39 / 49
幸せにおなりなさい~その言葉を受け止められず~
幸せに──~ようやく腑に落ちた~
しおりを挟む「……ところで王妃様」
「何だアトリア」
「最初会った時と口調違いません?」
「アレは対外的だ、こちらが本性だ」
王妃様はにやりと笑った。
「は、はぁ」
「前王妃そして私の唯一無二と言ってもいい友の名に恥じぬ王妃としての振るまいを普段しているだけだ、王妃よりも私的な今は本性を出している」
「バレて大変な事になりません?」
「国中じゃ前王妃の名を汚すまいとやっているのを知ってるからな、本性もわりと知られている。本性の私は男勝りなのでな」
「は、はぁ……」
王妃様にすっかりだじだじな私。
「今のが苦手なら、最初あった時ような言い方をしようか?」
「いえ、今の方が気が楽です……」
「それならいい」
王妃様は満足そうに笑った。
「さてアトリアよ、お前は自分があの六人にふさわしくないと思い始めているな」
ぎく!
王妃様に図星を指され、私は視線を泳がせる。
「其方嘘が本当に下手だな、隠し事も」
「は、はい……」
「ふさわしくない、などという言葉は本人達が納得しているなら気にしなくていいことだ」
「はぁ……」
「お前は婚前交渉までしているし、アルフォンスだけでなく他の五人も大切に思ってるのだろう」
「婚前交渉は不可抗力といいますか……確かに私は皆さんを大切に思っております」
「ならそれでいいではないか」
「でも……」
「それで文句を言ってくる輩がいるなら私達にいうか、バロウズ公爵殿に連絡しろ、物理的にも精神的にも息の根をとめてくれるぞ」
「ひぇぇ……」
「上の子がいるから相談するのも手だぞ」
「さ、最終手段にしておきます……」
学園内ではあってはいないが、最終手段にしておこうと私は思った。
「ともかく、アトリア。幸せになりなさい」
王妃様はそうわらって私の頭を撫でて屋敷を出て行かれた。
「幸せに、おなりなさい……」
母の言葉。
でも、自分なんかがそれを受け入れていいものか、どうか。
どうしても悩んでしまう。
「アトリア」
講義が終わり、一人図書館にいると、一度聞いた覚えのある女性の声が私の鼓膜に入ってきた。
顔を上げると、あのバロウズ公爵夫妻の奥さんの顔によく似た女性だった。
「アリスさん?」
「アリスで結構ですわ、アトリア」
アリスさん──アリスはにこりと笑って私の隣に座った。
「もしくはアリス姉様でもよくってよ」
「あ、アリス姉様」
「もう、アトリアは本当に素直で可愛いわ」
そう言って私を抱きしめた。
「あ、アリス姉様も学園にいらっしゃったのですね」
「そうよ、何かあったら私に言いなさい、例え殿下でもバロウズ公爵家は容赦はしないわ」
「ひょぇぇ……」
「と、冗談はさておいて」
アリス姉様は真顔になった。
「アトリア、貴方幸せになっていいのか悩んで居るようね」
「はい……」
「貴方は大変な事が色々とあったものね」
「ええ……」
生まれて半年で父が死に
母は心と体を病み
その分自分が支えてきた。
復讐相手が目の前に来たとき、母を止めた。
悔しいと泣く母を慰めることしかできなかった。
だから奴に罪を突きつけ続けた。
そんな私が。
彼らのような素晴らしい六人と婚約した。
そしてそれに安堵したかのように母は死んだ。
独りぼっちになった。
けれど彼らが側に居てくれた。
彼らのおかげで魔王にならずにすんだ。
それからも色々あった。
そして結婚した。
でも──
頼ってばかりの私が、彼らに愛を返せない私が一緒にいていいんだろうか?
本当に幸せになっていいのだろうか?
「アトリア」
「はい、アリス姉様」
「貴方は、幸せになっていいのよ。このアリス・バロウズが保証するわ」
「はぁ……」
「だって貴方は」
「幸せになって欲しいと、貴方を愛している人たちに思われているから」
アリス姉様は微笑んだ。
すとんと、何か落ちるような気がした。
気が楽になった、とかピースがはまったとかそんな感じ。
──ああ、私、愛されて、幸せになっていいんだ──
漸くそう思えた。
「と、本来はこの台詞をいうのは殿下達であるべきだけども、殿下達はこういうところでなんかやらかすから私が言うことにしたわ」
「はははは……」
乾いた笑みを浮かべてしまう。
確かに殿下達だと、そうなるだろう。
すとんと落ちたが、まだしこりはある。
「貴方がアルフォンス殿下達へ愛を返せないのは仕方ないこと、でも大切だと思えるなら、それは愛よりも尊い」
「アリス姉様……」
「──という訳で」
「?」
「そこでこそこそ見ている方々出てらっしゃい」
見かけたことのあるようなないような方々が姿を現す。
「貴方方が殿下達の間に割って入ることなど不可能、殿下達は我が弟アトリアを深く愛しているのだから」
悔しそうな顔をしている。
「ああ、そうそう、アトリアに何かしてみなさい」
「アルフォンス殿下が貴方達を潰す前に私達バロウズ公爵家が一丸となって再起不能になるまで潰しますから」
その方々はひっと悲鳴を上げて逃げていった。
「そしてそこで出損ねているアルフォンス殿下と他の方々?」
「ははは……出るタイミングを完全に逃してしまったよ」
「全くです」
アルフォンス殿下の言葉にアリス姉様は怒ったような声をだした。
「私達のアトリアを貴方方にお任せするのですから、ちゃんとしてくれなくては困ります」
「ああ、すみません。アリス嬢」
アリス姉様はふんと鼻を鳴らすと、
「私達のアトリアをお任せするのだから、しっかりして下さい」
同じ事を言った。
大事なことなので二度言います的な?
「はい、分かって下ります、バロウズ公爵殿のアリス嬢」
「勿論です、アリス嬢」
「わかっています、アリス嬢」
「分かって下りますわ、アリス様」
「勿論ですわ、アリス様」
「承知してますわ、アリス様」
「返事が良いのはよろしいですわ、でも行動に出さなかったら私怒りますからね」
「「「「「「はい!」」」」」」
元気よく返事をする六人。
バロウズ公爵家、怒らせると国王陛下でも困るレベルで怖いんだろうなぁ。
と、今更ながら思う私であった。
「アトリア」
「はい、アリス姉様」
アリス姉様はこちらを見て微笑んだ。
「幸せにおなりなさい」
そう言ってその場を後にした。
──はい、幸せになります──
心の中でそう思いながら見送った──
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?



異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる