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おとずれた変化

厄介ごとばかりで気が滅入る

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――てめぇは何で余計な事ばかりしやがる――

『お前が何もせぬからだ!!』

――それが余計だっつってんだろ、自分勝手もいい加減にしやがれ――

『何故お前は理解してくれぬのだ?』

――てめぇも俺達の事を理解しようとしないのと一緒だ、いいか彼女に手を出したらその時は俺も本気で何するか分からねぇからな?――


「……」
 グリースは目を覚ました。
 いつもの自分の住処の天井が視界に入る。
 起き上がり、深いため息をつき、白い髪をかきあげる。


 最初の不死人であり、不死人の「王」であるグリースは多くの事ができる万能性がある。
 だが、全能ではない。

 死んだ者を生き返らせることはできない。
 未来を完全に予知することもできない。

 予想し、妨害することはそれなりにできる。
 相手の能力を図ることができる。

 誰も話すことができない――と話すことができる。
 そして唯一「不死人」を殺せる存在でもある。

 ただ、不死人を殺せると言ってもグリース以外の不死人であって、自分自身をグリースは殺す事はできない。


「……厄介ごと続きで嫌になるぜ」
 ベッドから離れ、着替えながらぼやいた。


 真祖であるヴァイスの城だ、内通者で、城の術式に詳しい物でなければあの結界は張れない為、予想通り内通者が居た。
 ヴァイスに仕えている者の中で古株の存在の一人だった。

 その吸血鬼は、主であるヴァイスが「不死人の女ルリ」にあまりにも執着しすぎている事を危惧した。
 その結果、多くのこの国の民がそれに対し「苦言」を言ったところ、ヴァイスと「不死人の女ルリ」の召使いになっている魔術師が激怒し、場合によっては死ぬ、生きてても当分治療をしなければならない程の大怪我を負う、吸血鬼であっても。
 そんな存在を置いていてはこの国の為にならない。

 そう思ったようだ。
 だから吸血鬼は「不死人の女ルリ」を国から排除しようとして、吸血鬼は今回「不死人の女ルリ」を欲しがる連中に接触し、そして事件は起きた。


 結果、ヴァイスの怒りは頂点状態になった。
 吸血鬼の一族全てを拷問刑の後死刑にすると言い出した。

 なので、グリースが宥めた。

『それやったら、ますます……お前の奥さんの立場が悪くなるだろう?』

『とりあえず、落ちつけ。気持ちは分かる』

 色々言いくるめて説得した。
 アルジェントはヴァイス同様一族全員死刑で良いと思っていたようだったし、ヴィオレも一族全員死刑とはいかないが相当重い罰を与えるのがいいと考えていた。

 グリースも正直全員皆殺しにしたい気持ちはなくはなかったが、ルリの立場を優先した。

 グリースはルリの身を危険にさらした事ではなく「真祖の城に真祖の命を狙う輩を招き入れ、そして負傷者などを出し、真祖の手を煩わせた」という点を罰する様に言った。

 アルジェントとヴィオレはふざけるなとグリースに抗議してきたが、ヴァイスが黙らせる。
 グリースは続けた。

『そのような輩と接触し、主への危険性や他の城にいる者達への危険性などを全く考えずに、自分の都合でこの事件を引き起こした。だからこの永遠に城から追放しろ。主犯のこいつ「炎獄の島」へ追放しろ、其処から死ぬまで出すな。一族関係者は二度と城に入れるな。そして城の構造を定期的に変えろ、それ位はできるだろう?』

 ヴィオレとアルジェントも目を丸くする。

 炎獄の島とは二千年前にヴァイスとグリースが殺し合いをした時にできた、グリースの炎――吸血鬼を苛む光と熱がそこら中に燃え上っている島だ。

 人間なら熱さで一日で死んでしまう島。

 千年位前に、ヴァイスの依頼でグリースは其処に牢獄を作った、吸血鬼専用の牢獄を。
 血を供給する箇所は有るが、牢獄にいても炎の光と熱は伝わる、吸血鬼を拷問し続ける牢獄の島。

『お前の城に愚者を招き入れたんだ、これくらいが妥当だろう?』

 グリースはそう笑って吸血鬼を見ると、吸血鬼は震えあがっていた。
 そうだ、どれほど日の光に強くても、グリースの憤怒の炎には勝てないのだ。

 拷問刑や死刑の方がまだマシ。
 永い間苦しみ続けるのだ、牢獄の中で、灰になるその時まで。
 もしくは、ヴァイスが恩赦を与えるその日まで。

 グリースの提案にヴァイスも納得した。
 吸血鬼はひれ伏し、許しを請うがヴァイスは許さず、自分の怒りが収まるまでそこにいるよう命令を下した。

 ヴァイスが決定したので、グリースは頼まれるままその吸血鬼をそこに連れていき牢獄にぶち込んだ。
 苦鳴が聞こえたが、グリースは素知らぬ顔で城に戻った。

 その吸血鬼の血族は城への立ち入りは禁じられ、入れなくなった。

 ヴァイスは城の構造も少し変え、ルリの部屋の階層も変えた。
 勿論ルリは気づいていない。


 そして人間の国の方。
 実行部隊以外の連中を全員確保、処遇をグリースを挟んで、ヴァイスと向こうの担当者達と決める事になった。

 大体、問題ごとを人間側が吸血鬼に対して起こすと吸血鬼側はヴァイス、監視役にグリース、人間側は担当者たちという風になる。

 吸血鬼側でヴァイス以外をその場に置くと収拾がつかなくなるのだ、ヴァイスがどうにかしない限り。

 二千年前の戦争も発端は人間側にあった。
 この二千年の間起きた問題も全部人間側が起こした事柄。

 結果、吸血鬼の国――ヴァイスの配下達は人間側を糾弾するのだ。
 冷静にではなく、感情的に。

『貴様らは何一つ反省していないではないか!!』

 そう糾弾する。

 そうなると話が進まないし、感情的になっている連中にはグリースの脅しも大した意味がない、怪我をしても名誉の負傷扱いになる。

 だから、ヴァイスは一人で話合いの席に着き、グリースを仲介者として必ず出席を頼む。

 グリースを仲介者とするのは、ヴァイスが怒りで担当者達を殺すのをおさえる役割も持っているし、隠しているであろう情報を全て出させるのも目的である。
 二千年前の盟約を結ぶ時はヴァイスはいつ担当の者達を殺してもおかしくない憤怒の感情を抱え込んでいた。
 その間の問題でも、担当者からの発言で担当の者を殺そうとした事がない訳ではない。

 先日の襲撃事件に関しては、ヴァイスは激怒している。
 表向きには襲撃事件、本当は自分の妻であるルリを強奪しようとした事件。
 しかも不死人だからという理由で怪我もさせられた。
 不死人だから怪我はすぐ治ったし、痕も残っていないが、最愛のルリに非道な行為を行った事に関してはヴァイスは許すことができない状態にあった。

 二千年ぶりに緊迫した会議となった。

 グリースは担当にさせられた人間側の人物達が少しだけ可哀そうだったが、自分の国の問題も対処できない、挙句今回以外の件でもヴァイスの怒りを露わにさせるような事をやらかしてきたので、仕方ないとも思った。

 内容としては「こちらの不手際」「監視していた者が向こう側に回っており、監視できなくなっていた」「『聖人』に関しては特殊刑務所から死ぬまで出さない」等色々あった。

 ヴァイスは納得しなかったが、グリースが無理やり納得させた。

 納得させるのにかなり手間取ったが、此処でヴァイスが何かしでかすと巡り巡ってルリの身が危なくなるのが目に見えていたからだ。

 グリースは再度各地域や監視員の調査等細かく人間側に要望を出し、ついでに人間の方でもこの件は不死人ルリの事は伏せ、真祖ヴァイスの命を狙った物と扱うように言った。

 ルリの事が少しでも公になれば、ルリの立場が危うくなる。
 故にグリースは徹底させた。


「……それにしても、なーんかこれからも問題が起きそうで俺すっげぇ嫌な感じするんだよなぁ……まぁ、可愛いルリちゃんの為なら頑張るけどさ」
 グリースはそうぼやくといつものように食事を済ませ、服を着替えて身だしなみを整えて、ヴァイスの城――ルリの元へと向かった。




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