光は憤怒の闇に抱かれて堕ちる~狂気に堕ちた父は我が子を孕ませる~

琴葉悠

文字の大きさ
上 下
19 / 22
この壊れた世界で

触手の助言

しおりを挟む




 目覚めて以来、ルミエールは優しい顔が見えない女性との夢と「以前」はどこか怖い印象を持っていた触手の生き物に依存するようになった。
 父との苦しいまぐわいに心身ともに疲弊した状態で連れていかれ、まぐわいの苦痛に心身ともに追い込まれている自分を触手達は強引に父から取り上げて、優しく撫でてくれる、そして包み込んで夢を見せてくれるのだ。

 あの甘く、優しい、蕩けるような快感と絶頂の夢を。

 その夢を見ている間、触手は自分に「何か」しているらしいがルミエールは何か思い出せなかった。
 でも、別にもうそれでもいいと思い始めていた、自分のよりどころとなってくれる「夢」があるのだ、それに浸れるなら、苦しいのも我慢できる。
 そう言い聞かせて、父の暴力的で獣じみたくるしいまぐわいを乗り越えて、二つの甘い「夢」に浸って心と体を癒すのがルミエールの日課になっていた。




 最愛の我が子であるルミエールを三ヶ月ぶり抱いて以来、ラースの機嫌は以前とは別の意味で酷く不機嫌になっていた。

 あれ以降、あの生き物は自分への対応がぞんざいになっている、仕事をしているらしいが、部屋に入るなり今までの細い触手ではなく明らかに人型なら頭が吹っ飛びかねない程の威力を持つ触手でラースを殴った上でルミエールを無数の触手で取り上げるように持っていくのだ。
 ルミエールが嫌がるならまだそこまで機嫌は悪くなることは無い、だがルミエールは目覚めて最初の触手による開発以降触手にまるで依存するかのようにうっとりとした表情を浮かべて身をゆだねるのだ。

 故に、ラースの機嫌は悪くなっていた。
 その為か日に日にルミエールを抱くときも手酷く抱いてしまう。


 結果、ルミエールの触手への依存は増す一方だった。


 気になることはもう一つ、触手以外に、ルミエールは眠っている時だけ穏やかなで幸せそうな表情を浮かべていることだ。
 これはつい最近気づいたことだが。
 どんな夢を見ているのか――と見ようとしたが、何故かラースにはその夢は「ぼやけて」
見えてしまう為、内容を把握できなかった。
 それに忌々しさを感じ、破壊しようと思ったが、その時まるで今は亡き最愛の妻――アリアドネを自分が殺したような感覚に陥りかける為できなかった。
 何故そう感じるのかは分からなかった。
 だが、もしそれをしたら、自分は「己の手で罪なき最愛の妻であるアリアドネを殺した」と頭が判断してしまい、確実に何をしでかすか分からなくなる。

 発狂してルミエールを殺してしまう恐れがないとも言えない。

 ラースの悩みは増し、機嫌は悪くなるばかり。

 ラースは今日の分の「開発」を終え、ベッドで眠っているルミエールを見る。
 穏やかで幸せそうな寝顔をしている。
 ラースは唇を噛んでから、部屋を後にした。


 あの生き物のいる場所へ来ると、迷いなく奥へと向かい鉄格子を開ける。
「――おい、お前に聞きた――ごふ⁈」
 生き物の触手の鈍く重い一撃がラースの顔を直撃する。
 ラースはその衝撃に耐え、生き物を睨みつける。
「お前はいきなり――何、来るのが遅すぎる? 一か月も過ぎてるんだぞ、その頭の中には何が詰まってるのか、お前の頭は中身のない野菜か、だと?! 何故私は来る度にお前に罵倒させれねばならんのだ!!」
 ラースは奥で蠢く肉色の触手の塊のようにも見える生き物を怒鳴りつける。
 ラースの目の前に細い触手が伸びてきてぐねぐねと蠢いた。
「――何故あの子はお前に依存する、私はあんなにも愛して――ごふ!?」
 再び太い触手にラースは顔をぶん殴られた。
「~~!! 何なのだ!? 何? 愛しているだと、ふざけるのも大概にしろこの大馬鹿野郎、年だけとって愛し方もロクに知らないくせになにをほざく……?! 大概にしろ私は――……」
 ラースはそこで思い出した。


