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他の愛と形は違えど

衝撃の事実 ~いや、知らんのはお前だけ~

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 アルジェントは自室にこもり頭を抱えていた。

――やってしまった、言ってしまった!!――

 冷や汗が止まらない。
 抱きしめるまでで止めれたならまだ、出すぎた真似をですむのに、口づけをして「愛している」と言ってしまったのだ。
 主の妻に。

 死ねない自分への罰はどんなものか?

 もしかすると永遠に最愛の存在 ルリと会うことができないようになるのではないか?

 一番の罰はそれだ。
 そうなったらアルジェントは自我を保てなくなると思っている。

――ああ、何と何と許しを請えば、真祖様の、奥方様に、ルリ様にあのような事を――

「おーい、アルジェント。自己嫌悪で忙しいところ悪いんだが」
「?!」
 突然のグリースの声にアルジェントは体勢を崩して尻もちをついた。
「……めっちゃ動揺してんな」
「ぐ、グリース!! 今は貴様の相手を――」
「うるせぇ、呼び出しだ、行くぞ」
 グリースはそう言ってアルジェントの首根っこを掴んだ。
「何をする放せ!!」
 アルジェントは暴れようとするが、不死人になってもグリースには結局力負けし、どこかへと転移させられた。


 気が付くと、見知らぬ華美ではないがどこか荘厳な部屋に居た。
 広いベッドに――かなりの大きさの棺が目についた。

――まさ、か――

 アルジェントの額から冷や汗が流れ始める。
 主である真祖の城で、真祖の忠実な配下であるアルジェント達が基本的に入れぬ部屋がある。
 他者の部屋、主の妻であるルリの部屋、そして――主の部屋。
 他者の部屋は相手の許可があれば入れる、ルリの部屋は許可された者達――現状配下ではアルジェントとヴィオレのみが入れる。
 だが、主の部屋だけは、誰一人として入ることを許可されていない、だからどんな部屋かは分からない。

 それだからこそ、アルジェントは推測できた。
 この部屋は主の部屋だと。

「――アルジェント」
 低いいつも通りの偉大なる主の声に、アルジェントは平伏する。
「……」
 だが、いつものように声がでない。
 冷や汗が酷く、視線も彷徨わせてしまう。
 顔を見る事ができない。
「ルリの事を励まそうとしたようだな」
「は……はい、その、通り、です……真祖様」
「さすがアルジェントだ、お前はルリの事を気にしてくれているな」
「い、いえ……その……」
 アルジェントは挙動不審になった。
 なるしかなかった。
 怖くてたまらないのだ。

「――ルリに対して、告げたそうだな『愛している』と」

 アルジェントから血の気が引く。

「抱きしめて、口づけをして」

 冷や汗どっと流れ更に止まらなくなる。
 否定できない、やってしまったのだから。
 そして、最悪の「罰」を想像した。

「――申し訳ございません!! 真祖様の奥方様に、そのような事をしてしまい――罰は受けます、ですからどうか――!!」

「知っていた」

――……は?――

 主の言葉に、アルジェントの思考が停止する。
 思わず顔を上げる。
 主である真祖は怒った風でもなく、それどころか楽し気な表情をしていた。
 ちらりとグリースを見ればグリースはにやけている、それが若干ムカついた。
「あ、あの、知っていた、とは?」
「だから、知っていた。お前が我が妻――ルリの事を『愛している』事など、お前がルリの情報を見た時から知っていた」
「え……?」
 アルジェントは上手く頭が働かなくなっていた。
「あの、その、それはつまり――」
「うむ、お前がルリに恋をして、愛している事を知ってて世話役にした。別にお前がルリを口説いても咎める気などないし、ルリがお前を選んだら納得して受け入れる。以上」
「な……」

