クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

文字の大きさ
上 下
6 / 238

愚かな男は無垢な異形に恋をした~優しさを与えられた結果~

しおりを挟む




 隼斗の耳元に聞き慣れた澄んだ唸り声が聞こえてくる。
 よく知った手の感触が頬に伝わる。
 重たい瞼を上げると、そこには見知った異形の少女――マヨイがいた。
 隼斗はわずかに口元を動かしたが上手く声が出せなかった。
 体も痛みはないが全身が重く、指を動かすのさえ億劫な程だった。
「う゛ー……」
 マヨイの白く柔らかい手が、隼斗の頬を撫でる。
 闇色の目が隼斗を不安そうに見つめる。
 手を伸ばして頭を撫でようとしても、腕が重くて動かなかった。

 先日、フエに散々犯された結果、隼斗はマヨイがどれほど優しく自分に触れていたのかを痛感させられた。
 時折覚醒させられては、容赦なく性感帯を嬲られ苦痛の中で絶頂させられる。
 行われたものもう散々なものばかりだった。

 フエの行為は手加減はしているものの、隼斗の体の都合をほとんど無視したものだった。
 マヨイがどれほど、自分との行為中に手加減し、自分を労っているのかよく解った。
 自分を労っているから、苦痛を与える行為は一切控え、また苦痛になりかねない箇所はできるだけそれを和らげるようにする。
 どれだけ自分がマヨイに甘やかされていたか、甘えていたかを痛感させられた。

 優しく自分の頬を撫でるマヨイに、隼斗は視線を向ける。
「うー?」
 マヨイは首をかしげて隼斗を見る。
「……」
 何かしゃべろうとしたが、声がでないのを思い出しすぐさま口を閉じた。
 マヨイは何かを感じ取ったのか、考えるような仕草をした。
 そして、にこりと笑ったかと思うと、隼斗に顔を近づけた。
 口を開いて、隼斗の口を食むように口づける。
 隼斗の口内に甘くとろりとした液体が流れ込み喉に落ちる。
 液体が喉にまとわりつき、じわじわとしみこんでいくような感じがした。
 喉の全てが覆われるような感触が伝わると同時に、漸く隼斗の口は解放された。
 口端から琥珀色の液体が零れた。
「う゛ー……」
 マヨイは唸りながら舌をひっこめた。
「のど、だいじょうぶ? よくなった?」
 隼斗はマヨイの言葉の意味を理解し、口を開く。
 喉から普段よりも小さいながらも声が零れた。
「……すまない」
「きにしなくていいのー」
 にこにこと笑いながらマヨイは隼斗の額を撫でた。


 よしよしと自分の頭を撫でるマヨイを見て、なんとも言えない気持ちになった。

 此処に来てから、全てマヨイに依存し続けているのだ。
 居なくなると、自分を保てなくなるほどに依存している。
 だから、男に体を売るような事をして必死に保たせていた。
 そうでもしないと、あのときの光景と自分だけが生き残ったという事実に耐えきれなくなるのだ。
 生きていることが苦痛でたまらないのだ。
 けれども、あの日マヨイが言った我が儘が、「生きて欲しい」という言葉が、自分に生きることを強要する。
 ただ一つの我が儘、酷く重く、辛く、苦しいのだ。

 けれども、その我が儘が、酷く甘く、優しく、愛おしく感じるも事実だった。

 まだ動かすのも億劫な手を伸ばし、隼斗はマヨイの頬を撫でた。
 マヨイは一瞬きょとんと目を丸くしたが、直ぐに嬉しそうな表情になり、目を細めて手に頬ずりした。

 打算や、思惑など、そんなものはない願い。
 互いの利益ばかりが絡まる世界とは異なる縁の中で生きていたであろう彼女の純粋な願い、我が儘。
 自分をこれからも、縛り生かし続けるのだろうという予感はしている。
 それに、既にこの体もかつてのものとは異なる状態なのもなんとなく想像はできた。
 過去の自分なら悲観しただろうが、今の隼斗にはそのような感情はなく、寧ろどこか喜んでいる節すらある。

 隼斗はもう片方の腕も伸ばし、マヨイの肩を掴む。
「……? 隼斗さん、なぁに?」
「……なぁ、マヨイ。いっしょに、眠ってくれないか……? 一人で眠るのは、いや、なんだ……」
 隼斗が小さな声でそういうと、マヨイは少し驚いた顔をしたが、直ぐに嬉しそうな顔をして隼斗の腕の中に収まるような格好になり、抱きついた。
 マヨイはえへへと嬉しそうな声をあげた。
「いっしょにおひるねー」
「……ああ、一緒に眠ろう」
 隼斗は腕の中にマヨイをおさめると笑みを浮かべた。

 酷く欲に濡れ、淫靡で壮絶な笑みだった。


 こんなにも無垢な存在が今俺の腕の中にある
 どうか、どうか無垢なままでいてくれ
 俺はどこまでも汚れて、惨めでいられる
 君が無垢なまま笑ってくれているのなら
 俺は何処までも汚れていこう

 だから、どうか俺だけを――

 ア イ シ テ ク レ





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...