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真祖に嫁入り~どうしてこうなった~
盟約の不死人とご対面 ~初めまして可愛いらしい人~
しおりを挟むルリが城に来てから一週間が経過した。
「ふぁ……」
その日、ルリは早朝目を覚ました。
どう見ても、アルジェントとヴィオレは来る時間帯ではない。
もうひと眠りしようと思ったが、中々寝付けないので起きて着替えることにした。
あの二人が起きてると服も向こうが決めてしまうが、自分が早起きすれば楽な恰好ができるので、次回からも早く起きれたらなぁと考えていた。
「へー、盟約でヴァイスの嫁さんになった子、どんな子かと思ったら可愛いじゃん」
「?!」
ルリは見知らぬ声に反応し、声がした方を見てしまう。
そこには白い髪に灰色の目の、何処か中性的な印象の人物が窓に寄りかかって立っていた。
「だ、誰?!」
ルリは驚いて距離を取る。
「そんなに驚かないでくれ、俺は君に会いたくて来たんだ」
「わ、私? というかどうやってこの部屋に……」
その人物は窓に寄りかかるのを止めて丁寧に一礼すると、ルリの方を見て笑った。
「初めましてルリちゃん、俺はグリース。不死人のグリース」
「え」
この人物の言葉が事実なら、ルリは初めて自分以外の不死人と遭遇したことになる。
「別名盟約の不死人。とも呼ばれている」
「盟約……え、盟約って……」
「そう、二千年前に吸血鬼と人間の間に結ばれた盟約、それ結ばせたの俺なんだよ」
その人物――グリースは淡々と述べた。
「……ちょっと待てつまり……」
ルリは少し考えてから、大股でグリースに近づき服の襟をつかんで揺さぶる。
「お前が諸悪の根源かあああああ!!」
「ははははは、たんまたんま!! それは誤解だよルリちゃん、俺は盟約を結ぶようにいっただけで内容を決めたのは二千年前の人間のお偉いさんとヴァイスだよ」
「……ヴァイス?」
「あれ、あいつ、嫁さんにも名前教えてなかったのか? 真祖のことだよ、真祖の名前はヴァイス、まったく嫁さんに位教えとけよ」
ルリはグリースの服から手を離した。
グリースは手を離すと笑みを浮かべたまま、窓に寄りかかった。
「戦争の原因知ってる?」
「知らない……」
「ヴァイスの奥さんと息子さんを人間が殺したからだよ」
グリースは淡々とルリに伝えた。
「え……」
「奥さんは人間、息子さんはハーフね、両方とも人間のために色々やってたのに、それをよく思わない連中が二人を殺しちゃったのさ」
真祖の口からではなく、会って間もないグリースから真祖の過去を告げられルリは戸惑った。
何で自分にそんなことを教えるのだろう、この人物は、それを知った自分はどうしてほしいのだろうと、頭がぐちゃぐちゃになりだす。
「不死人ってことは……グリースは元人間だったんでしょう? どうやって説得したの?」
「あ、俺ね戦争時も穏健派の吸血鬼と人間の集落に住んでてね、吸血鬼と人間の義理の両親と義理の兄弟達と吸血鬼の恋人二人と暮らしてたんだけど、吸血鬼と人間、両方に襲撃されて全員殺されて俺も一回死んだの」
「え」
ルリは悲惨に感じる内容をなんでもないことのように言うグリースに戸惑いを覚えた。
「でさー不死人だったから死んだけど死ななかったわけよ、俺一人だけ生き残ったわけ、憎かった、吸血鬼も人間もみーんな憎かったから――」
「殺して、殺して、殺しまくった」
「老若男女、人間吸血鬼問わず殺しに殺しまくって――両陣営を追い詰めた」
教科書にも書いてないことを言われ、ルリはただ聞くしかなかった。
「そこまでいって、これじゃ俺、恋人とか友達とか家族殺した連中以下になってるじゃん、って自己嫌悪に陥った」
