クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

文字の大きさ
上 下
22 / 238

もう一人の「フエ」の世界~SFちっくじゃない?~

しおりを挟む



「最近人が行方不明になる事件が多発している。誘拐の痕跡はなく、殺害痕跡もない、よって私に依頼が来た」
 零はそう言って、職員に話した。
「所長、俺がお供を──」
「何言ってるの、私が──」
「いや、高嶺、伊賀、お前達は留守番を頼む」
「「ええー⁈ どうしてなんですか⁈」」
「お前達は異形に耐性がない、よってニルスと、レオンの二人と捜査に当たる」
「そんなぁ……」
「ちくしょう……俺に耐性があれば」
「まぁまぁ、お二人さん。私達に任せたまえ」
「はい、私達に任せてください」
「レオンは信用できるけど、ニルスは信用できねぇなぁ……」
 伊賀と呼ばれた男性がニルスをジト目で睨む。
「そう言うな、私もニルスは信用していない」
「じゃあなんで連れて行くんですか⁈」
 伊賀が噛みつくように零に言う。
「簡単だ、何するか分からないから連れて行くんだ」
「そ、そういう……」
「では行ってくる」
 零は紺色のコートを羽織、紺色のつば広帽を被り、レオンとニルスと共に外に出て行った。

 そして行方不明場所を全て調べ上げる。

「……異形の仕業確定だな、だがどこに連れて行く?」
「空間転移術が使われてます、場所は……コロニー005? 廃棄されているコロニーじゃないですか?」
「宇宙か……となると、アレを持って行く必要があるな」
「もう既に準備しているとも」
 ニルスがそう言うと、零はふぅと息を吐いた。
「お前こう言う時だけ行動早いよな」
 呆れのため息だった。


 それから数時間後、零達は宇宙へと上がり、コロニー005へ入る準備をする。
「嫌な予感がするから、アームド達に乗り込むぞ」
 そう言って巨大ロボットに全員乗り込み、コロニー005の中に入っていく。

「空気は通ってますね」
「廃棄されたのに、何故通っているか、だ」
 そう言って広い空間へ出ると、零は目を見開いた。
 不気味な壺のような丸くびくびくと蠢く物体に、人間達が入れられた居るのだ。
 皆顔色を緑にしてぐったりとしている。
「異形化か!」
 その周囲を緑の不気味な植物のような生き物──異形が彷徨いていた。

「どうします?」
「私が奴らを引きつける、その間にお前達がなんとかしろ」
「え?」
「それはまさか」
 零はハッチを開け、被っていたヘルメットを外す。
「私は『花嫁』だ! 『花嫁』がここにいるぞ!」
 零の方を向いた異形達は目の色を変えるが如く、一斉に零の乗っている巨大ロボット──アームドに近づいてきた。
 零はハッチを閉め急いでコロニーから脱出する。




「で、これどうするのかね?」
「私ではできない、だから」
 ニルスの問いかけにレオンはそう言うと、魔方陣が現れ、そこからマヨイが現れる。
「うー?」
「マヨイ、ここの人たちを全員戻せるか?」
「う!」
 マヨイはこくんと頷き、無数の使い魔であるミミズのような生き物と共に人間達を飲み込んでいく。
 そしてぺっと吐き出すと、裸だが、普通の色の人間に戻っていた。
「きゃあ!」
「わぁ!」
「おお!」
「しかし、この人数運び出すのは……」
「巨大シャトルを複数既に用意してるが?」
「……ニルス、貴様本当にこう言う時は用意周到だな!」
 レオンは若干いらだちながら言う。
「皆さん、シャトルがあります、そこに乗り込んでください」
「こちらです、さぁ」
 と人々を誘導していた。




「さすが宇宙空間に出ると移動が早いな」
 異形達はじりじりと距離を詰めていく。
「仕方ない、フエ!」
「呼ばれて飛び出てへいらっしゃい!」
「何だその口上」
「何となく」
 操縦している零の目の前にフエが現れる。
「連中を皆退治できるか」
「できますとも『花嫁』さん」
 フエはにこりと笑い姿を消した。
「頼むぞ……」
 零は操縦し続けながら言った。




