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おとずれた変化
寝てる時は来るな!! ~愛しい貴方の御傍に~
しおりを挟むグリースが居なくなった後、ルリはベッドに寝っ転がった。
ベッドの上でふぅとため息をつく。
窓の外をちらりと見る。
相変わらず外に、城の庭にも出してもらえないなと、ルリは思った。
ただ、グリースの話を聞いて出してもらえないのも納得してしまう。
以前真祖からヴィオレとアルジェントは薬で抑えていると聞いた、だがそれを作るのは大変だから配ることができない。
薬を飲んでいない吸血鬼や人間と今で会えば、自分がどうなるか分からない怖さがあった。
人間じゃなくなって不死人になっただけでも色々と大変だったのに、他の不死人と違うというのがまた面倒だった。
――せめて他と同じだったら良かったのに――
ルリはそう思いながらなんだか眠気を感じたのでそのまま目を閉じた。
アルジェントは自室でガリガリと指を爪を齧っていた。
――忌々しい、忌々しい、忌々しい!!――
血が滲む程指を噛む。
最愛の女性に馴れ馴れしく近づく、グリースの事がアルジェントは忌々しくて、憎くて憎くてたまらなかった。
そんな忌々しい存在に、自分の絶対言えない事を知られているのが酷く腹立たしかった。
――術で厳重になっているこの部屋をどうやって、ああ、くそ、認めたくない!!――
ガリガリと、より強く指を齧る。
忌々しいグリースは、どの分野においても優れていると主が言っていた。
それはアルジェントが得意とする魔術の分野でもそうなのを認めざる得なかった。
己の得意分野をぶつけて勝てればよいのだが、それが無理なのは分かっている。
アルジェントの最愛の人――ルリの前では、未だ使ってはいない、使っていても「風」だ。
だが、グリースの本質魔術の得意とするものは「炎」。
アルジェントの「氷」で「炎」を防げればいいのだが、それはできないのが主の言葉で分かっている。
グリースは絶対零度の星々さえも炎で焦がして消し去った過去がある。
グリースは二千年前、主との闘いで多くの星々を炎で焦がして消し去り、炎を宿す星の命を喰らい、その悍ましい炎で主を瀕死に追い込んだ。
この星にも、グリースの炎で焦がされて今もなお燃え続ける場所はいくつも残っている。
だが、全て立ち入り禁止になっている。
立ち入った者は皆その炎で焼け死ぬからだ。
主は「あの炎はグリースの憎悪の炎だ、不用意に近づけば憎悪に焼かれる」という言葉を皆に言っていた。
アルジェントはだからこそルリにグリースを近づけたくはなかった。
グリースは今ルリの事を「愛している」などと言っているがアルジェントは心変わりしないという保証などないと思っている。
心変わりをして、ルリに危害を加えるかもしれない。
恐ろしい炎であの愛らしい、美しい体を焼くかもしれない、その時自分は何もできない、助けて差し上げることができない。
永遠に焼かれ続ける拷問。
――ああ、やはりアレは近づけてなるものか。ルリ様に、近づけさせてはならない、ルリ
様の御心を、グリースにだけは渡してはなるものか!!――
ルリの部屋を覆っていた結界が消えるのを感じ取りアルジェントははっとする。
齧った指の傷跡を術で治療すると、手袋をはめて、急いで自室を後にした。
ルリの部屋の前に立ち、鍵を開けて中に入る。
部屋に入り、扉を閉じ、鍵をする。
部屋を見渡すと、ルリがベッドに横になっていた。
アルジェントは急いで近づき、そっと触れる。
術の痕跡はない。
そのことにアルジェントは安堵した。
服も乱れた痕跡はない、自分が入れない間に、グリースに何かされたわけでもない事にも安心する。
もし乱暴を働いた痕跡があったりしたら、次会った時容赦なく「殺し続けて」やる。
そう思いながら、ルリの様子を見る。
無防備な姿だ。
安全な場所と思っていてくれているのか、部屋に入ってきても起きる様子はなかった。
もしここを安全と思ってなかったら、きっと目を覚まして警戒していただろう。
そっと頬を撫でる。
柔らかな温かい肌。
薄紅色の唇に触れる。
柔らかい。
真っ黒な肩まで伸びた髪を撫でる。
さらさらとしていて艶めいている。
もっと触れたいという願望が芽生えるが、アルジェントは堪えて手を離す。
じっと眠っているルリを見つめる。
愛らしく、美しい、愛しい人。
身勝手なのも、身の程知らずなのも重々承知だったが、アルジェントは焦がれずにはいられなかった。
だが、自分は愛を語ってはならない、アルジェントは主の奥方の世話役という立場。