「何ですかそれは――?!?!?!」

 アルジェントは信じられない、信じたくない事実を聞かされ絶叫した。




「――アルジェント、落ち着いたか?」
 頭を抱えてぶつぶつと呟き続けているアルジェントにグリースは声をかけるが反応が返ってこない。

――まぁ、だろうなぁ――

 一番知られてはいけない存在が「知っていた」挙句「知っていて世話役」にしたなんて言われたら嫌がらせともとれる。
 だが、「口説いても構わない」とか「選んでも受け入れる」とか早々に言われていたのだアルジェントは。
 そうなると嫌がらせでは無くなってくる。
 恋敵に助言をするとかそういう次元ではない。


 だが、ヴァイスは既にルリに「誰を愛しても構わない」という内容ともとれる発言をしている。
 人間等とは違い、其処うぃヴァイスは破らないだろう。
 ただ、問題なのは――ルリがヴァイス以外を愛した時と「誰も愛せない」場合だ。
 ヴァイス以外を愛した場合ルリの扱いがどうなるのか、気にはなる、そして予想ができないが悪いことには多分ならないと思う。

 一番気になり、問題になるのは「誰も愛せない」場合だ。

 ルリは中身は愛された事と愛する事を知っている、ただ一つ。
 恋愛という事柄に関しては経験も感覚もよく分かっていないのを、これまでのルリの反応からグリースは推測している。


 それはルリの不死人になる前の人生にもある。
 ルリは恋をしたことがない。
 ルリは誰かが自分に恋などするわけがないと思っている。

 間違いはそこにある。
 ルリに恋をする者は、居たのだ。
 だが、ある物はアプローチの仕方から彼女から嫌われ、ある者は彼女の友人達等に妨害されていたのだろう。
 その結果、ルリは誰かに恋をすることもされることも分からないまま今まで生きてきた。

 他人の恋愛模様も、彼女に「恋」という感情をそう言った意味合いでの誰かを「愛する」という事を理解させることはできなかった。

 故に、ルリのその箇所だけがまだ分からないのかもしれない。


 それとも、最初からそういう意味合いで誰かを「愛する」ことができない存在なのか。


 グリースは心の中で息を吐く。

――問題はまだまだ出てきそうだ、さてこれからどうなるやら――


「おい、アルジェントいい加減現実逃避止めやがれ」
 未だに蹲ってぶつぶつと呟き続けているアルジェントに、苛立ちを覚えたグリースはアルジェントの背中を蹴り飛ばした。
 しかしアルジェントはいつものように、グリースに食って掛かることはせず、現実逃避を続けている。
「……おいヴァイス、この馬鹿無視して俺とお前でルリちゃんの争奪戦する?」
「ふざけた事をぬかすな貴様――!!」
 グリースがわざとらしく言うと、漸く我に返ったらしいアルジェントが激怒してグリースにつかみかかってきた。
「何? お前ルリちゃんの心を射止める真剣勝負、やらないんじゃねぇの?」
「ルリ様は真祖様の奥方様だ!! ふざけた事を言うな!!」
「じゃあ、つい先ほどその奥方様口説いたの誰だ?」
「ぐ……!!」
 グリースはあえて、アルジェントがやらかしてしまったと思っている内容を指摘した。
「つかさ、アルジェント、ヴァイスの奴お前にも言ってるだろ、ルリちゃん誰を愛するか楽しみで仕方ないって、なぁ、ヴァイス」
「ああ、言ったはずだぞグリース」
「ですが、あれはどう考えても質の悪い冗談にしか聞こえませんでしたし……」
「ほほう、お前がルリを愛していると知っていて、そんな『質の悪い冗談』を口にした私は相当嫌味な輩ということになるな」
「そ、そのようなことは――」
 いつもなら配下に対しては威厳のある表情をしているヴァイスまでもが、何処か愉快そうで、黒い笑みを浮かべている。

――いやぁ、俺もお前も、こういう時は性格が悪いよな!!――

 グリースはそう思いながら、ヴァイスと共にアルジェントを言いくるめ始めた。





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