グリースは淡々と続ける。
「滅亡に追いつめられてる両陣営に俺は提案した、盟約を結べ、二度と戦争しないという盟約を、じゃなきゃ滅ぼすと」
「……返答は?」
「両陣営その提案を飲んだよ、じゃなきゃ滅ぼせる力を持った奴に滅ぼされちまうんだからな、生きるか死ぬか、反発した奴らはいたが――」
「みんな俺が見せしめに殺した」
恐ろしいことを平然と言うグリースが、ルリは酷く怖い存在に思えた。
「盟約を決めてる時、真祖が俺に尋ねたんだ『お前は死ねぬのか』と、俺は答えた『二度と死ねない』試しに色んな方法で死んで見せた、でも――体は元の状態に戻った、何をしても死ねないと理解した真祖はこう言った『もし、不死人の女がこの世に現れたら私の妻にさせよ』とな」
「え、なんで?」
「それは俺も分からない、真祖の言い出した言葉を人間側は飲んだ。だから盟約に『最初の不死人の女は真祖の花嫁とする』という内容も入れられた」
「あんた否定しなかったの?!」
「俺男でも女でもないから、ま他人事だったんで別にいいかなーって」
「やっぱりアンタも諸悪の根源だ!!」
「そんな悪くいわないでくれよ」
グリースは肩をすくめる。
「一応、待遇は悪くないけど、立場的にやばいことには変わりないから、今までの平穏な人生と縁遠くなったどうしてくれる?!」
「それは悪いことしちゃったなぁ、ルリちゃん平穏な生活に戻りたいんだよね、じゃあさ」
グリースはルリを抱きしめた。
「俺の奥さんにならない? 俺なら奴も手だしできないよ?」
グリースの言葉に、ルリは戸惑う。
「そうしたら、ここに閉じ込められっぱなしってこともないし、いつか抱かれるって不安も抱かなくて済むし、政府の連中は手出しできないし、家族だけじゃなく、友達とも会えるように俺がルリちゃんの体質とかも何とかしてあげる」
グリースの囁きが、ルリにとって悪魔の囁きのように聞こえた。
「それと、俺の奥さんになるなら、俺の事を愛さなくてもいいよ、俺は君の事をずっと愛してあげるけど――」
「私の妻に何をしているグリース」
闇がグリースの腕の中から、ルリを引きはがし、ルリを包むと人の形を成す。
それは真祖だった。
「やぁヴァイス、元気だねぇ、そして殺気ばりばりじゃん」
グリースは笑い顔のまま手をひらひらさせている。
真祖は怒りを隠すことなくグリースに向けている。
ルリは真祖の腕の中で、困惑していた。
「それに今おねむの時間なのに起きてくるなんてすごいなぁ、奥さんの為って言っておきながら本当は自分の為に部屋に閉じ込めているのに」
「貴様、その口引きちぎってやろうか?」
「それは御免こうむる! 死ぬ位やつなら痛みはそこまでないんだけど、死なないレベルだと痛いのはめっちゃ痛いからな!」
グリースは両手を上げた。
表情は相変わらずへらへらとした笑い顔だが。
「――でルリちゃん、どうする? 君が望むなら俺ヴァイスのこと倒して君を開放してあげられるよ」
「貴様……!!」
「でも、そんなことしたらまた戦争が……」
「俺がどうにかする」
グリースは初めて真面目な顔をした。
ルリは思わず手を伸ばしそうになった、がその腕を真祖がすさまじい力でつかみ手を伸ばさせてくれなかった。
「はーん、本人の意思をそうやって邪魔してまで奥さんを手元から離したくないんだぁ」
グリースはやや軽蔑の眼差しを真祖に向ける。
「ルリ、今のそいつは愉快犯だ、甘言に惑わされるな」
「愉快犯とはこれまた酷い!!」
グリースは大げさに肩をすくめる。
「ルリちゃん、言っとくけど俺は嘘は言っていない。君が望むならいつだって君をここから出してあげよう、戦争だって起こさなようにしてあげよう」