だから口にはしない、それを表には出してはならない。
アルジェントは隠し続けることを自分に強いた、ルリを愛している事を、ルリに愛してほしいと願っている事を。
ルリが目を覚ますと夕方になっていた。
「ふぁ……」
ベッドから起き上がり欠伸をする。
「ルリ様お目覚めですか」
「おぅいぇ⁈」
ルリは奇声を上げてびくりと跳ねる。
目を覚ましたら、アルジェントが部屋にいたので驚いたのだ。
「い、いつから?」
「少し前です」
「そ、そう」
ルリはアホ面晒して寝ていたんじゃないかと思い、寝顔を見られたんじゃないかと少し恥ずかしくなった。
「……寝顔見てないよね?」
不安になってアルジェントに尋ねる。
「お美しい寝顔でしたよ」
――あんぎゃああああ!!――
ルリは色々恥ずかしくなった。
アルジェントの言ってる事今では「真祖の奥方だから失礼な事は言えない」なのか「恋は盲目状態」なのか分からないので、どんな寝顔を晒していたのか全く分からないのだ。
ついでに、寝る時と同じ状態だったが、どんな寝相をしてたか分からない、起きる時たまたま寝相が元に戻っただけかもしれないからだ。
「あばばばばば」
ルリは毛布を被って丸くなった。
「ルリ様?」
「……アルジェント、お願いだからから私が寝てる時は何も言わずに部屋から出てください、いやまじでお願いします……」
「何故でしょうか?」
毛布を被ってるので顔が見えないが、アルジェントの言葉通りの声をしている、分からないから教えてほしい、そんな声だ。
「うぐぐぐぐ……寝顔がアホ面晒してたら見られたくないの!! あと私寝相あんまりよくないってお母さんに言われてるし!!」
ルリは説明が嫌だったが、言わないと分かってくれないので毛布を被ったまま、自棄になったような声で言う。
「――そんなことはございません」
「あ゛~~も゛~~!!」
アルジェントの言葉の略されている箇所が分かりルリは頭を抱えた。
略されている内容を含めると「そんなことはないので、今後も寝ている時部屋に入らせていただきます」という言葉になる。
「ルリ様」
「ああ、もう何!!」
ルリは毛布を被るのを止めて体を起こす。
体を起こすと、アルジェントが近づいてきた。
「申し訳ございませんが、こちらに来ていただけませんでしょうか?」
「……いいけど」
ベッドの傍にはよるが、ベッドに乗っかるという行為はできないアルジェントの言葉に、ルリはアルジェントに近づき、ベッドの端に腰をかけるような状態になる。
アルジェントが身を少しかがめた。
顔を両手で包まれる。
「?!」
今までにない位顔が近い。
「ルリ様、貴方は愛らしくお美しいお方です。そのような自分を卑下するお言葉は言ってはなりません」
真面目な表情、本気でそう思っていっているのが分かる。
正直非常に恥ずかしい。
「寝相? それがどうしたのです、大抵の者は寝相がどうなるか分かりません、寝相があまり変わらないのは棺で眠る吸血鬼位です」
真剣な表情で言う、アルジェントの顔が近い、人間の頃テレビで見た美形とか言われる芸能人よりも遥かに整って綺麗で格好いい顔が間近にあるのは非常に照れる。
ルリの顔が少し赤く染まっているのを見て、アルジェントははっとした様に顔を包んでいた手を離して、立って、少し距離を取り頭を下げた。
「お顔を触り、私の顔を近づけてしまい申し訳ございません」
「あ、う、うん。別に気にしてないよ、うん」
ルリはそう言いつつ少しだけ視線をそらした。
漫画で見るようなドキドキする感覚は無かった事に、ルリは、自分はまだそういうのが理解できないんだと少しだけ残念に思った。
アルジェントは必死に表情を変えない様に意識した、顔色を変えない様に意識した。
照れたような顔、初めて見る顔。
何より、今までにない程間近顔を見て、そして手袋越しとはいえ手で顔をあれ程長い間触っていたのだ。
心臓の音が酷くうるさい、気を抜いたら顔を真っ赤にしてしまいそうだった。
――嗚呼、もし許されるならあのまま口づけをしたかった――
身の程知らずの己の願望を押さえつけ、平常心を保ちながら、ルリを見た。
顔を反らしていたルリはこちらを見ていた。
「……ですので、ルリ様がお眠りの時部屋に来ても緊急の用でなければ起こさず、見守らせていただきます」
「あー……はい」
ルリは何とも言えない表情をしていた。
ルリの言い方は、面倒だからもういいや、と言う感じの物だった。
アルジェントは、自分は何を間違えたのかと、悩んだが、ルリの身の安全の為だから当然と割り切ることにした。
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