クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

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もう一人の「フエ」の世界~SFちっくじゃない?~

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「最近人が行方不明になる事件が多発している。誘拐の痕跡はなく、殺害痕跡もない、よって私に依頼が来た」
 零はそう言って、職員に話した。
「所長、俺がお供を──」
「何言ってるの、私が──」
「いや、高嶺、伊賀、お前達は留守番を頼む」
「「ええー⁈ どうしてなんですか⁈」」
「お前達は異形に耐性がない、よってニルスと、レオンの二人と捜査に当たる」
「そんなぁ……」
「ちくしょう……俺に耐性があれば」
「まぁまぁ、お二人さん。私達に任せたまえ」
「はい、私達に任せてください」
「レオンは信用できるけど、ニルスは信用できねぇなぁ……」
 伊賀と呼ばれた男性がニルスをジト目で睨む。
「そう言うな、私もニルスは信用していない」
「じゃあなんで連れて行くんですか⁈」
 伊賀が噛みつくように零に言う。
「簡単だ、何するか分からないから連れて行くんだ」
「そ、そういう……」
「では行ってくる」
 零は紺色のコートを羽織、紺色のつば広帽を被り、レオンとニルスと共に外に出て行った。

 そして行方不明場所を全て調べ上げる。

「……異形の仕業確定だな、だがどこに連れて行く?」
「空間転移術が使われてます、場所は……コロニー005? 廃棄されているコロニーじゃないですか?」
「宇宙か……となると、アレを持って行く必要があるな」
「もう既に準備しているとも」
 ニルスがそう言うと、零はふぅと息を吐いた。
「お前こう言う時だけ行動早いよな」
 呆れのため息だった。


 それから数時間後、零達は宇宙へと上がり、コロニー005へ入る準備をする。
「嫌な予感がするから、アームド達に乗り込むぞ」
 そう言って巨大ロボットに全員乗り込み、コロニー005の中に入っていく。

「空気は通ってますね」
「廃棄されたのに、何故通っているか、だ」
 そう言って広い空間へ出ると、零は目を見開いた。
 不気味な壺のような丸くびくびくと蠢く物体に、人間達が入れられた居るのだ。
 皆顔色を緑にしてぐったりとしている。
「異形化か!」
 その周囲を緑の不気味な植物のような生き物──異形が彷徨いていた。

「どうします?」
「私が奴らを引きつける、その間にお前達がなんとかしろ」
「え?」
「それはまさか」
 零はハッチを開け、被っていたヘルメットを外す。
「私は『花嫁』だ! 『花嫁』がここにいるぞ!」
 零の方を向いた異形達は目の色を変えるが如く、一斉に零の乗っている巨大ロボット──アームドに近づいてきた。
 零はハッチを閉め急いでコロニーから脱出する。




「で、これどうするのかね?」
「私ではできない、だから」
 ニルスの問いかけにレオンはそう言うと、魔方陣が現れ、そこからマヨイが現れる。
「うー?」
「マヨイ、ここの人たちを全員戻せるか?」
「う!」
 マヨイはこくんと頷き、無数の使い魔であるミミズのような生き物と共に人間達を飲み込んでいく。
 そしてぺっと吐き出すと、裸だが、普通の色の人間に戻っていた。
「きゃあ!」
「わぁ!」
「おお!」
「しかし、この人数運び出すのは……」
「巨大シャトルを複数既に用意してるが?」
「……ニルス、貴様本当にこう言う時は用意周到だな!」
 レオンは若干いらだちながら言う。
「皆さん、シャトルがあります、そこに乗り込んでください」
「こちらです、さぁ」
 と人々を誘導していた。




「さすが宇宙空間に出ると移動が早いな」
 異形達はじりじりと距離を詰めていく。
「仕方ない、フエ!」
「呼ばれて飛び出てへいらっしゃい!」
「何だその口上」
「何となく」
 操縦している零の目の前にフエが現れる。
「連中を皆退治できるか」
「できますとも『花嫁』さん」
 フエはにこりと笑い姿を消した。
「頼むぞ……」
 零は操縦し続けながら言った。




