19 / 238
マヨヒガの主様のお食事事情
しおりを挟むくだものややさいはだいすき。
おにくはなまのはたべたくない。
すききらいはしたらいけないとなまのだけはいや。
でもくんせいとか、ひがとおったものはすき。
わがままかな?
異形の子ども達は、皆総じて大食である。
人間の大食漢の何倍以上も食事を一回にとる。
人間の食事で問題ないものもいれば、人間の食事では満たされず「異形」としての食事をしなければ満たされないものもいる。
中には偏食家と呼ばれる子らもいる。
マヨイはそういった子どもの達の中でも「人間」の食事だけで満足するかなり珍しい存在だった。
お供えものの果物や野菜などの収穫物をそのまま食べるのが以前の彼女だったが、現在は調理したものを口にすることを覚えており使い魔や兄弟達、神主にねだって料理をしたものを準備してもらうようになっていた。
自分で料理をするのは得意ではないらしく、必ず他者に調理をしてもらっていた。
実際彼女が料理すると大惨事になるので周囲から禁じられているのもある。
結果、調理されたものを口にしたい時は、必ず誰かに頼む癖がついていた。
ある日、マヨイは住処にある数々の果物、野菜、穀物類を箱に詰めていた。
「姉」に料理を作って貰いたくなったのだ。
料理が得意な「姉」は材料さえもっていけば好きな物を作ってくれるのを知っているし、色んなことを教えてくれるのも知っていた。
だから、料理を作って貰うついでにお話を聞かせてもらおうと思ったのだ。
「何をしてるんだ?」
後ろから声をかけられたので、振り返ると予想通り現在一緒に住んでいる隼斗がいた。
「う゛ーう゛ー」
うなり声を上げながら舌を引っ込める。
「おねえちゃんに、おりょうり、つくってっもらうの。あとおはなししてもらうの」
隼人は「おねえちゃん」と「おはなし」の箇所に眉をひそめた。
「何の話をするんだ?」
「隼斗さんがまんぞくするほうほうについてー」
嬉しそうなマヨイの言葉を聞くなり、隼斗はがつんと頭を壁にぶつけだした。
「どしたの?どしたの?」
がんがんと頭を打ち付け始めた隼斗の行動が理解出来ず、マヨイは隼斗を止めようとする。
しかし、隼斗が頭を打ち付ける行動は止められなかった。
しばらく打ち付けてから隼斗は冷静になったのか、しゃがみ込みマヨイの肩を掴む。
「――料理は俺がする。だから行くな」
「隼斗さんがりょうりしてくれるの?」
首をかしげながら尋ねると、隼斗は大きく頷いた。
「――じゃあ! おねがい!!」
マヨイは材料が詰まった箱を隼斗に手渡した。
マヨイが「お姉ちゃん」の元に行くのを阻止できたことに安堵した。
以前「お姉ちゃん」の元に行った際にどこから仕入れたのだと言いたくなる程の性的行為の方法を学んできたのだ。
その上「お姉ちゃん」は自分を監視しているらしく、マヨイがいない間の売春と相違ない行為内容を余すことなくマヨイに伝えたのだ。
自分から言うならともかく、見たこともない第三者にそのような口出しは二度とされたくなかった。
確かにあの行為は酷く興奮したし、満たされたが余計な手出しはしないで欲しい。
それに、できれば傍にいて欲しい。別に自分は体を売りたいわけではないのだ、孤独に耐えられないのだ、マヨイがいない恐怖に耐えきれないほど弱くなってしまっているのだ。
だからこそ、できるだけマヨイが外出しないようにしたかった。
そんな隼斗の気持ちなど気づきもせず、マヨイは楽しげに使い魔にぶら下げられていた。
隼斗はそんなマヨイを見て、小さくため息をつくと箱からいくつかの果物を手に取った。
「……林檎、か」
赤く熟した果実を見て呟くと、それをもって住処の奥にある台所へと移動した。
皮をむき、スライスした林檎を鍋で煮詰める。
焦げないように煮詰めながら、冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫の中には鶏の胸肉が入っていた。
手に取ると、使い魔がホワイトボードを持って近寄る。
ホワイトボードには「マヨイ様は生肉は食べれないが、火を通した物はお食べになる」と書かれていた。
その言葉に、隼斗は少し考えデザートが食べれるようになるまでのつなぎを作ることにした。
一人、部屋のベッドでじたばた遊んでいるマヨイは「姉」から貰った飴玉をなめながら待っていた。
どんな料理をつくってくれるんだろう?
ワクワクしながら待っていた。
「できたぞ」
隼斗の声に起き上がり這いずりながらテーブルへと移動する。
テーブルの上にはゆでた鶏胸肉をはさんだサンドイッチとサラダが並べられていた。
「たべていーい?」
首をかしげながら聞くと、隼斗は少しばかり嬉しそうに笑って頷いた。
使い魔がよそったサンドイッチに早速かぶりつく。
鶏胸肉はしっとりとしていて美味しかった、なんのソースか解らないがソースとも相性がいいし、一緒にはさんでいる野菜も美味しかった。
少しあぶられているパンも美味しかった。
サラダを口に放り込む、真っ赤なトマトの酸味と甘みがとてもよかった。
シーチキンとマヨネーズの相性は素敵だとも感じたし、レタスもしゃっきりしていてとてもよかった。
ムシャムシャと隼斗の手料理を口にするマヨイを、隼斗はぼーっと見つめていた。
正直に言って、マヨイの作法は作法をしらないこどものようでややみっともない食べ方なのだ。
けれど、この上なく美味しそうに食べるその姿がとても愛おしかった。
なにより、自分の手料理でそこまで嬉しそうにしてくれるのが隼斗にはこの上ない喜びだった。
「隼斗さんも、たべないの?」
虚無のような真っ黒な目をぱちくりとさせてマヨイが尋ねてきたので、隼斗は「ああ」と生返事で答えて一つだけサンドイッチを口にした。
自分の手料理なのに、やけに美味に感じられた。
何となく飲み物が欲しくなって珈琲をいれると、マヨイもねだってきた。
「……苦いから止めた方がいいと思うぞ?」
「にがい?じゃああまいのほしいー」
そういうので、ミルクと砂糖をたっぷりいれたものを渡すとマヨイは美味しそうにそれを飲み干した。
口についたミルクをみて、体の奥がぞくぞくしたが、堪えることにした。
そろそろデザートもよい頃合いだと判断した隼斗は席をいったんはずし、覚ましていたアップルパイを取りに行く。
パイの甘い香りが漂う。
うまくいったかと内心ほっとしつつテーブルに持って行き、ナイフで切り分けてマヨイに二切れほどよそう。
「あっぷるぱい! マヨイあっぷるぱいすき!」
マヨイはそういってパイをほおばる。
「あまずっぱい~!!」
そう言ってから少しだけ首をかしげた。
「……れいさんがつくってくれたあっぷるぱいとはちょっとちがうな?」
「……れい?」
何処かで隼斗はその名前に聞き覚えがあった。
「たんていさんなのー。マヨイによくあっぷるぱいとかおかしつくってくれたの! れいさんのぱいはすっぱいのだったり、あかいのだったりいっぱいあったの!」
楽しそうにいうマヨイの言葉に、隼斗はなんとなく敗北感を感じた。
アップルパイに何種類も種類があるのか?
いや、探偵で名前が「レイ」?まさか、あいつか?いやそんなまさか
頭の中で様々な事柄がぐるぐるとめぐる。
「隼斗さん、またマヨイにおかしとかごはん、つくってくれる?」
無邪気に笑うマヨイを見て、その考えを押し込めて笑い返すことにした。
隼斗の手料理を食べ終えたマヨイは、隼斗に近づき笑いながらいう。
「隼斗さん、ありがとう?マヨイはおりょうりできないから、べつのことでおれいするね?」
「お礼?」
マヨイの言葉に隼斗は首をかしげた。
「ねえ、隼斗さん」
「マヨイに、なにしてほしい?なに、されたい?」
無邪気な声色、無邪気な声でそういわれた途端、隼斗の体の芯がざわめく。
嗚呼、これは純粋にお礼をしたいという言葉なのに。
酷く蠱惑的に聞こえる、嗚呼からだがぞわぞわする。
いや、それとも入れ知恵?
そんなのどうでも良い。
隼斗は自分の表情が酷く醜い程に情欲に濡れているものに変動しているのが理解できた。
でも、それを先ほどまでの表情に戻すことはできなかった。
まるで懇願するような、哀願するような表情になっていた。
そんな隼斗を、マヨイはいつもと変わらない幼く無垢の笑顔で見つめる。
夜空の星を移したような闇の目が隼斗を写し出す。
隼斗は欲を押さえることができず懇願した――
ゆるやかな情交、それが始まり、隼斗は満たされる感覚に満足した──
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、pixivにも投稿中。
※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。
※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる