20 / 238
恋を知らぬ探偵と、恋に依存する男
しおりを挟む夕方紺色の鍔広帽子を頭、紺色のロングコートを身にまとった中性的な容姿の人物が町を歩いていた。
時折足をとめては周囲を見渡す。
何かを探しているのか、それとも誰かの目を気にしているのかは解らないが確認をしているような仕草だった。
その人物が何度目かのため息をついて前を見た瞬間、目を見開いた。
早足になり、見つけた人物に駆け寄り、腕を掴む。
腕を捕まれた人物は気怠げで、不満そうな表情をしていたが、腕を掴んだ人物を見て驚愕の表情に変わる。
「……零か?」
「久しぶりだな、隼斗」
腕を掴んだ人物――零、腕を掴まれた人物――隼斗は相手の名を口にし合った。
とあるバーに足を運び、二人は個室に入った。
「何年ぶりだ?」
「私がお前と最後にあってからは1年以上――」
「――お前の組織が壊滅し、お前の死体だけが確認できないと情報がきてから半年以上だ」
零が琥珀色の液体が入ったグラスに口を付けながらいうと、隼斗の動きが止まる。
「あれだけ大規模な組織が壊滅されたんだ、嫌でも私に声がかかる」
「――異形事案特化の探偵、だからか?」
「そういう事だ」
隼斗がぶっきらぼうに問いかけると、零は肯定の答えを返した。
「お前が死亡したかそれとも別の何かが起きたか調査していたがお前に会ってはっきりした」
「――何がだ?」
隼斗が不満を隠さずにいうと、零は首から提げている血色とも真紅とも取れる赤い宝玉がついたペンダントを弄りながら口を開いた。
「異形の子らに――異形少女にあったな」
零がそういうと、隼斗の目つきが鋭くなる。
「匂いでわかるさ、お前にはマヨイの匂いがついている。あの子の匂いは甘い、花や果樹の様な甘い心地良い香りを身につけてる」
隼斗は驚愕の表情を浮かべた。
マヨイが言っていた「レイ」は、やはり此奴だったのか?
何故此処まで知っている?
お前は何処までしってるんだ?!
困惑の表情を浮かべる隼斗を見ながら、零は続けた。
「――私は、異形からどうやら『好かれる』体質らしくてな、対策をしないと異形が向こうから私を求めて行動する。異形の子らも例外ではないらしいが、彼らは私を保護したいらしくてな、何度も向こうから助言やら忠告しに来てるよ」
零はそう言って帽子をテーブルの上に置いて頭をかき分けた。
「ついでにお前は魅入られているのか?」
「どういうことだ?」
隼斗がいぶかしげに問いかけると、零はグラスをあおってから口を開いた。
「とある異形の子曰く、私は天然の魅了体質らしい。生物なら顔をはっきりと見せた時点でほとんどが魅了される。魅了されないのは別の何かに魅入られている以外ないとのことだ」
零は口を開いてじっと隼斗を見つめた。
「隼斗、お前は魅入られているな、マヨイに」
「……それがどうした」
「別に、ただそれだけだ」
隼斗は再びあっけにとられる。
「では、失礼する」
零が立ち上がる。
「待て、話はまだ──」
「いつでも出来るだろう、お前はもう自由なんだからな」
零は隼斗にそう言うと、そのままバーを後にした。
「そう自由だ、マヨイに魅入られ愛情を求める以外はな」
バーから出ると、そうつぶやき、探偵事務所へと戻った。
自室兼寝室に戻ると、そこにはワンピースを着た少女──フエが居た。
「マヨイの番いの隼斗さんと話したんだって」
「ああ」
「アレはマヨイに恋をしてるんだよ」
「魅入られているのではなく?」
「似たようなものだよー」
フエはカラカラと笑う。
「『花嫁』である零さんは、恋を知らない」
「知らんな、そう言う意味で他者に好意を抱いた事はない」
零はそう言って、フエに気にせず寝間着に着替えていた。
寝間着に着替え終わると、フエが零を押し倒した。
「フエ、お前私とヤって番いにかなり泣かれたと聞いたぞ」
「でも本能にはあらがえないんだもの『花嫁』を欲しがる本能には……」
そう言ってフエは零の額にキスをした。
「好きにしろ」
呆れたように言う零に、フエは満面の笑みを浮かべた。
「自由……」
「隼斗さん、おかえりなさい」
たどたどしい口調でマヨイが隼斗を出迎えた。
「れいさんとおはなししたんでしょう、どんなはなし?」
「俺が生きていたかの確認と君に会っていたこととか……まぁそんな話だ」
「れいさん、マヨイもフエおねえちゃんといっしょですき」
隼斗の心臓がどくんと大きく脈打つ。
「……それはどういう?」
「やさしいおねえちゃん!」
「そうか……ならいいか」
そう安堵の息を吐いてマヨイに問いかける。
「君は俺を自由だと思うか?」
「うー……わかんない、隼斗さんは隼斗さんだよ」
「そうか、そうだな」
答えになってない答えだが、隼斗はそれで満足した。
マヨイにとって自分が自分である限り、問題はないと。
「おふろはいったら、いっしょねよ?」
「ああ」
そう言って隼斗は入浴し、マヨイと一緒にベッドに入る。
「おやすみ隼斗さん」
「おやすみ、マヨイ」
二人は抱き合って眠りに落ちた──
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?


勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる
とんでもニャー太
ファンタジー
エイワス王国の四大貴族、ヴァンガード家の末子アリストンには特殊な能力があった。霊が見える力だ。しかし、この能力のせいで家族や周囲から疎まれ、孤独な日々を送っていた。
そんな中、アリストンの成人の儀が近づく。この儀式で彼の真価が問われ、家での立場が決まるのだ。必死に準備するアリストンだったが、結果は散々なものだった。「能力不足」の烙印を押され、辺境の領地ヴェイルミストへの追放が言い渡される。
絶望の淵に立たされたアリストンだが、祖母の励ましを胸に、新天地での再出発を決意する。しかし、ヴェイルミストで彼を待っていたのは、荒廃した領地と敵意に満ちた住民たちだった。
そんな中、アリストンは思いがけない協力者を得る。かつての王国の宰相の霊、ヴァルデマールだ。彼の助言を得ながら、アリストンは霊感能力を活かした独自の統治方法を模索し始める。果たして彼は、自身の能力を証明し、領地を再興できるのか――。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる