん……」
「正直『花嫁』には嫉妬してしまう、だが『花嫁』は異形や異形の子等から求められ、狙われる存在、人に恋することなどできないのだろう」
「──うん、そう『花嫁』は──零さんは人に恋せず、私達が発情期とか苦しい時とかに体を貸すと割り切っちゃってる存在」
「……」
「だから、零さんには申し訳ないし、柊さんにも申し訳ない」
「ううん、いいんだ」
柊は笑った。
「君に愛されているからこそそういう扱いになった事が分かったから安心したよ」
「柊さん……よかった……あ゛」
フエは頭を抑えた。
「やっぱりちょっと無理があったみたい、部屋戻って寝るから柊さん、放置でお願い」
そう言って返事も聞かずにフエは会議室を慌てて出て行った。
「あいつ、お前の為に無理に起きてきたな」
「あ……」
「お前の事を誰よりも大切にしているのが分かっただろう、分かったらしばらくはそっとしておいてやってくれ」
「はい……」
「部屋が必要なら空き部屋を貸そうか?」
「いえ、ソファーで寝ます。彼女の側に居たいので」
「そうか」
柊も会議室を後にした。
「余計なお節介だったかな?」
取り残された紅は一人そう呟いた。
「……フエ」
微動だにしないフエに、柊は声をかけ囁く。
「愛しています」
そう言って離れていった。
その直後、微動だにしなかったフエの口元に淡い笑みが浮かんだ──
私は他の異形の子と完全に違う存在だから、柊さんには無理をさせられない。
でも、私は柊さんを愛している「花嫁」と違う意味で。
だから私はそれを分かってくれることを望んでしまう。
我が儘かな、私──
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