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とある異形少女と番いの話~悪食少女と傭兵~

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 おにいちゃんとであったのはいつだっけ?
 まいごになってたときにであったのがはじめてだっけ?
 うーん、わかんないけど、まいごになってたとき、あたしをほごしてくれたの。
 そしておねーちゃんがむかえにくるまでまいにちおいしいりょうりをごちそうしてくれたの!
 うん、とってもとってもおいしかった!
 つがい?
 うーん、よくわからないや。
 でも、あたし、おにいちゃんとずっといっしょにいたい!




 最初の出逢いは砂の土地。
 廃墟と化したそこで、敵対するテロリスト共に俺が囲まれた時だった。
 見ようによっては絶体絶命のピンチというべき状態だが、その時の俺はいかにして連中を虐殺するかしか頭になかった。
 そしてそれを考えていた時、テロリスト共の内の一人の頭が何かにかじられたように消え失せた。
 真っ赤な血が吹き上がり、一気にその場所は混乱に満ちた。
 テロリスト共が何かに食いちぎられて死んでいくのだ。
 耳に響く銃声が10分ほど響き続けていたが、10分ほどで消えた。
 俺は周囲を確認しつつ状況把握を開始した。
 その時だ、俺は彼女を見たのだ。

 肉塊と化したテロリスト共の肉を頬張り、口を真っ赤に染め上げ、腕についた血を舐め上げていた。
 そう「食事」をしている彼女と出会った。
 白い肌を血で汚し、白い牙で肉を上ちぎり、そしてこの上なく至福を感じているのが解る恍惚とした表情での「食事」は、とても、とても美しかった。
 彼女は顔が血で汚れすぎたのに気づくと、どこからか出したタオルで顔を拭いた。
 白い肌の人形では決して作れない美しくも愛らしい顔のつくりがはっきりと視認できた。
 鮮やかな赤い目で、うっとりと肉塊を見つめながら頬張っていた。
 先ほどの獣じみている所作とは違う丁寧な所作で口にしてはじめており、とても美しく思えた。
 思わず口元がにやけるのが解った。
 全身が興奮し、いきり立つのが理解できた。

 嗚呼
 嗚呼
 なんて、なんて美しい

 近くで見ようとするあまり、俺は音を立ててしまった。
 ハッとその音に気づいた彼女は驚愕の表情に変えてその場から姿を消してしまった。
 慌てて血だらけのその場所に戻ると、真っ赤に汚れたタオルが一枚あるだけだった。
 俺はそれを見つからぬうちにしまうと、急いでその場を後にした。


 しばらくして、俺は彼女が「悪食」と呼ばれる「異形の子」であることを知る。
 名前は「エル」と呼ばれているそうだ。
 これだけで十分の収穫だった。
 異形に詳しいという探偵から何とか情報を引き出し、彼女が好んで「食べ」そうな「悪人」の近くにいることにした。
 おかげで、俺は何度か遭遇することができたが彼女は俺に気づくとすぐさま姿を消してしまった。
 俺は、彼女が欲しかった、彼女が傍に居て欲しい、傍にいたいだけなのに……


 そして1年と半年が過ぎた頃、急に彼女は姿を消した。
 彼女がやったと思われるテロリストの大量殺人を最後に姿を消したのだ。
 俺は怖くなった。
 彼女が居なくなった、この世から居なくなったのではないかと恐ろしくなった。
 居なくなった世界になんて生きていたくない、本当は姿を消してるだけなんじゃないか、だったら死にたくない、会いたい。
 ぐるぐると死亡欲求と生存欲求を交差させながら半年間探し続けた。

 そして、ちょうどテロリストが潜伏していると情報を得たマンションで、俺は見た。
 真っ赤な服をきた、5歳程の少女が人の腕を食べているのを。
 血まみれになったその場所で、美味しそうにそれを食べている幼子を。

 彼女だ。

 姿が変わっても解った。彼女だと。
 何故そんな姿になったのかは解らなかった。
 俺は何としてでも彼女をこの腕におさめたかった。
 足音を立てないように近づいて、ようやく腕に抱けるというところまでたどりついた途端、彼女は俺に気がついてしまった。
 食べている腕を大事そうに抱えて、慌てて逃げ出したが10歩もいかないところで転んだ。
 おもいっきり顔を床にぶつけたらしく、小鳥のような声で泣き始めた。
 欲にまみれた表情を何とか押さえ込み、ゆっくりと彼女に近づいて抱き上げる。
 血と涙で汚れた顔をハンカチでぬぐうと、綺麗で愛らしい白い顔が洗われた。
「迷子か?」
 問いかければ、彼女は大きな赤い目を開いたまま頷いた。
「どこからきた?」
 彼女は困った顔をして首をふった。
「迎えは?」
 彼女は顔をうつむかせて再び泣き始めた。
 鳥の雛が親を求めるような声で泣き声を上げていた。

