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家族を失う~それでも支えられて魔王の運命に抗う~
爆弾発言と夏休み~悪意への対策~
しおりを挟む「……」
一人部屋でぼーっとベッドに横になっている。
『おにいちゃん、どうしたの?』
シルフィが姿を現す。
「いや、どうしても復讐心は捨てられなくて苦しいんだ」
『それはおにいちゃんのもんだいだからしるふぃはなにもしてあげられないの、ごめんね?』
「いや、いいんだ。君の言う通り私の問題だ。ところで……」
『なに?』
「その君が私を守る条件ってなにかなって? もしかして私が童貞処女だから⁇」
思い切って聞いてみる。
『ちがうよー、おにいちゃんにはわたしのしいんをたしかめなおしてくれたおんがあるから、あとまおうがうまれるのはよくないから、なの』
「ああ、童貞と処女とかは関係ないのね……」
『そう、かんけいないの!』
「……ちょっと待て、童貞と処女はわかってるの⁈」
『かみさまがおしえてくれたの!』
かーみーさーまー!
ちっちゃい子に何教えとんの‼
私は頭を抱える。
『おとこのひとにもしょじょあるんだなーっておもったの』
かーみーさーまー!
文句を言いたい。
『かみさまからじょげんなの、「ほかのろくにんとさっさとしてしまえばやつにおかされてもまおうにならずにすむ」って』
神様ー‼‼‼
おいこら、こちとら、恋愛感情未だ分からないままで、性欲もないに等しいのにそんなことできるか‼‼
『とりあえず、おにいちゃん、がんばってね!』
シルフィが消える。
私は盛大にため息をつく。
童貞と処女捨てろと言われたのだ、もうやってられん。
なんとか捨てずに、復讐心も捨てずにやりきりたい、復讐を。
そうすればきっと心が晴れるはずだ。
魔王になんてならなくて済むはずだ。
そう思った。
そう思って講義を受け、休日は休むというのを繰り返して半年近く経過した。
「これから長期休暇です、帰る学生達は長期外出届けを出してください」
夏休みになってしまった。
「アトリアはどうするんですか?」
「家に帰ってもやることがないし、学園に居ようかと……」
「それなら私の避暑地に来てください、良いところですよ」
「ちょっとアルフォンス殿下、抜け駆けは──」
「勿論皆さんも来てください」
「そう? じゃあ私は一端家に帰って支度をしてから行きますから、アルフォンス殿下はアトリアに手をださないように」
「ははは、それはどうかな」
「アルフォンス殿下~~⁈」
「冗談だよ」
「冗談に聞こえませんわ」
「いえ、私は行くとは……」
「アトリア?」
アルフォンス殿下の圧。
「……はい、行きます」
小声でそう言うしかなかった。
「わぁ……!」
避暑地は木々が生い茂り、屋敷の庭は綺麗に整えられ、複数の従者達が出迎えてきた。
「アルフォンス殿下、そしてアトリア様、レオン様、ようこそお越しくださいました」
「うん、いつもありがとう。では部屋に案内を」
「はい」
セバスさんは私達の荷物を運び入れてくれた。
部屋は綺麗で、装飾品も品のあるもので素敵な部屋だった。
ふと、こんな綺麗な部屋に自分がいていいものか悩む。
「アトリア、何を悩んでいるのです?」
アルフォンス殿下がやってきた。
「いえ、こんな綺麗な部屋に私がいていいのかと……」
「ははは、勿論だとも」
軽やかに笑っているアルフォンス殿下に私はなんとなく申し訳なくなった。
こんなに愛されているのに、彼らの愛を理解できないことが。
「アトリア、湖を散策しよう」
「はい」
そう言って湖を散策していると、アルフォンス殿下が従者の誰かに呼ばれ少し離れてしまう。
私は湖をのぞき込んだ。
すると誰かに背中を押され、湖に落ちてしまう。
流れ水──水はあまり得意じゃない。
泳ぐのは苦手だ。
溺れそうになったその時、誰かが私を抱きしめ運んでくれた。
ぐったりしながら誰か確認すると、レオンだった。
セバスさんが女性の従者を取り押さえている。
何か騒いだりわめき散らしているようだが、私の耳には入ってこなかった。
目覚めるとベッドの上で、着替えもさせられていた。
「私は……」
「すまないアトリア、新人のメイドが君を突き飛ばしたのだ」
「……私は来ない方が良かったかもしれません」
「いや、そんなことはない! 悪いのはそのメイドだ、既に首にして王都に送り返し、処刑待ちだよ。私の婚約者を危険にさらしたという名目でね」
「アルフォンス殿下……」
「そうだぞ、アトリア。お前が気を病むことでは無い。念のため他の連中が同じ事をしないか調べたが大丈夫そうだ」
どうやって調べたんだろう?
「俺の一族は嘘や人の感情を見抜く目と耳を持って生まれることがある。それをもって生まれた者が次の長になる、それが俺だ」
「……」
そういえば、そんな設定だったような……。
だからヘテロクロミアなのか……。
と今更ながら思い出して納得する。
「お前だから言うんだぞ」
レオンが釘を刺すように言う。
「レオン……貴方が助けてくれたんですね……」
「そうだ、俺は常にお前達の影にいる」
「……有り難う、レオン」
レオンはそう言うと咳をした。
「……礼は不要だ、俺達はそういう間柄だ」
「それでもです……」
「んん、二人ともいい雰囲気になってるところ悪いけどいいかな?」
え、なってた?
アルフォンス殿下が笑ってない笑顔で言う。
あ、なってたのか。
「さて、では食事にしましょうか」
アルフォンス殿下がそう言うので食事をとることにした。
外を見れば日が暮れていたし、そんな時間か、となった。
食事が並べられるが口にする前に、レオンがじっと眺め、問題ないから食べろと言われた。
毒とかも見抜くちからがあるのかなと思いながら口にする。
ジューシーなソーセージは美味いし、スクランブルエッグも美味しい。
パンも柔らかくて美味しかった。
果実水ものどごしが良かった。
「ふぅ美味しかったです」
「感謝の極みでございます」
とこの屋敷の従者達が頭を下げた。
その夜、私は静かに眠ることにした──
二日後──
「そんな事があっただなんて、アルフォンス殿下。従者の見分けはしっかりしなくては駄目よ‼」
「そうですわ‼」
「全くその通りだ」
「いや、見極めはしているはずなのだが……」
アルフォンス殿下は渋い顔をしている。
私は口を開いた。
「ヴァイエンが彼女に何か吹き込んだのでは?」
「そういえばメイドが言っていたな、『あのダンピールは殿下のみならず複数の者達をたらしこんでいる娼婦よりも酷い存在だ、そんな存在ふさわしくないだろう?』と言われてやったから悪くないと、悪いのはその男だと」
ヴァイエン……
さて、どうしたものか……
ヴァイエンが人の悪心を増大させるとしたらとんでもないことになる。
私はどうするべきか悩んだ──
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