「――戦争を起こさないだと? 反論した者は皆殺しにするの間違いだろう」
真祖は怒りと軽蔑の表情でグリースの言葉に反論する。
「それが一番てっとり早いだろう?」
グリースは悪びれもなく答える。
ルリは困惑した、真祖は自分を気に入ったと言ったが飽きるかもしれない、飽きることがなくても立場は今でも非常に危うい、だから自分には自由はない。
世話役のアルジェントとヴィオレには違和感を多少感じるものの、酷い扱いはされてはいない、ただこれがいつまで続くか分からない不安がある。
だが、グリースは何故か信用できるとあったばかりのはずなのに頭がそう認識してしまっている、彼は自分を永遠に愛して、自分に自由をくれるだろう、と。
「ヴァイス、ルリちゃんはお前の事を信用しきれてない、分かってるだろう?」
「……」
「ヴァイス、二千年もの間に愛する人の正しい守り方を考えれなかったのか?」
「……貴様が言えたことか!!」
「俺は守るよ、世界を踏みにじってもね、ルリちゃんとルリちゃんの大切な人だけは守る、奪われるのは一度で十分だ」
グリースは真面目な表情で言い、真祖は警戒をあらわにした表情をしている。
「それにしても寝ている時にしか、触れないなんて、お前も不法侵入じゃないか」
「……は?」
「……」
「あーそうか、ルリちゃん熟睡してるから知らないよね、そいつルリちゃんが眠ってからルリちゃんの部屋に来てルリちゃんに何かしてるよ」
「はぁ?!」
グリースの言葉はルリにとって爆弾発言だった。
何もして来ないと思ったら、寝ている時に部屋に来て、何かしてる、と言われたのだ。
「……グリース貴様悪意のある言い方はやめろ、私はルリの寝顔を見ただけだ、他には何もしておらん!!」
真祖はグリースに対して反論する。
「……本当ですか?」
真祖の言葉にルリは少しばかり疑惑の眼差しを向けた。
「ルリ、本当だとも」
真祖は真面目な表情になり、答えた。
ルリの感覚的に、嘘はいっていない、と頭が認識していた、違和感は少しばかりあるが、嘘ではないなら、いいだろうとルリは納得した。
それよりも、真祖に抱きしめられてて、非常に、苦しい、すごく痛い、圧が強い、多分人間だったら内臓が出てるかもしれない。
「やれやれ、抱きしめ方がなってないねぇ」
グリースがそう言うと、灰色の風が吹いて視界と感覚が少しの間途切れる。
風が止むと、真祖の腕の中から、グリースの腕の中に移動していた。
グリースは、優しく頬を撫で、髪に触れ、唇を撫で、優しく抱きしめてきた、初めてされる優しく何か落ち着く抱きしめられ方に少し頭がふわふわしてきた。
目も慈愛に満ちて、何故か分からないけどとても安心する。
「グリース!! 貴様大概にせぬか!!」
真祖の怒声でルリは我に返る。
真祖は今度は力づくでルリをグリースの腕から引き離し、自分の腕の中に収めた。
「おお、怖い怖い」
グリースはとぼけた風に言った。
「ヴァイス、お前は何をしたいんだ? こんな『鳥籠』の中に閉じ込めて、世話はする、まるで愛玩動物みたいじゃないか。それがお前の守り方なのか? 愛し方なのか?」
グリースはそう言ってその場から姿をすぅっと消した。
残ったのは、ほのかに甘い香りだけだった。
グリースに抱きしめられた時に香ってきた、優しい甘い香りだった。
「……」
あの時、手を握って連れ出してと言ったら連れて行ってくれたのだろうかとルリは思った。
そしたら、家に帰してくれるのだろうかと。
安定しているように見えるのに、酷く不安定で心の中では怖くてたまらない現状から逃がしてくれたのだろうか、と。
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