 ラースはこの生き物たちに「漸く落ち着いてきた故お前達にしばし休みをやる」と言っていただけで、アリアドネという最愛の女性を妻とし、彼女がこの生き物達がやっていた治療を行っていた事。
 そしてアリアドネとの間に子であるルミエールを授かり、育てていた事。
 それらを、全く伝えていなかったことに今更ながら気づいたのだ。


 もし、アリアドネの事を知っていたら見せろとか言って駄々をこねてたに違いないし、ルミエールの事を知ってたら同じく見せろと駄々をこねてただろう。
 更に、ルミエールと面識があったら、ルミエールの女性器を成熟させることを、この生き物たちは断固拒否していただろうと、何故か分からないがそんな予感さえした。

 自分の過去の行動が、この生き物たちにルミエールの女性器を成熟また体の開発をさせ、同時に、あの三ヶ月もラースからルミエールを取り上げ、同時に今の様なラースに対して怒りの行動を起こしているのだと。

 過去に伝えなかった事に安堵したが、それ故、いまの問題が起きてしまっている事にラースは戸惑う。
 ラースは悩んだ。




 悩んでいるラースの言葉を、触手はじっと待った。
「――ああ、その通りだ、仕方ないであろう!! 私に近づく者は私を崇拝するか私を殺そうとするかの二択だったのだ!!」
 漸く発せられたラースの言葉に触手は呆れかえる。
『なに偉そうに言ってんだお前は。絶対、お前あの子に愛されてないだろう、むしろ怖がられてる、どうせ見目で気に入って無理やり攫って体改造して力で抑えつけてたけど、逃げられそうになったから、酷い目に遭わせてあんな風にしたんだろう、この大馬鹿め!!』
「ぐ……!!」
 触手がそういうと、ラースは反論できないのか酷く悔しそうな顔をした。
『私達はこんな見た目だが、そういう事を理解は今のお前よりはできているとは言えるぞ。一生の治らない程の傷になっている。後孔を使ったまぐわい、もう一度できるようにするだけの事はしてたんだぞ、まぁ体液とかそういう効能もあるが』
「お前達の治療関係能力が異常すぎるのだ!!」
『お前、どうせあの子が私に依存してきてるのに腹を立てて、体に爪立てたり、噛んだり、強く擦ったり、傷つけたり、苦しい方法でのまぐわいしかしてないだろう、言っておくがあの子はそういうので興奮はできないからな?』
「な……!!」
 触手の言葉にラースは目を見開いた、触手は呆れの動きをした。
 予想通りだったからだ。
『まぁ、前のあの子の性質については言わない、行為を拒絶していたからな。まぁ、今のあの子への対応に関してなら、私の助言を聞くというなら、教えてやる』
「……」
『別に構わんぞー。子を産めるようになっても、あの子から恐怖されて、不幸な家庭を築いてもいいというなら』
「!?」
 ラースの顔が青ざめる、それを見て触手はラースの頭のお花畑具合に呆れかえった。
『で、どうする? 助言聞いて実行しても治らんといっても、さすがに知らんぞ、それまでお前がしてきた行為の酷さが原因だろうし、ぶっちゃけ賭けみたいなもんだからな』
「……それでも良い、教えよ!!」
 ラースの必死な表情に、触手は呆れた。
 なんでそうなるのに、大事にできないのかと。
『――あの子は、甘く優しい甘やかしを求めている、柔らかな愛情を、温もりを、それら与えたうえでの快楽と絶頂、それらが無い状態ではあの子は「怯え」「苦しい」思いをするだけだ』
「……私は」
『そうだな、可能なら当分性行為やめろ』
「な!?」
 ラースが驚愕の表情を浮かべたので軽く頬を叩いて、触手は続ける。
