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海の日~それぞれの海~

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「海行きたい」
 フエがぐでーっとしながらいった。
「そうか」
 紅はカタカタとパソコンでタイピングをしながら言った。
「そんで零さんや、柊さんといちゃつきたい」
「ちょっと待て」 
 フエの発言に、紅はタイピングを辞めて、眉をしかめる。
「フエ、お前今なんと言った」
「海行きたい」
「その次」
「零さんや、柊さんといちゃつきたい」
「阿呆か?」
「アホじゃないもん!」
「じゃあ、馬鹿か?」
「酷い!」
「何でよりにもよってお前に依存しまくってて独占欲の強い番いと『花嫁』の修羅場をつくらにゃあかんのだ」
「大丈夫、大丈夫だって! マヨイとかエルとか蓮とかクロードとかロナクとかロナとかリラとかみんなに声かけてて、今紅姉さんに声かけ終わったところだから」
 紅は壁に額を打ち付けた。
「お前なんてことしてくれたんだ……」
「いいじゃん、夏なんだし」
 紅はその言葉に、はぁとため息をついた。




「零さん」
 さんさんと降り注ぐ日光と、青空の下、フエは不服そうな顔をして零に詰め寄る。
「何だ」
「何で全身ラッシュガードなのー⁈」
 絶叫する。
 そう、全身を覆うタイプの水着を着用しているため、肌の露出がほとんどないのだ。
「紅がこれを着ろと」
「せっかく零さんのセクシーな水着姿見られると思ったのにぃー!」
「そんな事言ってると、番いに怒られるぞ」
「え」
「フエ?」
 男の声に、フエはびくっとなり振り返る。
 そこには不機嫌そうな顔をした柊が立っていた。
「私の事は、どうでもいいのか?」
 目尻に涙を浮かべて走り去って行った。
「ちょっと待って柊さーん! そういうのじゃないからー! 本能的なアレだからー! だから許してー!」
 フエは慌てて浜辺を走って行く柊を追いかけていった。

 すぐに捕まえられた用だが、なんか色々と修羅場な雰囲気に零は遠い目をして眺めていた。

「全く彼奴は」
 紅がビキニ姿で現れた。
「……」
 零がじっと見つめている。
「何だ?」
「いや、普段から露出控えめな貴方がそういう水着を着るのは意外だな、と思って」
「たまには開放的にもなりたいのだよ、私も」
 紅は肩をすくめて苦笑した。




「すなのおやまをつくるのー」
「うん、つくるのー」
 エルとマヨイはのんびりと砂の山を作っていた。
「エル様……可愛らしい」
「マヨイ……」
 エルのかわいらしさにうっとりとするジンと、マヨイに放置されているのではないかと不安になっている隼斗。


「うーん、海かぁ……」
「ぷかぷか浮いてると流されるぞ」
「それは困る」
 無自覚にいちゃついている蓮と康陽。


「銀おにいちゃん、うみのおみずぱしゃぱしゃ!」
「ぱしゃぱしゃ……」
 海辺で足を動かしているリラと銀。


「零に近づいちゃ駄目、マジで⁈ 姉ちゃんひどくね⁈」
『セクハラをする貴方を近づけるわけにはいかないわ』
 縄でくくりつけられているロナクと、それを手に持つロナ。


「……クロード、少しぐらい海を楽しめよ」
「いや、うっかり零さんに近づいて体内に取り込みたい欲求がでたら大変だからいい」
「そうか……」
 離れたところで、スポーツドリンクを飲み合っているレオンとクロード。




「あ゛ーえらい目に遭った」
 住処に帰宅後、会議室でフエはぐったりしていた。
「どうだ、言っただろう? 修羅場になると」
 紅が呆れたように言う
「あそこまで修羅場になるとは思わないじゃん……」
「予想はできだぞ」
 そう言って紅はタイピングを続けた。
「紅姉さん、今日の海すっごく楽しかった!」
「おお、そうか、蓮。いつもお前には苦労をかけてるからなそう言ってもらえるならよかった」
「うん! 康陽さんとたくさん遊べたし、蓮さんともお話しながら康陽さん達とランチ食べられたし本当に良かった!」
「ちょっと、私が柊さんなだめてる間に何親睦深めてるの⁈」
 フエが蓮に噛みつくように言う。
「え、だって私康陽さん第一で動いたし」
「柊第一で動くべきだったな、水着に惑わされたお前の失態だ」
「くそぅ」
 紅の言葉に、フエは額をテーブルにぶつける。
「今日のこと無かったことにしたいー!」
「それは駄目だ」
「それは辞めて」
「うぐー……」
 フエは突っ伏し、何かを諦めたようだった。
「次の海は失敗しないもん」
「失敗するな」
「うん、多分失敗する」
「だからなんで言い切るのー⁈」
 フエは泣きそうな声で叫んだ。


 フエに取っては散々だったが、他の者にとっては有意義な休みの海の日だった──





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