TS転生した恋愛感情が分からないダンピール~ヒロイン不在の乙女ゲームの世界で私は魔王になんてならないしハーレムも逆ハーレムも勘弁して!~

琴葉悠

文字の大きさ
上 下
38 / 49
幸せにおなりなさい~その言葉を受け止められず~

大切だと思う~だけれども~

しおりを挟む



 恋愛感情が分からない。
 だけども、彼らは大切だ。
 それで、いいのだろうか。

「いいと思いますよ」
 ジゼルに問いかけると彼女は笑った。
「でも、あんまり私にばかり構わないほうがいいですよ、貴方はもう結婚してるのですから」
「うん、そうだね。でも相談できる相手が……」
「セバスさんがいいでしょう」
「わかりました、そうします」
 とジゼルさんに頭を下げてから屋敷へと戻る。
「セバスさん、ちょっと相談したいのですが……」
「私でよければ何なりと」
 セバスさんがそういうのでジゼルと同じように聞くことにした。

「私、皆さんからの恋愛感情に大切だとしか返せないんですよ。それでもいいんですか?」

 セバスさんはきょとんとしてからくすくすと笑った。
「そんな事で悩んでいらっしゃったのですか」
「そんな事とは失礼な」
「これは失礼」
 セバスさんはごほんと咳をして、私を見た。
「アトリア様は皆様を大切に思っていらっしゃる、それは家族のように、ですね」
「ええ」
「なら、それでいいんですよ」
「それでいい?」
「皆様を家族として大切にしているのであれば、それは恋愛感情以上に尊いものです」
「……尊い、もの」
「アトリア様、どうか幸せにおなり下さい」
「……はい……」




 恋愛感情以上に尊い物、それはどんなものなのだろう。
 この気持ちはそういう物なのだろうか。
 自分ではよく分からないけど、他人が言うならそうなのだろう。




 そして長期休暇が終わり、講義が、学園が再開した。
 休みの間に、私がバロウズ公爵の養子になっていた事が公表されていたらしく、他の学生はバロウズ公爵はどんな人だと聞いてきた。
 ので私は──

「噂とは少々違う方でしたよ」

 とだけ話した。
 嘘は言っていない。

「アトリア様」
「セバスさん、何でしょう?」
「王宮から伴侶教育を受けて欲しいと要望が」
「あー……」
 だよなぁ、アルフォンス殿下の伴侶になったんだから。
 この伴侶教育って、妃教育みたいなもんだよな。

 私はそう思いながらセバスさんと、他の侍女と教師のような女性に伴侶教育を受けることになった。

 講義が終わったら図書館で読書をする時間が無くなったのは仕方ないが、私がアルフォンス殿下──王太子の伴侶になるのだから仕方ない。

 ただ、正直色々と大変だった。
 ダンスのレッスンやら、公務についてやら、色々と教育内容がわかれていて大変だった。


 次期国王の伴侶たるもの──とかまぁ色々、ちょっとげんなりした。


「結構きついですね」
「申し訳ないです」
 アルフォンス殿下に思わず愚痴る。

「私の伴侶になったばかりに……」
「まぁ、皆さんの伴侶になった時点で色々あるだろうとは思ってましたが、これはきつい」
「アトリア、きついなら無理せず休めばいいのよ?」
 ミスティが言うが私は首を振る。
「いえ、だって義務ですか──」
 ばんと扉が開け放たれる音がした。
 セバスさんが背筋を伸ばし、そして頭を下げる。
 アルフォンス殿下以外が頭を下げた。
 私も反射的に頭を下げる。
「私の義理の息子であり、次期国王であるアルフォンスの伴侶、アトリア・バロウズ」
 あれ王妃様ってこんな感じだったっけ?
「は、はい」
「顔を上げなさい」
 恐る恐る顔を上げると、黒い髪に赤い目の美丈夫が経っていた。
 その女性はふっと笑うと私の頬をむにむにし始めた。
「聞いたぞ、伴侶教育で無理をしていると。無理をさせている教師には私が注意をしておいた」
「で、ですが王妃様……」
 その女性──現王妃様は笑う。
「伴侶教育など今無理にする必要はない、夫を叱っておいた、今は学生を楽しみ、卒業後でも大丈夫だろう、とな」
 口調は王妃様とは言いがたいが、優しい内容の言葉にじんわりと涙が滲んできた。

