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もう一つの世界の話~フエは「フエ」と語る~
しおりを挟む果て「世界の果て」で、透明な壁のようなものに手を当てながらフエは話しかける。
「ねぇ『私』。そちらではなにかあったの?」
壁の向こうには「フエ」が居た、もう一人のフエが。
「やぁ『私』。勿論だよ」
フエは「フエ」に語りかけた。
それに「フエ」は答える。
「じゃあ、話そうかな」
「うん、お話を聞かせて」
フエのお願い応えてに「フエ」は話し始めた──
「コロニー198で連続失踪事件だと?」
「また、コロニーですか」
ニルスが零の言葉に肩をすくめる。
「失踪者の特徴で類似している点は?」
「ありません、コロニー198で生活しているという点以外」
「……行ってみる必要があるな。レオン、ニルス」
「はい」
「何でしょう?」
真面目な顔のレオンと、笑みを浮かべているニルスに言う。
「私はコロニー198へ行く、着いてきてくれ」
「はい!」
「仰せの通りに」
そう言って、依頼主が出て行くと、コロニー198行きのチケットをオンラインで購入し、向かった。
一日近くかけて到着した時、既に異変が生じていた。
人影がない。
人気がない。
「ニルス」
「お任せあれ」
ニルスが術式で何かを展開するとそこら中に蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
そして空中部分には無数の繭。
そして巨大な蜘蛛。
「眉の数はコロニーの人数ですね」
「中身はどうなっている」
「人のままです、おそらく衰弱してから喰うのでしょう」
「では、救助を頼む」
零は即座に銃を取り出し、巨大な蜘蛛へと向けた。
バン!
弾丸は命中し、巨大蜘蛛の体の一部をへこませる。
巨大蜘蛛は零を見ると目の色を文字通り緑から赤へと変え追いかけてきた。
零は猛スピードでコロニーのハッチの場所まで急ぐ。
「蓮!」
ハッチまで来ると、零は蓮の名を呼ぶ。
巨大蜘蛛よりもさらに巨大な紫の目の蜘蛛が現れた。
蜘蛛──蓮は大量の子蜘蛛を産みだし、同時に自ら蜘蛛にかじりつき捕食を始める。
蜘蛛の異形は耳障りな悲鳴を上げてもがくがあっという間に全部喰われてなくなっていた。
「蓮、すまないな」
そういうと、紫の目の巨大蜘蛛の体は崩れるようになくなり、子蜘蛛たちも姿を消す。
人の姿の蓮が現れた。
「いやーいいですよー別にー! 零さんの頼みならしゃーないですし!」
「最初はフエを呼ぼうと思ったのだが、後々が面倒でな」
「本当、うちの姉がすみません」
蓮は頭を下げて謝罪した。
「礼の一つだ、最近はやりの映画らしい、ほのぼの系らしくてな」
「ぷにっこたちのお話ですか!」
「見たのか?」
「いいえ、見ようと思ってたんですけど」
「じゃああげよう、康陽といってくるといい」
そう言ってチケットを渡した。
「いいんですか⁈」
「ああ、他に何か今の代償が欲しいならいえ」
「い、今は思いつかないので、後ほど」
「そうか」
蓮はその場から文字通り姿を消した。
それを見送るとコロニーの内部へと戻る。
「どうだ?」
「病院には人とロボットがまだ少数でしたが居ましたのでいま衰弱が激しい方を運んでおります」
レオンが言う。
「衰弱するまで待つ奴で良かった、でなければ被害が出ていた」
「そうですね……」
「とはいえ衰弱が激しいなら危険だ……と言っても私には──」
「うー?」
「マヨイ?」
舌をでろでろと長く伸ばしたマヨイが零の服を引っ張った。
「そうか、お前なら治療ができるなレオン、交渉を」
「分かりました」
レオンが病院にかけていくと、マヨイは長い舌を仕舞い、普通の美しい少女のような姿になる。
「マヨイ、助けてくれるな?」
「うん!」
その後、病院との交渉を上手く終えたレオンが病院で出迎え、マヨイは衰弱が激しい者達の「治療」に当たった。
数分で「治療」は終わり、その人達は衰弱している様子はなく、すやすやと眠っていた。
「他の方々は?」
「大丈夫そうです」
「そうですか、では私達は地球へ戻ります」
「あ、あの!」
「何です?」
「皆を助けてくださって有り難うございます!」
「……私は仕事をしたまでです」
零はそう言ってつば広の帽子を目深く被ると、レオンとニルスと共に病院を後にし、そしてコロニーを後にした。
「──という感じかなぁ」
「今回はSF味が薄いねぇ、それと貴方の活躍がないのもちょっと不満」
「いやぁ、そのときは柊さんといちゃついてたから」
「ならしょうがないか」
などと話をしている。
「じゃあ、今日はこの辺で、またねフエ」
「そうだね、この辺で、またね『フエ』」
そうして二人のフエはその場から姿を消した──
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