『やっほー異形の諸君、君達は大変なことをしてくれたねぇ』
 異形達の前に立ち塞がるように、フエが現れる。
『我らが「花嫁」に手を出そうなんて笑止千万』
 フエはにたりと笑う。
『命を持って償うと言い』
 そう言うと、フエの肉体がどろりと溶け、肥大化し、黒く不気味な肉塊へと変化する。
 無数の触手が異形達を捉え、食らいつき、捕食していく。
 異形達は逃げ出し始めるが時既に遅く、全て食らいつくされていた。




『零さんー、異形の反応はないから終わったよー』
「そうか、それなら良かった」
『零さん、他のアームドは来た来た宇宙戦艦に格納済みだよ、ただ他の二人がシャトルに今回誘拐された人たちを乗せていっちゃったから』
「……私一人になるな」
『危険だから、一緒にいようか?』
「助かる」
 戦艦に乗り込み、格納庫の中に入れると零は格納庫を閉め、操舵室へと向かう。
「はぁーい、零さん」
「う!」
「なるほどマヨイが手伝ってくれたのか」
 四つん這いのマヨイに零は近づき、屈んで抱きしめる。
「ありがとう、君のおかげで多くの人が助かった」
「う!」
 マヨイは長い舌を揺らしながら楽しそうにしていた。
「じゃ、戻ろうか。戻ったらご褒美ちょうだい」
「……いつものか」
「うん! 本能丸出しにしたからね!」
 零は深いため息をついた。




「──と言うことで、しばらく私は休む。疲れた」
「所長無理しすぎなんですよ」
「そうですよ」
「零さん、無理しないでください」
 受付の少女が不安そうに言う。
瑞樹みずき、そんなに不安がるな。大丈夫だ」
「そういえばレオンとニルスは?」
「救助したのが二人だから今警察に連れて行かれてる」
「犯人と思われて?」
「いや、警察からの依頼だからな。警察も異形の事はしっているが、事の真相は分からずじまいのままだがな」
 零はそう言って二階の自室兼寝室に向かった。

 寝室にはフエが居た。
「零さん、お疲れ──という訳でしよ?」
「全く……私の疲れを無視するお前に頼らねばならないのが辛いな」
「大丈夫大丈夫、優しくするから」
 そう言って、フエは零をベッドに押し倒した──




『これがあったことかな?』
 向こう側の「フエ」はそう言って語り終えた。
「いいなぁ、そっちは零さんにたくさん頼まれてそうで」
 フエは羨ましそうに言う。
『そっちはそんなことないの』
「いや、割と頼まれるようになった、首落ちた一件から」
『ワーオ、首落ちたんだそっち』
「まぁ『花嫁』だから生き返らせることは簡単だったけどね。自殺の場合は無理だけど」
『異形がやったんなら別って訳ね、分かる分かる』
 納得したように頷く「フエ」にフエは言う。
「じゃあ、そろそろ帰るね、柊さん放置しすぎるとすねちゃうから」
『私の方もだよ。じゃあまたね、私』
「またね、私」
 そう言って二人のフエはその場から姿を消した。




「ただいまー!」
「遅い」
 フエの予想通り、柊はすねていた。
「ごめんねーとの話が長引いちゃって」
「……もう一人の君とか?」
「うん、そう!」
「……ならいい」
「有り難う!」
 フエは柊に抱きついた。
「もう一人の君とはどこで出会ったんだ」
「この『世界』の『果て』で出会ったの。父親食ってから『世界』が大きく変わったからそれを知りたくて『果て』に行ったら壁があってそこで出会ったの」
「私は行けないんだろう?」
「そうだねー番いになってるけど、私以外行けない場所だから」
「そうか……」
「まぁあっちの私も、私と変わんないよ、時代が違うだけで」
「確か……巨大ロボットとかが使われている時代、だったか。まるでSFだな」
「それ言うなら私たちの存在はホラーかコズミックホラーだよ?」
「そうは思わない」
「毒されちゃってるなぁ~~」
 そう言いながらフエは笑った。

 自分達の存在は人にとって脅威すぎる。
 異形と対して変わらないのだ。
 ただ、きまぐれ・・・・に人間の味方をしているだけ。
 人間全員を救う訳では無い、善人を救うだけだ。
 正義ではない、悪でも無い。
 自分達の欲望や欲求に従って行動しているだけなのだ。
 だから、フエは笑う。

 そう思わずに居てくれる愛おしい番いの存在と「花嫁」の存在がいることに──





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

処理中です...