『やっほー異形の諸君、君達は大変なことをしてくれたねぇ』
 異形達の前に立ち塞がるように、フエが現れる。
『我らが「花嫁」に手を出そうなんて笑止千万』
 フエはにたりと笑う。
『命を持って償うと言い』
 そう言うと、フエの肉体がどろりと溶け、肥大化し、黒く不気味な肉塊へと変化する。
 無数の触手が異形達を捉え、食らいつき、捕食していく。
 異形達は逃げ出し始めるが時既に遅く、全て食らいつくされていた。




『零さんー、異形の反応はないから終わったよー』
「そうか、それなら良かった」
『零さん、他のアームドは来た来た宇宙戦艦に格納済みだよ、ただ他の二人がシャトルに今回誘拐された人たちを乗せていっちゃったから』
「……私一人になるな」
『危険だから、一緒にいようか?』
「助かる」
 戦艦に乗り込み、格納庫の中に入れると零は格納庫を閉め、操舵室へと向かう。
「はぁーい、零さん」
「う!」
「なるほどマヨイが手伝ってくれたのか」
 四つん這いのマヨイに零は近づき、屈んで抱きしめる。
「ありがとう、君のおかげで多くの人が助かった」
「う!」
 マヨイは長い舌を揺らしながら楽しそうにしていた。
「じゃ、戻ろうか。戻ったらご褒美ちょうだい」
「……いつものか」
「うん! 本能丸出しにしたからね!」
 零は深いため息をついた。




「──と言うことで、しばらく私は休む。疲れた」
「所長無理しすぎなんですよ」
「そうですよ」
「零さん、無理しないでください」
 受付の少女が不安そうに言う。
瑞樹みずき、そんなに不安がるな。大丈夫だ」
「そういえばレオンとニルスは?」
「救助したのが二人だから今警察に連れて行かれてる」
「犯人と思われて?」
「いや、警察からの依頼だからな。警察も異形の事はしっているが、事の真相は分からずじまいのままだがな」
 零はそう言って二階の自室兼寝室に向かった。

 寝室にはフエが居た。
「零さん、お疲れ──という訳でしよ?」
「全く……私の疲れを無視するお前に頼らねばならないのが辛いな」
「大丈夫大丈夫、優しくするから」
 そう言って、フエは零をベッドに押し倒した──




『これがあったことかな?』
 向こう側の「フエ」はそう言って語り終えた。
「いいなぁ、そっちは零さんにたくさん頼まれてそうで」
 フエは羨ましそうに言う。
『そっちはそんなことないの』
「いや、割と頼まれるようになった、首落ちた一件から」
『ワーオ、首落ちたんだそっち』
「まぁ『花嫁』だから生き返らせることは簡単だったけどね。自殺の場合は無理だけど」
『異形がやったんなら別って訳ね、分かる分かる』
 納得したように頷く「フエ」にフエは言う。
「じゃあ、そろそろ帰るね、柊さん放置しすぎるとすねちゃうから」
『私の方もだよ。じゃあまたね、私』
「またね、私」
 そう言って二人のフエはその場から姿を消した。




「ただいまー!」
「遅い」
 フエの予想通り、柊はすねていた。
「ごめんねーとの話が長引いちゃって」
「……もう一人の君とか?」
「うん、そう!」
「……ならいい」
「有り難う!」
 フエは柊に抱きついた。
「もう一人の君とはどこで出会ったんだ」
「この『世界』の『果て』で出会ったの。父親食ってから『世界』が大きく変わったからそれを知りたくて『果て』に行ったら壁があってそこで出会ったの」
「私は行けないんだろう?」
「そうだねー番いになってるけど、私以外行けない場所だから」
「そうか……」
「まぁあっちの私も、私と変わんないよ、時代が違うだけで」
「確か……巨大ロボットとかが使われている時代、だったか。まるでSFだな」
「それ言うなら私たちの存在はホラーかコズミックホラーだよ?」
「そうは思わない」
「毒されちゃってるなぁ~~」
 そう言いながらフエは笑った。

 自分達の存在は人にとって脅威すぎる。
 異形と対して変わらないのだ。
 ただ、きまぐれ・・・・に人間の味方をしているだけ。
 人間全員を救う訳では無い、善人を救うだけだ。
 正義ではない、悪でも無い。
 自分達の欲望や欲求に従って行動しているだけなのだ。
 だから、フエは笑う。

 そう思わずに居てくれる愛おしい番いの存在と「花嫁」の存在がいることに──





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