 嗚呼、泣かないで
 泣かないで

「……迎えが来るまで一緒にいよう。一緒に待とう」
 そういうと、彼女は嬉しそうに笑った。
 抱き上げれば、重さが感じられないほど軽かった。
 縫いぐるみを抱いているように感じた。
 無邪気に笑うその様が愛おしくてたまらなかった。
 迎えなど、永遠に来なければいいのにそう思った。


 1日目、ちまたで噂の連続殺人犯を見つけた、彼女が腹をすかせているのでちょうど良かった。
 首を切断し、血を抜いた。
 首を真っ二つにしそこねたのでばたばたと暴れたのが面倒だった。
 次回はきっちり真っ二つにしようと思った。
 生のまま食べてもらうのはいやだったので、料理することにした。
 熟成させたかったが時間がないので、圧力鍋を使うことにした。
 筋が多そうな見た目だったので、煮込み料理にして出すと彼女は目をまるくした。
 料理をする工程を見ていたので、それが何なのか理解し、おそるおそる口にした途端嬉しそうな顔をした。
 おかわりまでねだってくるのは料理した側としては嬉しかった。

 2日目、計画殺人で遺産を奪っていく殺人者を見つけた。
 見目が若い女だったから、少し声をかけただけであっさり落とせた。
 意識のない討ちに首を切断し、血を抜く。
 まだ、昨日の分が残っているので、この女は明日に使うことにした。
 昨日の残った「食材」を使って料理する。
 少し柔らかくなっているので、焼いてみることにした。
 ナイフとフォークが上手く使えないらしいので賽子状に切ると、嬉しそうに食べ始めた。
 ああ、可愛らしい。

 3日目、昨日手に入れた「食材」を使うことにした。
 今日は「食材」が見つからなかったのが残念だ。
 野菜などを詰めて料理することにした。
 野菜を単体で食べるのはいやらしいので、まとめて食べれるようにサイズも小さくしておく。
 予想通り、食べてもらえた。
 食べている姿は愛らしいし、綺麗だ。赤い液体で汚れている様も綺麗だ。


 そして4日目、見知らぬ女がやってきた。
 真っ赤な着物を身にまとった女だ。
 青い煙をくねらせながら煙管に口を付け、青い煙を吐き出す。

 いやだ、ああいやだ
 彼女を迎えにきたのか?
 いやだいやだいやだいやだいやだ!!
 俺から彼女を奪うな、やっと手に入れたんだ!!
 やっと抱きしめれるんだ!!
 やめろやめてくれ!!



 目の前で、黒い服を着た男がエルを抱きしめている。
 エルはぽんぽんと男の背中をなでている。
 男はうわごとのように「いやだいやだ」とばかり呟いている。
 エルを返してもらいたいだけなのに、何故こうなるのだ。
 フェレスは後ろで考え事をしているようで役にたたんし。
 現在の私ではへたにちょっかいを出すと大事になりかねない。

 私が悩んでいるとフェレスが前にでて男に近づく。
「エル、お家に帰らないの?」
「……やー。おにーちゃんがといっしょいいー」
「おにいちゃんと一緒ならお家に帰る?」
「うん、いっしょならかえるのー」
 エルがそういうと、フェレスは穏やかな笑みを浮かべたまま男を見る。
「ジンさん。申し出があります。貴方が望むならエルの暫定的な従者として私達についてきてくれませんか?」
 フェレスの言葉に男が驚いたような顔をしてこちらをむく。
 涙でぐしゃぐしゃになっても色男なところは変わってないが。
「エルは貴方が気に入ったそうです、今までと違う生活になることはほぼ確定なのですが宜しければ」



 赤い服を着た女とは違う16程の女が俺に向かって言った。
「エルは貴方が気に入ったそうです、今までと違う生活になることはほぼ確定なのですが宜しければ」
 白い手を差し出してきた。
 彼女――エルはにっこりと笑って「だいじょうぶだよ?」と言う。
 俺は、その手を取ると、女は黒い目を赤く輝かせていった。
「――ようこそ、ジン」

「私達異形の子らは、君を歓迎しよう」

 黒い液体が腕にまとわりつくのが解った。
 それが、祝福だと理解できた。

 嗚呼、これで、これでずっと
 貴方と一緒にいれる



 きょうも、ごはんはおいしい。
 おにいちゃんのりょうりはおいしい。
「エル様。人参を残してはいけませんよ」
「やー」
 でもおやさいきらい。
 くびをふると、おにいちゃんはフォークににんじんをさした。
「いけませんよ。さぁ、あーん」
「うー」
 くちをあけると、にんじんがはいってくる。
 まえよりはたべれるようになったけど、あたしはおにくのほうがすきだなー
「エル様は良い子ですね、ちゃんと食べたらデザートですよ」
「うん。あたしいいこだからたべれるよ」
 でもでざーとはすきだからがまんするの。
「今日はイチゴのゼリーです」
「いちごぜりー!だいすき!」
「はい、ではごはんを食べましょうね」
 おにいちゃんがそういうからちゃんとたべるの。
 あしたもあさっても、おにいちゃんといっしょにいたいな。
 いっしょにごはんたべたいな。



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