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恋を知らぬ探偵と、恋に依存する男
しおりを挟む夕方紺色の鍔広帽子を頭、紺色のロングコートを身にまとった中性的な容姿の人物が町を歩いていた。
時折足をとめては周囲を見渡す。
何かを探しているのか、それとも誰かの目を気にしているのかは解らないが確認をしているような仕草だった。
その人物が何度目かのため息をついて前を見た瞬間、目を見開いた。
早足になり、見つけた人物に駆け寄り、腕を掴む。
腕を捕まれた人物は気怠げで、不満そうな表情をしていたが、腕を掴んだ人物を見て驚愕の表情に変わる。
「……零か?」
「久しぶりだな、隼斗」
腕を掴んだ人物――零、腕を掴まれた人物――隼斗は相手の名を口にし合った。
とあるバーに足を運び、二人は個室に入った。
「何年ぶりだ?」
「私がお前と最後にあってからは1年以上――」
「――お前の組織が壊滅し、お前の死体だけが確認できないと情報がきてから半年以上だ」
零が琥珀色の液体が入ったグラスに口を付けながらいうと、隼斗の動きが止まる。
「あれだけ大規模な組織が壊滅されたんだ、嫌でも私に声がかかる」
「――異形事案特化の探偵、だからか?」
「そういう事だ」
隼斗がぶっきらぼうに問いかけると、零は肯定の答えを返した。
「お前が死亡したかそれとも別の何かが起きたか調査していたがお前に会ってはっきりした」
「――何がだ?」
隼斗が不満を隠さずにいうと、零は首から提げている血色とも真紅とも取れる赤い宝玉がついたペンダントを弄りながら口を開いた。
「異形の子らに――異形少女にあったな」
零がそういうと、隼斗の目つきが鋭くなる。
「匂いでわかるさ、お前にはマヨイの匂いがついている。あの子の匂いは甘い、花や果樹の様な甘い心地良い香りを身につけてる」
隼斗は驚愕の表情を浮かべた。
マヨイが言っていた「レイ」は、やはり此奴だったのか?
何故此処まで知っている?
お前は何処までしってるんだ?!
困惑の表情を浮かべる隼斗を見ながら、零は続けた。
「――私は、異形からどうやら『好かれる』体質らしくてな、対策をしないと異形が向こうから私を求めて行動する。異形の子らも例外ではないらしいが、彼らは私を保護したいらしくてな、何度も向こうから助言やら忠告しに来てるよ」
零はそう言って帽子をテーブルの上に置いて頭をかき分けた。
「ついでにお前は魅入られているのか?」
「どういうことだ?」
隼斗がいぶかしげに問いかけると、零はグラスをあおってから口を開いた。
「とある異形の子曰く、私は天然の魅了体質らしい。生物なら顔をはっきりと見せた時点でほとんどが魅了される。魅了されないのは別の何かに魅入られている以外ないとのことだ」
零は口を開いてじっと隼斗を見つめた。
「隼斗、お前は魅入られているな、マヨイに」
「……それがどうした」
「別に、ただそれだけだ」
隼斗は再びあっけにとられる。
「では、失礼する」
零が立ち上がる。
「待て、話はまだ──」
「いつでも出来るだろう、お前はもう自由なんだからな」
零は隼斗にそう言うと、そのままバーを後にした。
「そう自由だ、マヨイに魅入られ愛情を求める以外はな」
バーから出ると、そうつぶやき、探偵事務所へと戻った。
自室兼寝室に戻ると、そこにはワンピースを着た少女──フエが居た。
「マヨイの番いの隼斗さんと話したんだって」
「ああ」
「アレはマヨイに恋をしてるんだよ」
「魅入られているのではなく?」
「似たようなものだよー」
フエはカラカラと笑う。
「『花嫁』である零さんは、恋を知らない」
「知らんな、そう言う意味で他者に好意を抱いた事はない」
零はそう言って、フエに気にせず寝間着に着替えていた。
寝間着に着替え終わると、フエが零を押し倒した。
「フエ、お前私とヤって番いにかなり泣かれたと聞いたぞ」
「でも本能にはあらがえないんだもの『花嫁』を欲しがる本能には……」
そう言ってフエは零の額にキスをした。
「好きにしろ」
呆れたように言う零に、フエは満面の笑みを浮かべた。
「自由……」
「隼斗さん、おかえりなさい」
たどたどしい口調でマヨイが隼斗を出迎えた。
「れいさんとおはなししたんでしょう、どんなはなし?」
「俺が生きていたかの確認と君に会っていたこととか……まぁそんな話だ」
「れいさん、マヨイもフエおねえちゃんといっしょですき」
隼斗の心臓がどくんと大きく脈打つ。
「……それはどういう?」
「やさしいおねえちゃん!」
「そうか……ならいいか」
そう安堵の息を吐いてマヨイに問いかける。
「君は俺を自由だと思うか?」
「うー……わかんない、隼斗さんは隼斗さんだよ」
「そうか、そうだな」
答えになってない答えだが、隼斗はそれで満足した。
マヨイにとって自分が自分である限り、問題はないと。
「おふろはいったら、いっしょねよ?」
「ああ」
そう言って隼斗は入浴し、マヨイと一緒にベッドに入る。
「おやすみ隼斗さん」
「おやすみ、マヨイ」
二人は抱き合って眠りに落ちた──
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