『今、あの子は、お前との、性行為が、苦痛なんだよ!! 分かるか!!』
「な、ならどうしろと……?!」
 触手――生き物は冷たい視線をラースに向けつつ、触手でラースの頬を叩く。
『性行為だけが愛情表現か? 馬鹿かお前、外に――』
「外には出せぬ」
『――じゃあ部屋の中で果実茶でも香草茶でも飲みながら、人型用の甘い菓子でも食べてゆっくり話すとか、そういうのから始めろよ。今のお前じゃ触れるのもダメだ』
「……」
『あ、前も言ったと思うがお前――闇の者とか魔の者とかが飲む茶とか菓子はやめろ、あの子多分食えない、全部吐く』
「わ、分かっている……」
『あの子の食べ物の好みは分かるか?』
「ああ、それは把握している」
 ラースの言葉に触手はちょっと驚いた、予想外だったのだ。
 そして同時に怒りがわいたので、バチンと強く顔を叩く。
『だったら何で最初からそれを用意しない!!』
「そ、それは……」
『なんだ、用意できないのか?! 用意するのが面倒なのか?! それくらい気遣うことも出来んのかこの大馬鹿が!!』
「わ、分かった、何とか用意しよう」
『私達はこの通りだから、「外」がどうなってるかなどは分からぬ、お前が答えぬ限りは私には把握できぬし、多少思考が読めたりするが、全て読める程の万能性はない』
「……」
『ただ、分かるのは、今のお前は「何か」おかしい。遥か昔、私達を保護した時のようでもなければ、私達に休みを与えると言った時、とは違う。お前に何があった』
「……色々とあった、それだけだ」
『――やれやれ、「闇の王」「魔の王」ラース。お前は憎悪と憤怒の塊だが、同時に嘆きの塊であるのも変わっていない、それ故「愛」のぬくもりがやはり羨ましいか』
「……」
 ラースの雰囲気に触手は何かを感じ取る、この「王」は何か隠している、と。
『――まぁ、良い。とりあえず、あの子を自分に懐かせたいのなら、しばらく性行為をやめる――もしくは性行為のやり方を変えろ、三ヶ月で何とか特定状態の性行為ならそれを享受できるようにしたのだぞ。あ、苦しいのも感じられるようにしろと命令してもそれは拒否するぞ、私たちは「快楽」「安寧」「甘い眠り」を好む存在、痛みを快楽へと変貌しろというのは私達の種族的な好みと外れているからできたとしてもすさまじく時間がかかるぞ、確実に孕めるようにするまでの時間の百倍以上は』
「……」
 ラースが額を押さえるの見て、触手は呆れた。
 やはり、考えていたか、と。
『まぁ、お前がそれでいいと言うならあの子は私達がもらうぞ、私達の種を増やすのには他の生き物を使ったは効率がいいからな、それに、あの子は甘い快楽に浸って幸せになれるし、飢えも、苦しい思いもする必要がないからな』
「ふざけるな!!」
『お前がふざけてんだっての。嫌なら、対応変えろ、じゃないと本気でそうするからな』
「っ……」
 ラースは悔しそうな顔をして、部屋を出て行った、乱暴に鉄格子の扉を閉めて。
『どうしてあの王はああなのか、排斥されてきた者達への慈悲と慈愛は持つというのに、何故あの子にそれを与えてやれぬのか』
 触手は呆れたように呟き、元に戻っていった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

恋人が出て行った

すずかけあおい
BL
同棲している恋人が書き置きを残して出て行った?話です。 ハッピーエンドです。 〔攻め〕素史(もとし)25歳 〔受け〕千温(ちはる)24歳

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...