 無理をするのは好きじゃ無い。

「アルフォンス」  
「は、はい義母上ははうえ。」
「大事な伴侶が無理してるのに、それに甘えるとはどういう事だお前!」
 とアルフォンス殿下を説教しはじめた。
「全く、お前と夫は本当に駄目な所はそっくりだ!」
「う、うぐ……」
「お前の母は無理をし続けて死んだのを忘れたか⁈ 私が言っても聞かない彼女だったから仕方ないが、それの二の舞にさせたいのか⁈」
「いいえ、誓って!」
「なら、お前が伴侶たる彼を守らねばならないだろう!」
「はい!」
「分かったらすることは⁈」
「父上と教育担当の者に直訴します!」
「よろしい、私もやってきたが、息子の言葉があった方がいい、さあ行ってこい!」
「はい!」
「あと、あまりバロウズ家の者を苦しめると、何が起こるか分からんぞとも言っておけ、夫もバロウズ家の者達は恐れているからな」

──そんなに?──

 そんな風に見えなかった。
 アルフォンス殿下は急ぎ足で屋敷を出て行った。
「バロウズ公爵家の方はそれほど影響力があるのですか?」
「公爵という位置に居るが本来ならば大公と呼ばれるべき立場の存在だ、公爵を名乗ってるのにすぎん。吸血鬼至上主義の者達はともかく、今のバロウズ公爵は恐ろしい存在だとも、身内に怪我をさせたら何をしでかすか分かった物では無い」
「それほど、なのですか?」
「隠居した曾祖父は大戦で凄まじい戦歴をあげた、そして今の代のバロウズ公爵も大戦が起きたとき凄まじい戦歴をあげた、戦鬼とはまさにあれのことを言うのであろう」
「うわぁ」
 今更ながらとんでもない方の養子になっちゃったと思い始める私。
「まぁ、身内には甘いからな、わりと。吸血鬼至上主義になった馬鹿共はともかく」
「あー、そういえばバロウズ公爵様、吸血鬼至上主義の祖父母と父母の事を国王陛下に報告して処刑させてそれで自分が公爵の地位に就いたっていってましたもんね」
「一人っ子だったしな、まさか自分の息子が自分を処刑するように仕向けるとは思わないだろう連中も」
「……そうですね」
「彼奴は身内でも馬鹿には冷酷だぞ」
「あの、良くしていただいたし、お子様達に至っては反抗期だったのですが……」
「ああ、そういう馬鹿じゃなくてな、他者を自分の気分で、無辜の民を害なすような愚か者には厳しいというだけだ」
「……あの、私」
「お前は復讐心を持っている、それは知ってる、向こうも」
 王妃様は淡々とおっしゃられる。
「だが、復讐相手は再起不能になり、お前はそれで終わりとした。自分が手を下していないのにもかかわらず」
「……」
「向こうが贖罪を込めて死のうとした時には助けたとまで聞いた、お前は根っからの──」

「善性なのだろうよ」

「そんなこと……ありません」
 私は否定する。
 今も苦しんでいるであろう、奴の事を考えると少しすっきりする。
 そのくらい、復讐心はまだあるのだ。

 私なんかを救おうとして命知らずの行いをした奴が、結果苦しむ生を残されていることが私の救いなのだ。

 私は根っからの復讐者なのだ。

 善性ではない。


 そう、だから時折思ってしまう。
 彼らに、本当に私はふさわしいのかと──





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...