クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

文字の大きさ
上 下
30 / 238

一途な愚者~愛故に愚かしくなる~

しおりを挟む



 愛して欲しい
 愛されたい
 愚かな願いだと知っている
 それでも望まずにはいられない



 マヨイが居ない住処のベッドの上に横になりながら隼斗は自分の手をかざしながら見る。

 澄んだ白い手が触れる妄想をする。
 澄んだ声が囁く事を夢想する。
 宇宙のようなきらめく目が自分を見つめることを想像する。
 愛らしい顔が笑顔になるのを思い浮かべる。

 でも、どれも今はここにはないのだ。
 どれだけ妄想しようとも、いま彼女はここにはいないのだ。
 誰もいない空間は、ひどく静かで、その静かさが隼斗にとって恐ろしいもの以外何者でもなかった。

 独りぼっちの空間。
 恐ろしいほどの孤独感は、彼の心を容赦なく蝕んだ。
 自分一人だけが「生き残ってしまった」という恐怖が、罪悪感が隼斗の心を責め立てる。
 頭を抱えてうずくまり、贖罪の言葉を口にする。
 許してくれ、と懇願する。
 もうこの世にはいない、彼の大切だった人々へ許しをこう。
 何度も何度も繰り返し呟く。
 瞳は次第に正気を失い、ふらりと立ち上がると住処を後にした。
 隼斗がいなくなると、周囲からミミズにも似たマヨイの使い魔達が出現し、身をくねらせる。
 まるで困り果ててるような仕草を全員がしてるが、やがて諦めたような仕草をして闇に沈むように消えていった。


 ぐちゃぐちゃと音がする。
 人形を抱いてるみたいだとあざ笑う声が聞こえる。
 隼斗はぼんやりと聞きながらその通りだと内心笑った。

 なにも感じないのだ。
 人間に抱かれてもなにも感じない。
 玩具を使われようが媚薬を使われようが、反応しないのだ。
 あの時の蹂躙が強烈すぎて、反応ができなくなったというのが一番正しかった。
 
 複数の男達が時には殴り飛ばし、体に痣をつけて罵りながら隼斗の体を蹂躙する。
 何度も何度も執拗に繰り返される行為に、隼斗は時折自身を嘲笑しながら受け入れ続けた。


 ようやく解放され、全身の痛みに耐えながら住処に戻ってくる。
 部屋は静かなままだった。
 隼斗は安堵のため息をつくと風呂場へと脚を運んだ。

 服をぬぐと、全身青痣だらけで、白い肌が無惨な状態になっていた。
 少しせき込むと痛むため、もしかしたら骨折したのかもしれない。
 が、隼斗はそれくらいが丁度いいと自嘲し、浴室に入っていった。
 浴室は温かな液体で満たされており、一度洗い流してから碧色のお湯につかる。
 不思議と痛みがひけ、眠気さえ感じさせる湯の感触に思わず彼の瞼が閉じられる。
 瞼が閉じられて数分後、静かな寝息が口から漏れ出すと浴室の上からどろりとした液体が滴った。
「あう゛ー」
 液体をまといながらマヨイが天井から湯船にゆっくりと落下するとそのまま隼斗を抱き寄せて、口をふさぐ。

 血の味に少し顔をしかめるが、そのまま口内に甘い体液を注ぎ、それを胃袋に落とす。
 注ぎ終わると風呂から上がり、使い魔達に手伝ってもらいながら自身と隼斗を着替えさせる。
 いつもの白いワンピース姿になると、半裸状態の隼斗を抱き抱えてベッドに向かい、彼を寝かせる。
 そして痣だらけの部分を甘噛みするように吸いついた。
 しばらく吸いつき、舐めあげるのを繰り返すと、痣が綺麗に消えていた。
 それを全身に行い、優しく傷を癒していった。
 癒し終わると、隼斗の髪を優しく撫でた。
 撫でていると、彼の瞼がゆっくりと開き、現状を把握したらしく驚愕の表情を浮かべていた。
「う゛ー」
 でろでろと長い舌を引っ込ませ、むすっとした表情になる。
「あん、まり、むり、したら、めっ!」
 幼子をしかるようにぺちっと隼斗の額をたたく。
 それをされると、隼斗は泣きそうな顔をしてマヨイに抱きついた。

 ああ、ああ。
 心配させてしまった、心配させてしまった。
 させてはいけないのに、嬉しくてたまらない。
 俺だけをみてくれている、俺のことをみてくれている。
 俺のことを心配してくれている。
 ああ、今だけ、今だけはーー
 彼女は、俺だけのことを考えてくれている

 口元の笑みに気づかずマヨイは隼斗を抱きしめていた。
「……?」
 首をかしげて、ぽんぽんと背中をさすりながらぎゅっと抱きしめる。
「隼斗、さん、だいすき、だから、ね?」

 ああ、幸せすぎて、死んでしまいそうなくらいだ


 すべてを失った愚者は
 一途に、愛しい人の愛をただ、求め狂っていく――




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...