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一途な愚者~愛故に愚かしくなる~

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 愛して欲しい
 愛されたい
 愚かな願いだと知っている
 それでも望まずにはいられない



 マヨイが居ない住処のベッドの上に横になりながら隼斗は自分の手をかざしながら見る。

 澄んだ白い手が触れる妄想をする。
 澄んだ声が囁く事を夢想する。
 宇宙のようなきらめく目が自分を見つめることを想像する。
 愛らしい顔が笑顔になるのを思い浮かべる。

 でも、どれも今はここにはないのだ。
 どれだけ妄想しようとも、いま彼女はここにはいないのだ。
 誰もいない空間は、ひどく静かで、その静かさが隼斗にとって恐ろしいもの以外何者でもなかった。

 独りぼっちの空間。
 恐ろしいほどの孤独感は、彼の心を容赦なく蝕んだ。
 自分一人だけが「生き残ってしまった」という恐怖が、罪悪感が隼斗の心を責め立てる。
 頭を抱えてうずくまり、贖罪の言葉を口にする。
 許してくれ、と懇願する。
 もうこの世にはいない、彼の大切だった人々へ許しをこう。
 何度も何度も繰り返し呟く。
 瞳は次第に正気を失い、ふらりと立ち上がると住処を後にした。
 隼斗がいなくなると、周囲からミミズにも似たマヨイの使い魔達が出現し、身をくねらせる。
 まるで困り果ててるような仕草を全員がしてるが、やがて諦めたような仕草をして闇に沈むように消えていった。


 ぐちゃぐちゃと音がする。
 人形を抱いてるみたいだとあざ笑う声が聞こえる。
 隼斗はぼんやりと聞きながらその通りだと内心笑った。

 なにも感じないのだ。
 人間に抱かれてもなにも感じない。
 玩具を使われようが媚薬を使われようが、反応しないのだ。
 あの時の蹂躙が強烈すぎて、反応ができなくなったというのが一番正しかった。
 
 複数の男達が時には殴り飛ばし、体に痣をつけて罵りながら隼斗の体を蹂躙する。
 何度も何度も執拗に繰り返される行為に、隼斗は時折自身を嘲笑しながら受け入れ続けた。


 ようやく解放され、全身の痛みに耐えながら住処に戻ってくる。
 部屋は静かなままだった。
 隼斗は安堵のため息をつくと風呂場へと脚を運んだ。

 服をぬぐと、全身青痣だらけで、白い肌が無惨な状態になっていた。
 少しせき込むと痛むため、もしかしたら骨折したのかもしれない。
 が、隼斗はそれくらいが丁度いいと自嘲し、浴室に入っていった。
 浴室は温かな液体で満たされており、一度洗い流してから碧色のお湯につかる。
 不思議と痛みがひけ、眠気さえ感じさせる湯の感触に思わず彼の瞼が閉じられる。
 瞼が閉じられて数分後、静かな寝息が口から漏れ出すと浴室の上からどろりとした液体が滴った。
「あう゛ー」
 液体をまといながらマヨイが天井から湯船にゆっくりと落下するとそのまま隼斗を抱き寄せて、口をふさぐ。

 血の味に少し顔をしかめるが、そのまま口内に甘い体液を注ぎ、それを胃袋に落とす。
 注ぎ終わると風呂から上がり、使い魔達に手伝ってもらいながら自身と隼斗を着替えさせる。
 いつもの白いワンピース姿になると、半裸状態の隼斗を抱き抱えてベッドに向かい、彼を寝かせる。
 そして痣だらけの部分を甘噛みするように吸いついた。
 しばらく吸いつき、舐めあげるのを繰り返すと、痣が綺麗に消えていた。
 それを全身に行い、優しく傷を癒していった。
 癒し終わると、隼斗の髪を優しく撫でた。
 撫でていると、彼の瞼がゆっくりと開き、現状を把握したらしく驚愕の表情を浮かべていた。
「う゛ー」
 でろでろと長い舌を引っ込ませ、むすっとした表情になる。
「あん、まり、むり、したら、めっ!」
 幼子をしかるようにぺちっと隼斗の額をたたく。
 それをされると、隼斗は泣きそうな顔をしてマヨイに抱きついた。

 ああ、ああ。
 心配させてしまった、心配させてしまった。
 させてはいけないのに、嬉しくてたまらない。
 俺だけをみてくれている、俺のことをみてくれている。
 俺のことを心配してくれている。
 ああ、今だけ、今だけはーー
 彼女は、俺だけのことを考えてくれている

 口元の笑みに気づかずマヨイは隼斗を抱きしめていた。
「……?」
 首をかしげて、ぽんぽんと背中をさすりながらぎゅっと抱きしめる。
「隼斗、さん、だいすき、だから、ね?」

 ああ、幸せすぎて、死んでしまいそうなくらいだ


 すべてを失った愚者は
 一途に、愛しい人の愛をただ、求め狂っていく――




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