クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

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とある異形少女の末路~緋色の桜~

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 桜よ 紅の花を咲かせる桜よ
 あと何度 お前は紅の花を咲かせるのだ?


 真っ黒なコートを身にまとい、黒い鍔広の帽子を被った人物が人里離れた桜が咲き誇る場所を歩いていた。
 薄紅色の花を身にまとった桜の木々が時折風に吹かれて花弁を散らす。
 その人物は美しい薄紅の花たちには目も向けず歩き続けていた。
 やがて、桜の木は無くなり、この季節には決して咲くはずのない彼岸花が咲きほこる花畑へとたどりついた。
 花畑の中心にある少し高い丘に、緋色の花を咲かせる満開の桜の木が存在した。
 その人物はその赤い桜の木を視認すると、迷うことなく丘の方へと歩き出した。

 桜の木の近くにつくと、誰かが敷物を広げているのにその人物は気づく。
「やぁ、零さん。遅かったね」
 16歳程の少女――否、異形の落とし子フエがにっこりと笑って黒服の人物――零に声をかけた。
「……フエ、か。何故ここにいる? 君は此処には用はないと思うが?」
「そうだね、零さんがここに居る間直接関わっていなかったからね。まぁ、座ってよ」
 フエは笑顔のままぽんぽんと敷物を叩く。
 零は表情を変えないまま敷物に座った。
「ここら辺一体、人ロクにはいらなくなっちゃったねー」
「……一気に百人以上が此処で死亡したんだ、不吉でしかないだろう」
「でも自業自得でしょー?」
 フエはクッキーを口にしながら寝っ転がる。
「恨み姫を、作ったのは彼らだ。自分達の欲望で一人の女性を殺し、胎児も殺した」
「……確かに、彼らが彼女がこの世に出現するきっかけを生み出した」
 零が静かな口調で答えると、フエはにやにやと笑いながら零を見る。
「――ねぇ、どうしてこの場所が他と違うか知ってる?」
「……君達が関係しているのか?」
「正解」
 零の言葉に、フエはにんまりと口元に弧を描かせた。
「この木、私らの姉さんなんだ」
「……何?」
 フエの言葉に、零は眉をひそめた。
「人間的に言えば、精神を病んでしまったのさ。何も感じたくなくて、彼女が姿を木にした」
 フエは愛おしそうに木を撫でた。
「正確にはここら一体が姉さんなんだけどね」
「……つまり、此処に埋められたから恨み姫が生まれたと?」
「うん、正解」
 零の言葉にフエは微笑みを浮かべる。
「あと、彼女はまだ眠ってない。だってこの世は恨みで一杯だからね」
 フエは水筒からお茶をコップに注ぎ飲み干す。
「――あと、私達異形が消えない限り、ね」
 茶目っ気っぽく言うフェレスを見て、零はため息をついた。
「はい」
 フエレスはため息をつく零にカップを差し出す。
「せっかく綺麗に咲いてるんだし、お花見つきあってよ。今日は飲みたいの」
「未成年の姿で言うのはどうかと思うぞ」
「いいじゃない、お酒は飲まないんだし」
「よく分からないな、本当に」
 零はそう言ってカップに口を付けた。
 フエはにこにこと笑ってそれを見つめる。

 桜よ 悲しき異形の子よ
 貴方のその赤は 貴方が流す涙の色なのか?






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